めんどくさいキバナくん

「なあ、なんか気付くことない?」
「え?」

向かいに座っているキバナくんを見る。デート中だと言うのに少し拗ねた表情。これは、始まってしまったか。『めんどくさいキバナくん』が。

「も、もちろん!気付いてたよ!」
「本当か?何か言ってみなよ」
「えーっと…」

ニコッとガラルの女性を虜にするヌメラスマイルを向けられる。でも今はその目が笑っていない事を私は知っている。まずいぞ。

「いつもと違うメガネだよね!」
「これは前の時も付けてた」
「さ、左様でございましたか…」

ジトっと睨め付けられるのに笑って気付かないふりをしながら、先程店員さんが運んできてくれたモモンジュースを一口飲む。

「あれー?おかしいなあ…アハハ」
「……」

沈黙が痛い。普段は楽しそうに色んな話をしてくれるキバナくんだが、この『めんどくさいキバナくん』の時だけは違う。ここでお望み通りの返答をしないとこの後のキバナくんの機嫌が大幅に変わってくるのだ。
コロコロ変えるのはバトル中の天候だけにしておくれ〜、なんて。

「じょ、冗談だよー!本当に気付いてるってば!」
「だよな?」

考えろ、考えるんだ。キバナくんが気付いたか聞いてくる時は大体が容姿の変化だ。メガネ…は違ったし、顔…もいつも通りカッコいい。髪は…あ!そういえば今日は珍しく下ろしてる!ということは間違いない。

「分かった!髪が伸びたんだ!」
「逆だよ」
「エ」

ハア、と呆れたように大きく溜息を吐いたキバナくんが頬杖を付いて横を向いてしまった。や、やべ〜。やっちまったか…?

「前髪。二センチ切ったんだよ」
「あ、あ〜〜!言われてみればそう、かも?」
「……」

無視された。完全に機嫌を損ねてしまっている。
というか二センチとか誤差じゃん…。しかもそれでも一般人には長めだし。分かる訳がないよ。
言い訳…もクソもないけど、キバナくんの好きそうな事を言わなければ。こういう時は…。

「だ、だって!」
「?」

横を向いたまま目線だけ此方に向けられる。ひん、流し目カッコいい…。じゃなくて。

「だって、久しぶりに会ったし…。今日会うまではテレビに映ったユニフォーム姿のキバナくんしか見れなかったから」

少し悲しそうに、それでいて申し訳無さそうに。自分で自分を殴りたくなるのを耐えながらキバナくんをこれでもかと上目遣いで見つめる。こちらに顔を向けてくれた。あとは。

「気付けなくってゴメンね。嫌いにならないで…」
「〜〜〜っ!オレさまがオマエの事嫌いになる訳ないだろう〜〜!?!?」

忙しかったオレさまが悪いよな、ごめんな、揶揄っただけなんだ、好きなの頼んでいいぜとメニューを差し出してくれたので有り難くお言葉に甘えてマホイップパンケーキを追加注文する。さっき迷って辞めちゃったんだよね。

すっかりご機嫌になり、饒舌になったキバナくんにホッと胸を撫で下ろす。これで今日の私たちの平和は守られたと言っても過言では無い。

次いつ来るか分からない『めんどくさいキバナくん』に向けて変化に気付ける様、キバナくんを目に焼きつけとかなきゃ。そろそろクイズに正解しないとまずい。今回で三問連続不正解だ。

本当にキバナくんはめんどくさい彼氏だなあ。




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