悪役令嬢だと思い込む転生夢主
頭が割れるような痛さで目が覚める。
見覚えのない天井。
私は今、肌触りのいい高そうなシーツにつつまれ、豪華な天蓋が降ろされたベッドに横になっている様だ。
「サン?」
「っ!?」
ベッドの側に控えていてくれたであろう見たことのない生き物が天蓋の隙間から顔を出す。
いや、見たことはないが、知ってはいる。
「イ、イエッサン……?なの……?」
「イエッサーン!」
私が子供の頃から好きだったポケモンシリーズに数年前から追加されたポケモン、イエッサンだ。
「なんで…」
天蓋を引き、水が入ったグラスを差し出してくれたので恐る恐る受け取ると、イエッサンが部屋から出て行った。
何故、どうして。ポケモンが現実世界に現れるなんてそんな事あり得る訳がない。
ここに至るまで私は何をしていた?
確か、二十五歳の誕生日。平日で特別なことは何もなく、いつも通りに社会の歯車として働いて。
帰りにケーキでも買って帰ろうかなと歩道橋の階段を降りている途中で背中から刃物で刺されたのか鋭い痛みが襲ってきて。周りの人の悲鳴を聞きつつ階段を転がり落ちた。
──…いや、違う。
それはもうずっと前の話で、今回は彼に会いにローズタワーへ向かう途中、誰かに後ろから押されて階段から落ちたんだ。
そうだ、私はポケットモンスターの世界で十三年生きている──。
****
「あぁ!私のかわいいマホイップちゃん!気がついて良かった……心配で心配で私まで寝込むところだったわ」
「ごめんなさい、お母さま。でももう大丈夫ですわ!」
先程のイエッサンがお母さまを呼んできてくれたようだ。
「ならよかったわ!どこか体調におかしいところがあったらすぐに言うのよ?」
「はい」
「じゃあ仕事に戻るわね。もし何かあったら電話を頂戴ね」
そう言って部屋から出て行くお母さま。
彼女は貴族でありながらも大人気デザイナーとして世界から注目されているとても忙しい人なのだ。
そう、私はこのガラル地方で昔から続く貴族という立場にいる両親の元へ産まれた。
屋敷自体は都心部から離れたブラッシータウンの東の森に建てられていて、一般家庭よりは華やかではあるが親戚の中では割にひっそりと暮らしている。
幼い頃は庭に来るポケモンたちと遊んだり、家をこっそり抜け出して近くの街の子供たちと遊んで暮らしたものだ。
いわゆる前世の記憶を思い出した私は、この世界がゲームのポケモンシリーズのガラル地方であることを改めて認識し、とんでもないことを私がしでかしてしまっている事に気付いた。
実は幼い頃に共に遊んでいた近くの街の子供というのが現在のガラル地方のチャンピオン・ダンデとマグノリア博士の孫ソニアだったのだ。
当時、私とソニアは二人揃ってダンデくんの事が好きでお互い恋のライバルだった。
かわいい三角関係のままジムチャレンジが始まり、ダンデくんはチャンピオンに、ソニアはトーナメント三位。私はというと元々ジムバッチを集めるだけとおじいさまとの約束だったのでバッチを八個集めて終わった。
私はジムチャレンジが終わると立場上、婚約者が必要になっていた。その候補が王族の末裔の人達だったのだが、その人達がどうしても生理的に受け付けなかったもので大変嫌がり、両親やおじいさまを困らせていた。
そして幼い私は思い付いてしまったのだ。
私の家系はお金だけは昔から湧いて出てくるようにあったので企業のスポンサーとして依頼される事が多く、それはポケモンリーグを作り替えた男も例に漏れない事だった。
男、つまりローズさんのことだ。
私はおじいさまにお願いした。相手がチャンピオンなら喜んで婚約者になると。
そこからのおじいさまの行動は早かった。
ローズさんに話を回し気がつけば私はダンデくんと婚約者に。
彼のチャンピオン業を見つつ、いい頃合いの時に結婚させるという契約が内密に、だがあっという間に結ばれたのだ。
……これって、前世で若い女の子を中心に人気があった乙女ゲームに出てくるヒロインのワガママなライバルキャラ、所謂"悪役令嬢"の立場に私はいるのでは?
相手の気持ちを全て無視した、婚約という契約。
婚約が成立してからは婚約者を大義名分に何度かローズさんに頼みタワーへ訪ねたし、恋のライバルだったソニアとも僅かに残る罪悪感からか前よりは会う頻度が落ちた。
私は原作のゲームでは存在すらしていないただの貴族のお嬢さま。
ダンデくんと結ばれるならソニアの方がぴったりだし、何よりソニアは私よりもずっとかわいい。
それにもし、私の存在によって原作が変わってしまったら?ブラックナイトで彼は怪我を負う。もし私というイレギュラーのせいで彼が怪我どころで済まなかったらどうするのだ。
私だって昔から、それも前世でゲームをプレイしていた頃からダンデくんの事が好きだし、幸せにしてくれる人は出来るならダンデくんがいい。
でもそんなことは言ってられない。
結婚までのタイムリミットは十六歳。ガラルへの告知期間を考えると最短で十五歳までのあと二年間でなんとかしなければ。
****
「とりあえず、他の地方に行くことを視野に入れつつ計画を建てなきゃね」
何かヒントを得るため、お父さまの書斎室へ向かう。
ゲーム本編ではダンデくんがチャンピオンになってから主人公がダンデくんに勝つまでの間は語られていないため、何か大きなイベントがあるのかは全くわからない。
家名に多少の傷はついても、ダンデくんの負担には絶対ならない様に。
「あら、ポケモンコンテストだわ」
お父さまの書斎には多種多様な書籍が山ほど置いてあり、その中には他の地方の雑誌などももちろん含まれている。
やっぱりポケモンシリーズをやっていた身としてはポケモンコンテストを実際に見てみたい。
何より私の最愛ポケモン、エネコをこの目で見てみたい。
「サーン」
「っ!」
先程のイエッサンが呼びに来たようだ。夕食の時間らしい。
「今日はここまでか。ホウエン地方……要チェックね」
こうして私の『ダンデくん!ソニアとお幸せにっ!〜私はホウエンに旅立ちます〜』計画がスタートしたのだった。
****
今期のジムチャレンジが終わった三ヶ月後。
今日はエキシビションマッチとしてダンデくんがシュートスタジアムでバトルをする事になっている。
今までの私だったら何日も前からダンデくんに連絡し、婚約者なのだからと関係者席を用意してもらい当日はお金のかかったオシャレをして会場に駆けつけていた。
だが、今回はダンデくんから距離を取る第一歩として会場に行かない事を選んだ。
でもやっぱりダンデくんのことが好きだし、バトルも見たいので家で中継を見るくらいは許してほしい。
いつも私から連絡をしていたので今回は何も連絡をせずに居たのだが、意外なことにダンデくんの方からメッセージが来た。
『今日のバトルは観に来ないのか?』
『申し訳ないけれど家の用事があるの。でもバトル自体は観れそうだからテレビ中継で楽しませてもらうわ』
『そうか……。キミの席は用意してあるから来れそうだったら来てくれて構わない。』
や、優しい〜〜!連絡しなかったのに席を用意してくれていたなんて……。
今までずっと席を用意してもらってたツケが回って来たわね。大事な試合なのに席を空けることになってごめんなさい。
『行けない事を伝えられていなくてごめんなさい。次は早めに伝えるわね』
『いや、構わないぜ。テレビ中継でも楽しめるバトルにしよう!じゃあな』
『頑張ってね』
既読がつかなくなる。バトル前の最終調整に入ったのだろう。
今までバトル直前まで控え室に居座ったりしていたけどよく考えたらとても迷惑だったわね。無いだろうがもし次行くことがあれば気をつけなければ。
せっかくのダンデくんからのお誘いを断るのは申し訳なかったけれど家の用事というのも実は嘘ではない。
お母さまの仕事は基本自宅で、ファッションのデザインから生地集め、完成までさせるのであまり他の地方へ出向くことはない。
そんな中、お母さまにどうしても急ぎで用意してほしいとの依頼をして来た人物がいるのだが、なんとその人物がホウエン地方のチャンピオン・ダイゴさんなのだ。
ダイゴさんは既に家の応接室に居るので、これから私はお母さまの手が空くまで暇つぶしのお相手をする事になっている。
……他地方のチャンピオン、しかもあのダイゴさんの相手なんて。荷が重いわよ、お母さま。
「失礼致します、ミスター。娘のナナシです」
「ああ君が噂の。はじめまして、ボクはダイゴ。一応ホウエン地方のチャンピオンをやっているんだ。こちらの我儘で来させてもらってるんだしお堅いのは無しにしよう」
「(噂の……?)では、お言葉に甘えますわ。お忙しいでしょうにわざわざガラルまで出向いて頂きありがとうございます。母の手が空くまでもう少しかかりますので私がお相手をして来いとの事でして」
「ふふっ、なるほどね。かわいいお嬢さんとお話ができてボクも光栄だよ!」
ダイゴさんが目の前に……。あのダイゴさんと話してる!前世の私見てる!?見てるよ!!すごい事だよ!!!
「君、ガラルチャンピオンの婚約者なんだってね。二人ともボクより若いのに尊敬するよ」
「まあ!公表はまだですのに。ご存知なのですね」
「一応各地方リーグのコネクションがあるからね」
「そうなのですね」
やばい、流石に他地方でも各リーグの内情は把握してるのか。
これからの事を考えるとダイゴさんに協力してもらいたい……。けどこの人が素直に協力してくれるとは……あ!
「あの、その事について相談したい事があるんですがて……」
「ダイゴくん!お待たせしたわね!」
「ミセス!楽しく過ごさせていただきましたよ」
「お母さま……」
なんてタイミングで来るの、お母さま。
これじゃあダイゴさんに協力して頂くのは無理かな、とチラリとダイゴさんを見るとバッチリ目があってしまった。
「それじゃダイゴくんこちらへ来て」
「ええ、かしこまりました」
部屋を出て行くお母さまについて行くダイゴさんからすれ違い様に紙を渡された。
「相談があるんだろう?よかったら連絡してきて」
「っ!ありがとうございます!」
ダイゴさんの連絡先、ゲットだぜ!なんてね。
****
『というわけなんです。少しだけで構わないんです、どうかご協力お願いできないでしょうか』
『うーん、予想の斜め上の相談だったよ。直接会って話した方が良さそうだね。明日でも大丈夫かい?』
『お時間いただき申し訳ありません。明日是非お願い致しますわ』
『じゃあ明日、昼過ぎくらいにシュートシティで構わないかい?』
『はい、ありがとうございます』
シュートシティ!前世を思い出してからはダンデくんが居ることもあり、あまり近づかない様にしていたのでなんだか少し緊張してしまう。
今日はもう夜遅いしルーティンのスキンケアも終わったので寝てしまおう。
明日は頭を使うだろうから寝不足じゃ何も出来ないわよ、ナナシ!
****
お昼過ぎ、シュートシティに電車にて到着した私は駅でダイゴさんを待っている。滞在しているホテルがロンド・ロゼらしく、やはり大企業のご子息かつチャンピオンだと庶民とは違うな〜と前世の私。
ま、今の私もおじいさまによって強制的にロンド・ロゼラインに宿泊させられるのでしょうけど。
シュートシティはガラルの中でも大都会で駅もブラッシータウンなど比べ物にならないくらい広く近代的だ。
真ん中にある大型ビジョンには昨日のエキシビションの様子が映し出されている。
今回は珍しくダンデくんがカメラにもファンサービスをした事もあり、いつもより一層メディアがざわついているようだ。
「やっぱりダンデくんはかっこいいな」
「ブイッ!」
腕の中に居るイーブイも私の声に応えるように鳴く。
この子は私のジムチャレンジ時代の相棒だったニンフィアの卵から孵った子で、ダンデくん大好きなニンフィアと同じくこの子もダンデくんのことが大好きなのだ。
……トレーナーに似たってお母さまには揶揄われるけど。
「やあ、お待たせ!どこかカフェでも入ろうか」
「それなら余り人目のつかないお店がありますのでそちらにいたしましょうか」
「そうだね、案内を頼むよ」
「ええ、こちらですわ」
駅を出てダイゴさんと並び目的のお店へ向かう。それを後ろから見られているなんて気付かずに。
****
シュートシティの少し入り組んだ先にあるひっそりとした、でも品がいいカフェに入る。ここはテーブル席一つ一つがが半個室の様になっていて顔が知れている人でも入りやすい造りになっている。
……いつかダンデくんと来たいと健気にお店をリサーチしていてよかった。
二人とも店員さんオススメのティーセットをいただく。
「それで、昨日の相談についてなんですけど」
「あぁ、婚約を解消して他の地方へ旅に出たいってやつだよね。本気なのかい?」
「もちろんです。こんな事、冗談では口にできませんもの」
さすがに前世が、なんて言ってしまったら巷で溢れかえっているファンタジー作品にハマった頭の弱いお嬢様だとあしらわれてしまうだろう。
本気なんです。助けて、ダイゴさん…!
「うーん…そもそもの話、無理矢理婚約者になったって言うけれど事実なのかい?第三者からもそう言われる?」
「この事はおじいさまとローズさんと私たち当人で内密に進めたものですから……。私がおじいさまに無理矢理お願いしたばかりに。それに、彼も私のことあまり好いておりませんもの」
「それは彼が直接?」
「いえ、彼は優しい人ですし、昔からの仲ともあって強く言えないのでしょう。今まで私が婚約者だからと押しかけていたのも冷静に考えると迷惑でしかありませんわ」
うぅ、本当に前までの私バカすぎますわ……。これでは嫌われて当たり前、早く彼を解放しなければ。
「それに私、実はホウエン地方のコンテストに興味がありまして」
「へー、コンテストに。ボクの友人もよく参加しているよ。……うん、そうだね。よし」
ダイゴさんがテーブルの上に置いていた私の手を取る。
「責任は取らないけど協力してあげるよ」
「っ本当ですか!ありがとうございますわっ!」
やった!これで少しは進めたかな!
思ったよりも順調に進んで、前世を思い出してから一番の満面の笑みを浮かべているのが自分でもわかる。
「じゃあ今後についてなんだけど…」
「何をしているんだ?」
「っ!」
声のした方を向くとそこには少し息を荒げたダンデくんが。
「ダンデくん?どうしてこんな所に……迷子かしら?」
「いや、迷子ではない。それにさすがに迷子でも店の中へは入らないさ。……それよりも、だ。彼とこんな所で何をしているんだ?」
「えぇっと、ホウエン地方のお話を伺ってましたの」
なんだか機嫌が悪そうなダンデくん。もしかして私が彼とお出かけしてるからかしら?なーんて。
「話を伺うのに手を握る必要があるのか?」
「まあまあ、ガラルチャンピオン・ダンデ、落ち着いて。ボクはホウエンチャンピオン・ダイゴ。お久しぶりだね?」
「……えぇ。去年の交流戦以来ですね。……それより」
「あぁ!彼女の手を何故握っているのかだったね!簡単なことさ。……ボクが彼女のことをちょっと口説かせて貰ってるからだよ」
「えっ」
「は……?」
えっ!?ダイゴさん!?協力って言ってたよね!?
突然の裏切りに驚いてしまう。いや、これも策なのかしら。
「……残念ながら彼女は俺の婚約者だ、……です。他を当たってください」
ダイゴさんに握られていた私の手をグイッと引っ張るダンデくん。今、婚約者って言ってくれた。
「こわいこわい。次は見つからない様にしなきゃね」
「次はありません。それでは」
「えっあっダンデくん!?ダイゴさんまたの機会にっ」
お札をドンとテーブルに置いて私の手を掴んだままお店を出るダンデくん。一体何が起こっているの……?
「だ、ダンデくん!どこに行くのよ?もう少しゆっくり!わぶっ」
イタタ……、突然立ち止まったダンデくんの背中に顔をぶつけた。鼻は潰れていないかしら。
「キバナ」
「お!見つかったのか、ナナシちゃん。てかダンデお前連れてきてよかったのか?用事があったんじゃ」
「キバナさん?見つかったって?」
ダンデくんの背中から顔を出す。
原作では二メートル近い彼もまだダンデくんと同じくらいの身長だ。ショタキバナだ!かわいい!
「珍しく昼間に駅で仲良さそうに男と歩いてるナナシちゃんを見ちまって。ダンデに軽く話題振ったら笑えるくらい顔強ばらせて走り出したんだ。こっちがびっくりだよ」
「キバナ!」
そうだったのか。でもダンデくんどうしたのかしら。
もしかして嫉妬……いや、そんな訳がない。期待しないの、彼を解放して私はホウエンに旅立つんだから。
「打ち合わせは終わったし、今日はもう直帰でいいってマネージャーさんからの伝言だ。じゃあな!」
ボールから出たフライゴンに乗り、歌声の様な羽音を響かせ飛んでいくキバナさん。それを見つめるダンデくんと私。
「えぇと、ダンデくんもう今日はお休みなのね。ポケモンのことだけじゃなくて偶にはダンデくん自身のことも構ってあげたらどうかしら。じゃあ私はこれで、いっ!」
「っキミは!どうしてっ!」
私の腕を掴んでいたダンデくんの手に力が入り、ギリリと骨が軋む。これは跡が残りそうだ。
「いたっ!痛いわよダンデくん!」
「っ!ああ、すまない……。少し話がしたい。俺の家へ行こう。リザードン!」
「ばぎゅあ」
リザードンに乗ったダンデくんに引っ張られ、前に座らされる。一度乗ってみたかったリザードンだが、背中にダンデくんの体温を感じて想像していたよりうんと緊張してしまう。
話ってなんだろうか。もしかして婚約解消をダンデくんから言い出されるのだろうか。
準備をしていた私が言うのもなんだが、嫌だな。ダンデくんの口から聞きたくない。先に言ってしまおうかしら。いやでもダイゴさんとの計画の兼ね合いが。
リザードンに乗って空を飛ぶ嬉しさと、背中に感じる彼の体温と、これからの話への恐怖で頭がごちゃごちゃのままダンデくんの家に着く。は、初めてだわ、彼の家に来るのは。
「……お邪魔しますわ」
「ああ。お茶を入れてくる。ソファに座っていてくれ」
「ありがとう」
未だに空を飛んでいるような浮遊感を感じながらソファに座る。初めて彼の部屋に来たが、意外に綺麗にされている。
あ、筋トレ始めたのかしら。まだ新しそうなトレーニング器具が置かれている。
「どうぞ」
「ありがとう」
久しぶりにダンデくんの入れてくれたティーを飲む。
おばさまがアフタヌーンティーに情熱を注ぐ方だったのでダンデくんも猛特訓させられた甲斐があり、ダンデくん以上に美味しいティーを入れる人を私は知らない。
「その、さっきの事なんだが」
「えぇ。ダイゴさんのことよね」
「そうだ。その、キミは彼のことをどう思っているんだ?」
「そうね、……魅力的な方だと、思うわ」
「……、そうか」
なんだかいつもとダンデくんの雰囲気が違うような。
まあでも、確かに婚約破棄を切り出すのにいつも通りで居るってのも無理な話よね。これはやっぱり私から言い出さなくては、と思うもののなんだか口が、身体が思うように動かせなくて。
「あ、あれ、あのね、だんで、くん…」
「ん?どうしたんだ?」
「あの、ね、わたし、」
──なんだかまぶたがかってにおちていっちゃって
──あなたにいわなきゃいけないことがあるのに
瞼がくっつく前に彼が優しい顔でこちらを見ていたような気がした。
****
眩しい光が顔に当たる感覚で意識が浮上する。鳥ポケモンたちのさえずりが聞こえるので朝だろうか。
「…ぅん…あれ」
「おはよう、目が覚めたか?」
「ダンデくん……っ!?」
ガバッと起き上がる。見たことのない寝室、その入口のドアにダンデくんが扉にもたれ掛かりながら立っている。
昨日ダンデくんと話している間にどうやら寝てしまったらしい。確かに昨日は色々あったけれど、夜でも無い時間に意識を失うほど疲れたと言うわけでも無かった。ダメだ、まだ頭が起きていない。
「起きて早々悪いがこれにサインを書いてくれないか?」
「……サイン?わかったわ」
小さく折られたメモ用紙だろうか、言われるままに渡されたペンで自分の名前を書く。あら、このペン。
「一昨年の誕生日にプレゼントした万年筆だ」
「フフッ、そうだ。キミがオレのために選んでくれたものだぜ」
「使ってくれてるのね、嬉しいわ」
「ああ。今ではこれでしか文字が書けない」
「ふふふ、なにそれ!」
機嫌が良さそうなダンデくんと話しながらサインを書き終える。徐々に頭が起きてきた。
あれ、そういえばさっきサインした紙ってなんだか重要な申請書類の様に思えた。そう、例えばよくドラマで結婚するカップルが書いている……。
「婚姻届……?」
「じゃあ、オレは仕事に行ってくる。今日は早く帰るようにするからこの家で待っていてくれ。キミに出迎えて欲しいんだ」
「え、ええ。それはいいけど……って、ダンデくん!さっきの紙!」
バタンと寝室のドアの閉まる音とバルコニーのドアを開ける音。次にリザードンの飛び立つ音。完全に出て行ってしまったようだ。
「っロトム!」
「ロト〜!」
スマホロトムで婚姻届について画像検索をする。
「……やっぱり。間違いないわ」
「ついにダンデと結婚するロト?」
「違うわよ!」
「怒鳴らないでロト〜」
愉快そうにケテケテ笑うロトム。そもそもまだ十三歳で結婚できる年齢じゃないし。
違う、わよね?ダンデくん…?
☆夢主
大好きなポケモン世界に転生してた!
でも私は悪役令嬢!ダンデくんとソニアの仲を引き裂いてしまった!丁度いいところに!助けてダイゴさん!
☆ダンデ
物心ついた時から夢主と結婚すると決めていた。
喜んで婚約したし、16歳の誕生日を迎えるとともに結婚するつもりだった。
が、思わぬ夢主の行動により先に法律で自分に縛り付けることに。ヤンデナイヨ!
☆ソニア
コイツらまーたすれ違ってんな。
ダンデへの恋心は思い出。おばあさまについて行った学会で気になる人が居たのよね〜♪
☆ダイゴ
17歳くらいの設定。正直まだ石にしか興味がない。
初めからダンデが夢主のこと好きだと知りながらも面白そうだから協力しようとした。
このまま進んでいたらミクリに投げ出すつもりだった。
改稿:2021/08/16