ガラルチャンプがパシオにやって来た!

「ヒナギク博士〜、新しいタマゴが……あれ?」
「やあ!ヒナギク博士ならケイくんの所へ行ったぜ!」
「そうですか。ありがとうございます」

 まだ時間は掛かるんじゃないかと博士について教えてくれた男性が続ける。長年ヒナギク博士の助手をしているが、この男性は今まで見かけたことが無い。最近新しくパシオに来た人だろうか。
 先程トレーナーの方から預かったタマゴを孵化装置にセットする。日付、時間、たまごの状態、名前などを付箋に書き孵化装置に貼り付け、同じ内容をタブレットに入力。……よし、オッケー。

「それ、タマゴを孵化しているのか?」
「わっ!」

 すぐ側で話しかけられ思わず声を出してしまう。先程の男性が近づいて来ていた様だ。Nさんと同じくらいの身長だが、体格が良いので威圧感がすごい。
 でもタマゴを見る目がすごくキラキラしている。悪い人では無いのだろう。

「そうですよ。ヒナギク博士はタマゴから孵ったポケモンとトレーナーがバディーズを組んだ時、どんな絆を育むのかについて研究しているんです」
「へえ!絆か!」

 男性が端からタマゴを見て行く。自分にはすっかり見慣れた光景になってしまったが、やはりこうして孵化装置とタマゴがずらりと並ぶのは珍しいのだろう。

「きっと貴方も冒険していたらタマゴと出会うかと思うのでその時はこの研究所に持ってきてくださいね」
「分かったぜ!サンキュー!」
「いえいえ」

 会話も終わりタブレットに視線を戻す。もうそろそろ孵りそうなタマゴがいくつかある。トレーナーの方に連絡を入れなくちゃ。研究所のアカウントからメッセージを送って、と。

「そういえば」
「はい?」

 また近くまで来ていた男性が話しかけてくる。沈黙に耐えられないタイプの人なのかな。

「オレはダンデ!ガラル地方から来たんだ」
「ガラル地方……。あ、ユウリちゃんとネズさんの!」
「ユウリくんとネズも来ているのか!」

 ユウリちゃんが開いてくれたカレーパーティを思い出す。しがない研究所の下っ端にまで振る舞ってくれたカレー、とっても美味しかったな。
 ネズさんは最近こちらに来られたので余り話した事は無い。少し怖そうな印象だ。ユウリちゃんによると、近々来る予定の妹さんの為に先にパシオの様子を確認しに来たらしい。

「ガラルではカレーが流行っているんですよね?ユウリちゃんが作ってくれたんですけどとても美味しかったです」
「そうだぜ!オレのも作ったら食べてくれるか?」
「機会があれば是非」
「そうか!腕を振るおう!」

 楽しそうにしているダンデさんには悪いが、ダンデさんの作るカレーってなんというか、ワイルドそう。機会は一生来なくていいかも。
 あれ、そういえばダンデってどこかで聞いたような。ダンデ、ガラル地方……。あっ、チャンピオン……?

「あの、」
「なんだ?」
「ダンデさんってもしかして、ガラル地方のチャンピオンだったり……」
「ん?そうだぜ!無敵のチャンピオンとはオレのことだ!」

 ダンデさんがマントを翻して腕を上げる。ひえっ、やっぱりこの人もとんでもない人だった。強いトレーナーが集まるパシオだもの、これはまたより一層バトルが盛り上がるんだろうな。
 マントの風圧で少しだけ散らばった資料を集めながらバトルが好きな人の顔を何人か思い浮かべる。レッドさんとか喜びそうだな。……あ、ヒナギク博士が帰ってきた。

「待たせたわね、ダンデくん!これがバディストーンよ。どのポケモンとバディーズを組むの?」
「勿論、リザードンだぜ!」
「えっ」
「あら」

 まさに今考えていたリザードンといえば、という人物が頭の中で瞳を煌めかせながら帽子を深く被る。彼も強さを求める人物だ。リザードンとバディーズを組む者同士、もしかしたら何かが起こるかもしれない。

「リザードンとバディーズを組んでいる強ーい子が居るのよ!探してみるといいわ」
「そうなのか!楽しみだぜ!」

 興奮からかギュッと握られた拳を見て少し青褪める。元々筋肉が付いているのは見たまま分かっていたが、力が入った途端エグいくらい浮き上がっている血管が怖い。あまり関わらない様にしよう。
 そんな事を考えているとダンデさんがこちらを振り返ってくる。

「キミはいつ暇なんだ?」
「え?私ですか?」
「ああ!オレのカレーを食べてくれるんだろう?」

 ダンデさんは社交辞令をご存知無いのか。どう答えようか悩んでいるとヒナギク博士に勝手にオフの日を伝えられる。は、博士〜……。

「じゃあその日は空けておいてくれ!此処まで迎えに来るぜ!」
「わ、分かりました……」

 じゃあな!と元気よく研究所を飛び出して行く。多分このまま冒険に向かったのだろう。ニヤニヤしている博士をジトっと見ながらタマゴを取りに来たトレーナーの対応をする。
 ああ神様、アルセウス様。私の平穏なパシオ生活をどうかこのまま続けさせてください。


 約束の日。待てども待てども現れないダンデさんを不思議に思いユウリちゃんに連絡をすると、方向音痴である事が発覚する。ガラル地方ですら迷うのだからこのパシオで迷わない筈がない。
 絶句する私の隣で爆笑しているヒナギク博士が、私に彼の案内役になる様言い出すのはこのすぐ後の話だ。




back
トップページへ