have a nightmare

 最近夢見が良く無い。

 今までも何度か嫌な夢を見た事はあったがこんなに長い期間続くのは初めてだ。もう二週間ほど続いている。段々と日常生活にも支障をきたす様になって来てしまった。

──幼馴染のダンデくんが、死んでしまう夢。

 方法は様々。ナイフで刺されたり事故に遭ったり、それをニュースで知ったり。目の前で苦しんでいる姿を見せ続けられた夢は嗚咽と涙が止まらなかった。目が覚めても暫くは呆然としてしまったくらいに。

 私の様子がおかしい事に早くから気付いてくれていたソニアが今日、相談の場を設けてくれた。研究所まであと少しで辿り着く、その時だった。

「やあ!ナナシじゃないか!」

 後ろから掛けられた声。……今一番聞きたくない声。

「……、ダンデくん。偶然だね」
「ナナシも研究所へ用があるのか?」
「うん、ソニアにね……」

 じゃあ一緒に行こう!と反対方向へ歩き出すダンデくんの袖を慌てて掴み研究所までの道を歩く。でも、このままだとソニアに相談出来そうに無いかもしれないと小さく息を吐く。

──大丈夫。これは夢じゃない。ダンデくんは死んだりしない。

「ナナシ?」
「な、なあに?何か珍しい物でもあった?」
「いや……。キミ、顔色が悪くないか?」
「っそんな事ないってば!ほら、研究所着いたよ!」

 納得していなさそうなダンデくんをよそに、玄関の呼び鈴を押す。と、すぐにソニアが出迎えてくれた。ダンデくんと私が一緒にいる事に驚いている。いつも突然押し掛けるのは良くも悪くもダンデくんらしい。

「びっくりしちゃった!二人で訪ねてきたのってジムチャレンジ前とかじゃない?」

 そう言いながらソニアがお茶を出してくれる。ふわりとダージリンの良い香りが辺りに漂う。
 ダンデくんは入って早々二階の本棚へ向かってしまった。

「そうかも。お茶ありがとうね」
「ふふ、おばあさまの良い茶葉貰っちゃった!」

 内緒よとソニアと秘密の共有。なんだか久しぶりの感覚で楽しくなる。
 暫く近況報告をお互いしあい、ソニアがティーポットにお湯を足して戻ってきた頃。いよいよ本題をソニアに持ち掛けられる。

「で?最近どうしたのよ。他の子達もナナシが元気無いって気付き始めてるよ」
「え、そうなの……?んー……と、実は……ね?」

 少しだけ息を大きく吸い込み深呼吸をする。

「最近、……二週間くらい前かな?そのくらいから変な夢を毎日見るようになって……」
「変な夢?」
「うん。……ダンデくんが、死んじゃう夢」
「ダンデくんが!?」

 驚いたソニアが二階にも聞こえそうな大声で叫ぶので手を伸ばし口を塞ぐ。ダンデくんに聞かれたらややこしい事になる。

「っとと、ごめん。……なんでまたそんな夢を」
「分かったらこんなに悩まないよ……」
「そ、それもそうね……」
「毎回方法は違うし、予知夢とかでは無さそうなんだけど……」
「そもそもそういうのは無縁だしね。……そうだ、ちょっと待ってて」

 席を立ったソニアが研究所の奥へ向かう。すぐに分厚い本を持って戻ってきた。

「じゃん!夢占い辞典!これによると……。うーーん、悪い夢では無いみたい、ね。逆に吉夢が多いって!」
「ほ、本当?」
「ただ……『自分自身に不満やストレスが溜まっている場合があります』だって。……他に悩んでる事は無いの?」

 ジッと薄いメイクでも十分長いまつ毛をパチパチしながら見つめられる。

「んー……。他は特に何も。この夢がストレスそのものになってるだけ」
「そっか〜。……あ」

 ダンデくん、とソニアの声に横を向くとダンデくんが二階から降りてくる所だった。にこやかに笑いながらこちらに近づいて来る。

「ソニア、この本借りてくぜ!」
「はいはい。ちゃんと返しにきてよね」
「ああ!……ところでナナシ」

 こちらに顔を向け話しかけられる。

「キミ、悪い夢を見るのか?」
「えっ、う、うん……。そうなの」
「だったら丁度いいのが居るぜ!」

 ゴソゴソとボディバックを漁りモンスターボールを一つ渡される。

「え?」
「ムンナだ。キミの悪い夢を食べてくれるさ」

 ボールを持っていた手に大きい手を重ねられた。かと思うと真ん中のスイッチを押し微睡んでいるムンナを外に出す。

「ム〜……?」
「この前偶々育成放棄されて捨てられていた所を保護したんだ。よかったら側に置いてみると良い」
「あ、りがとう」

 ムナ〜と楽しそうにすり寄って来るムンナを撫でる。『ゆめくいポケモン』。この子にあんな夢を食べてもらうのは申し訳ないけど、でも今は頼るしかない。

「ナナシ、オレはもう帰るがよかったら送って行くぜ!」
「……それって、ダンデくんが道案内して欲しいだけでしょ」
「どうだろうな!」
「ほんとダンデくんって……」

 ソニアと顔を見合わせ呆れ笑いをする。もうすっかり慣れたものだ。未だにピッタリくっついて来るムンナをボールに戻し、荷物をまとめ立ち上がる。
 三人で玄関へ向かう途中こっそりソニアが話しかけて来た。

「ナナシ、本当に何かあったらすぐに言って。いつでもいいから」
「ソニア……。うん、ありがとう」
「ナナシー?ソニアー?」

 ソニアのワンパチと一緒に外に出ていたダンデくんが不思議そうに見てくる。

「今行くー!じゃあね、ソニア」
「うん!また来てね〜!」

 お行儀良くおすわりしているワンパチをひと撫でしてダンデくんを送るため駅に向かう。今日も良い静電気だった。

「ダンデくん、本当にムンナお借りして良いの?」
「ああ。引き取り手に悩んでいたんだ。キミのポケモンと相性が良さそうだったらそのまま貰ってくれて構わないぜ」
「んー、それはうちの子たち次第だなあ」
「だな」

 軽い雑談を交わしながら駅に到着し、シュート方面はあっちだよと教えて別れようとする。すると静かに名前を呼ばれ引き止められた。

「なあに?」
「なあ、知ってるか?」
「え……?」

 此方を見下ろすダンデくんの顔が駅の照明で逆光になりよく見えない。

「異性の友達が死ぬ夢は、より親密に、深い関係になりたいという深層心理が反映されてるんだぜ」
「え?」

「オレも、キミが死ぬ夢を見ることがある」

「……、」
「じゃあな、もう電車が来る」

 スマホロトムを改札に翳しホームに入って行く後ろ姿を呆然と見つめる。
 ……今のはどういう意味、なんだろう。どの感情から来るのか自分でも分からない胸の鼓動が、いつもより早いリズムで体内に響き渡る。

 その日私が見た夢は──。



(ダンデくんと目が合い、見つめ合う夢、だったかもしれない。)
(ム〜♪)




改稿:2021/08/18




back
トップページへ