朝起きたら猫耳が生えているなんてそんな訳(笑)

 朝ご飯を作り終わりテーブルにお皿を並べ始めたタイミングで丁度寝室のドアの開く音が聞こえた。ダンデくんが起きてきたのだろう。

「ダンデくんおはよう〜……うんっ!?」
「おはよう。何かあったか?」

 寝ぼけた顔で無精髭の生えた顎を摩りながらダイニングに入ってくるのはいつもと同じこと。でもいつもと違うどころではなく、人間としておかしいところ、……おかしいモノが生えている。

「だ、ダンデくん?頭のソレ、何……?」
「頭?」

 ダンデくんが不思議そうな顔をしながら寝癖のついた頭に手を伸ばす。むにゅ。私の中でそんなファンシーな効果音を鳴らしながら、ダンデくんの手によりソレが形を変える。

「っ──!?」
「えっ!」

 ダンデくんの声にならない悲鳴と共にダンデくんの背後に現れたもの。ピンと立ったソレはどこからどう見ても尻尾で。

「なんだこれは!?」
「……ダンデくんっ!私のために猫になってくれたの!?」
「は?」

 思わず心の声が出てしまい冷めた目で見られる。だって、ダンデくんの頭に生えている三角のそれは紛れもなくチョロネコやニャース達と同じ猫耳で。キュッと筋肉の付いたお尻では細く長い尻尾がユラユラしている。
 てっきり、今日は猫の日だから猫ポケモンが好きな私のために、ダンデくんがサプライズしてくれたのかと思ってしまった。残念ながら違うようだけど。

 イマイチ理解していなさそうなダンデくんに鏡を渡す。自分の頭で勝手にピクピク動いている耳を呆然と観察している。尻尾はバタバタと大きく左右に揺れていて、正直……かなり触りたい。可愛い。
 少しずつ距離を詰める。よく見ると瞳も縦長の瞳孔になっている様だ。本当に猫みたい。

「本当に生えてるね。耳も尻尾も」
「尻尾!?」
 
 尻尾には気付いていなかったようで慌て後ろを振り返る。「生えてる……」と尻尾の先をピクピク動かしながら呟くダンデくん。か、可愛い。

「……とりあえず、リーグに休みの連絡をいれて。それでこれは……病院でいいのか?一体何処に行けばいいんだ……」
「どこだろうね」

 適当に相槌を打ちながら電話で休む連絡を入れるダンデくんの尻尾に触れる。温かい。本当に生えているんだ。毛質はダンデくんの髪に近くって、触り心地は適度に硬い芯が通っていて、元から身体の一部だと言われても納得するほど。
 猫ポケモンは好きだけど実際に触れたことがあるのはダンデくんの実家にいるチョロネコだけなので、思う存分触らせてもらう事にする。当事者のダンデくんには悪いが私は今とても幸せだ。
 少し鍵尻尾気味なのかな。先が曲がっている。スーっと毛並みに逆らって撫で降りて行き、ずっと気になっていた付け根の部分を覗く。お尻の割れ目の少し上くらいから生えているようだ。丁度尻尾の部分から毛が生えていて面白い。ツルツルお肌との境目をスリスリと触って楽しませてもらう。
 次は耳を触らせてもらおうと頭を上げると、顔を真っ赤にしたダンデくんと目が合う。

「キミな……」
「あ、ごめん。触らせてもらってます!」

 そうじゃなくてと溜息を吐いているダンデくんを無視して頭に手を伸ばす。と、その手を掴まれてしまった。

「やめてくれないか」
「えっダメだった?」
「……ダメじゃないが」

 言いながら肩を掴まれ反対方向へ向かされる。すぐに背中にピッタリとダンデくんがくっついて来てお腹に腕を回された。さらに顔を首元に埋め何故かゆっくりと深呼吸をしている。突然どうしたのだろう。

「困るのは多分、キミの方だぜ」
「え…っ?」

 熱っぽい囁きが耳元に落とされるのと同時に腰にグリと硬いものが押しつけられる。なんでどうしてと混乱する頭に、いつか本で読んだ知識が浮かび上がってくる。

──『猫ポケモンたちにとって尻尾はデリケートな部位なのであまり触らないようにしましょう。また、付け根の部分は沢山の神経とフェロモン分泌腺があり、刺激を与えると性的興奮を覚え気持ち良く感じる子も多いです。ですが嫌がる子も居るので〜……』

 も、もしかして……?いやでもダンデくんは人間だもの。関係ないよねと必死に思い込もうとしているところにすぐ側で聞こえるゴロゴロと喉を鳴らす音。
 あっ……。もしかしなくても、今のダンデくんは猫の方に近いのかもしれない。そうなるとさっきまで思う存分尻尾を触りまくったのは不味かったのでは。

──ザリ

「ひっ」

 頬を舐めてきたその舌はいつもと違ってザリザリと棘があって。首筋に降りてきたいつもと違う感覚の舌に思わず身体を跳ねさせてしまう。

「ふふ。……にゃーお」
「っ」

 猫ポケモンの鳴き真似をしつつシャツの裾から侵入してくるダンデくんのその手に私は──。

****

「だめっ」

ガバリと掛け布団ごと起き上がる。あれ、私は一体?ベッド?なんで?と頭を抱えていると、隣で寝ていたダンデくんが目を覚ましてしまった様で不機嫌そうに起き上がる。

「……まだ早いんじゃないか?」
「あれ、耳!」
「耳?」

 何を言ってるんだと言う様に変な目で見てくるのを無視して背中を確認する。

「尻尾もない!」
「あるわけないだろ」

 パンツを覗こうとした手を軽くはたき落とされる。そのまま腕を引っ張られ、もう一度寝ようとベッドに逆戻り。ダンデくんの腕の中に後ろからすっぽり収まるその体制は、どうしてもさっきの状況が脳裏をかすめる。

 夢、だったのかな。現に今のダンデくんには猫耳も尻尾も生えていなかった。そもそも生えるわけがない。となると、やっぱり夢だったのか。
 最後はあんな風になっちゃったけど、猫耳の生えたダンデくん、可愛かったな……。長い尻尾がユラユラして。結局耳は触れなかったしどうせならもっと、と考えているといつの間にか意識が遠くなって。

「……にゃおん」

 そんな誰かの鳴き声と喉を鳴らす音、頸に感じたザリザリとした感触は、きっと夢なのだろう。




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