フィールドワークに押しかける話

──本日のガラル地方のお天気です。西から来る高気圧の影響で昨日とは打って変わって洗濯日和となりそうですよ。またこの高気圧は暫くガラル地方上空にとどまる見込みで、週末までは全国的に晴れが続くでしょう。続いてワイルドエリアは──

 ピッとリモコンを操作しテレビの電源を落とす。昨日まで雨が続いていたが、今日は雲一つない快晴。つまり。

「今日はお兄さんが来る!筈!」

 準備しておいた鞄を手に取り自分自身を急かしながら家を出る。なんてったってお兄さんの朝は早いのだ。出遅れたらその分だけ一緒にいられる時間が減ってしまう。

「あ!っとと、ママー!」

 塀の外から庭先で洗濯物を干しているママに出かける事を大声で伝える。どうやら分かっていたらしく手を振り返されるだけだった。
 かわいい一人娘が出掛けるってのに!とちょっと怒りながら目的の場所まで走る。まあもうすぐ妹が産まれるんだけど。

「いた!おにーさーん!!」

 どうやら既にフィールドワークというやつを始めているようで木陰の草むらにいるポケモンのスケッチをしている。

「もう!聞こえてるんでしょ!ホップお兄さん!」
「……また来たのか、オマエ」
「当たり前だよっ」

 ブツブツと文句を言いながらも荷物を退けて隣のスペースを空けてくれるので有難く座る。素直じゃないんだから!

「あ!またお兄さんたらポケモンを誑かしてる!」
「人聞きが悪いんだぞ……」

 私と反対側のお兄さんの膝の上にいるシュシュプと目が合いムッと睨み合う。
 絶対この子はメスだ。辺りにはシュシュプ特有のお気に入りの相手をうっとり魅了する様な甘〜いお花の良い香りが漂っている。

「コラ!睨まない!このシュシュプは観察に協力してくれてるだけだぞ」
「……はーい」

 いや、絶対この子はお兄さんにゲットしてもらうのを待っている。私には分かる。女の勘ってヤツ。

「そういや、今日もカジッチュは見てないぞ」
「そっ、そうなんだ……」

 お兄さんの言葉に少しヒヤリとしながら返事をする。
 そんな私に気付いた様子も無いお兄さんは、オレもカジッチュの観察したいんだぞと言いながらシュシュプをクルクル回しスケッチを続けている。
 あ!ダメだよお兄さん、そんなところを、あぁ!そんなとこまで!くっ、シュシュプがこっちをドヤ顔で見てくるのが悔しい。
 見ているのも嫌になったのでカジッチュを探すふりをして辺りに目をやる。

 そう、何を隠そう私はカジッチュを探す程でお兄さんのフィールドワークに押しかけているのだ。

 始まりは偶然。暇だった私はバウタウンにでも行くかと通った五番道路でホップお兄さんに出会い、一目惚れをしたのだ。
 その時もっと一緒に居たくて咄嗟にカジッチュを探していると言ってしまい、今に至る。

 でも今ではちゃんとカジッチュを探す事も目的で、ゲットした暁にはホップお兄さんに渡して告白をすると決めているのだ!……未だにカジッチュと出会う事は出来ていないケド。

「今日は風が強いね」
「そうだな。さっきからワタシラガが沢山飛んでくるんだぞ。ほらまた」
「ホントだ!」

 フワフワ、というよりはヒューッと強めの風に乗り飛んでいくワタシラガを眺める。なんとも気持ち良さそうだ。

「いいなあ。私も飛んでみたい」
「オマエはまだポケモン持ってないんだったか?」
「うん。次のお誕生日にねってママが」

 あ、飛んでいたワタシラガが木の枝に引っかかってしまった。丁度その枝できのみを食べていたホシガリスが珍しそうに近づいていく。

「ジムチャレンジには参加するのか?」
「うーん、まだ分かんない。今のチャンピオンってあの無敵のダンデに勝ったんでしょ?ママが言ってた。そんなの勝てっこないよ」
「……そうだぞ」

 あれ?いつも楽しそうにダンデさんやチャンピオンの話をしているから、意外に静かな声で返事をされ戸惑う。好きなんだと思ってたんだけど。

「そういやお兄さんはジムチャレンジに参加したの?」
「……オレは、」
「ホップ〜〜!!」

 突然知らない人の声が聞こえて慌てて辺りを見回す。
 誰もいない、まさか上から?と見上げようとすると、バサバサと近づいてくる大きな音と共に強い風に煽られ思わず下を向く。

「ユウリ!なんでここに?」
「何回も電話したよ!メッセージの既読も付かないから探しに来ちゃった!」
「うわ、本当だ」

 定点カメラに使ってたから気付かなかったぞと申し訳なさそうに謝るお兄さん。ソロっと視線を上げるとアーマーガアから降り立つ女性が目の前に居た。こ、この人って…。

「チャンピオン!?」
「わ!そうだよ!あなたはホップの知り合い?」
「は、はい!すごい!初めて生で見た!」
「ウフフ!本物だよ!」

 応援よろしくねと手を差し出されたのでこちらも震える手を出し握手をしてもらう。か、かっこいい〜!

「ユウリ、何かあったか?」
「ううん!今日はオフで暇だっからさ、ホップの手伝いでもしようかなって」
「本当か?じゃあ…」

 身長の関係で私よりも上の方で楽しそうに話す二人を下から眺める。……私が手伝うと言っても何もさせてくれなかったのに。
 それに、なんだかホップお兄さんとても楽しそう。二人はどういう関係なんだろう。

 もしかして私、お邪魔してる…?

 さっきまでホップお兄さんの膝に乗っていたシュシュプが側に浮かんでいたので目を合わせる。お互いがライバルだったのに、その上の存在が来ちゃったね。
 お兄さんたちに視線を戻すと、どうやらここでキャンプをする様だ。テントを組み立てている。

 ふと先程木の枝に引っかかっていたワタシラガが気になり目をやると既に居なくなっていて、ホシガリスもまたきのみを頬張っている。

「なあ!ナナシもキャンプしていくだろ?」
「……ううん、今日は帰るね!ママがお昼には帰って来いって」
「そうか」

 じゃあまた明日な、と手を振るお兄さんが少し寂しそうに見えるのは私の都合の良い願望だろう。手を振り返しながら二人に背を向け走って家まで帰る。

 おかしいなあ。今日からは晴れが続くって天気予報のお姉さんが言ってたのに。




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