あなたからのメッセージ
『元気か?』
残業に残業を重ねた深夜の帰り道。大好きな人から送られたその文字列を見た瞬間、張っていた気が緩みどっと疲れが押し寄せてきた。
取引先からの理不尽なリテイクに苦戦しながらも何度も何度も対応し、やっと今日大まかではあるが納品の目安が着いた。
期間にしてみるとたった二週間。それでもここまで躓いたのは社会人何年目かにして初めてだったので、正直とてもしんどかった。
その二週間の間は、今までの様に毎日一方的に送っていたメッセージを送る余裕すら無かった。ただ突然途絶えた連絡に安否が気になっただけなのだろうが、私はとても嬉しい。涙が出そうだ。
『元気じゃなかったんですけどダンデさんのお陰で元気になりました!!ありがとうございます!!!!!!』
珍しくすぐに既読が付いた。でもいつも通り返事は無いだろうとスマホをポケットに戻す。ダンデさんから連絡が来たのは初めてじゃないだろうか。
はあ、それにしても疲れた。お腹は空いたけど空いてない。一日分の栄養が取れるドリンクでも買って帰ろうか。コンビニに寄るのさえ面倒臭い。
ゆっくりとしか進まない歩幅で歩いているとスマホがメッセージの通知を鳴らす。友達だろうか、後でいいかな、と考えながらも腕が勝手に動きロックを解除する。
『見つけた』
「おかえり」
メッセージの送り主は意外にもダンデさんで、どう言う意味か理解しようとした瞬間に前から声を掛けられる。どうしてダンデさんがここにとポカンとしているとくすくす笑われてしまう。
「キミ、酷い顔してるぜ?とても元気になった様には見えないな」
「あ、……ぇ?なんで、」
そんなに酷い顔しているだろうか。取引先と顔を合わせるから普段よりはしっかりメイクした筈。まあ十何時間も前の話だけど。
いや、そうじゃなくて。どうしてダンデさんがここに居るのか。迷子だろうか。
「言っておくが迷子じゃないからな」
「ぁえ、そうなんですか」
ホップがキミのことを気にしていたからな、と頭を掻きながら話すダンデさん。そうか、この二週間にホップくんとの定期的な連絡のタイミングまでも被ってしまっていたのか。すっかり忘れていた。
「じゃあ、今日中に」
「いや、ホップにはオレから伝えておく。キミはもう休んだ方がいい」
そう言いながらリザードンをボールから出す。もしかして送って行ってくれるのだろうか。いやでも、案外マイペースなダンデさんの事だ。ただ自分がこの場を離れる為に出しただけかも。
屈んだリザードンの背に乗り込むダンデさんをボーッと見つめていると何してるんだという顔で手招きされる。
「ほら、前に乗るんだ」
「へ?」
「安全に送り届けてやるさ」
「は、はぃ……じゃあ、」
失礼します、と断りを入れ前に座らせてもらう。何度かライドさせてもらった事はあるがどうしても近くの体温に緊張してしまう。
自我を保つ為にもと気持ち前寄りに座り隙間を開けていると、背後から回ってきた腕に容赦無く後ろに引っ張られる。ひえ、ダンデさんの体温が直接背中に。
「しんどいだろう。オレにもたれた方が楽だぜ」
「はっはヒ」
声がひっくり返ってしまう。寧ろこっちの方が問題ですとは言えないまま、ダンデさんの合図でリザードンがふわりと飛立つ。
ゆったりとしたスピードで、私に気を遣ってくれているのが分かる。ありがとう、と気持ちを込めて手を置いていた首の後ろ辺りを撫でさせてもらう。
ああ、でも、なんだか。
まるで揺り籠の様なゆったりとした浮遊感、背中から伝わる他人の、ダンデさんの体温と心臓の音。こんな心地良い空間に居たら、わたし。
「ふっ。……おやすみ」
耳元から聞こえた声を合図に瞼が閉じて行く。折角のダンデさんと夜のお空デートなのに勿体ないな。
ああ、ふふ。なんだか、すごくしあわせだ。