スキスキダンデ様

「こんばんは!今日もお疲れ様です!チャンピオン・ダンデ様!昼間に広場で開催されていたポケモン触れ合いイベント参加させていただきました!やっぱりよく育てられてるポケモンはかっこいいですね!あ!一番かっこ良かったのはもちろん!チャンピオン・ダンデ様でしたけどね!!大好きです!!!」
「………」

 今日も今日とてたまたま、そうたまたま出会ったチャンピオン・ダンデ様に想いの丈を伝える。
 かれこれ何百回、いや下手したら何千回目の告白ってとこかな……照れちゃう。

 まあいつも通りにダンデ様には無視されちゃうんですけどね。ぴえん。

 私がなぜこんな事をしているのかというと、簡単です。チャンピオン・ダンデ様にこ、恋をえへへしているからなんですねえへへへへ……。

 私が初めてチャンピオン・ダンデ様に出会ったのはまだ彼が『ハロンタウンのダンデ』だった頃、つまりは彼のジムチャレンジ挑戦中の事だった。

 私より一歳上のたった十歳の彼が、飛ぶ鳥ポケモンを落とす勢いで各ジムとトーナメントを勝ち上がって行った。そして見事にチャンピオンを討ち倒したのはガラル地方を震撼させる出来事だったのは言うまでもない。

 今と変わらず当時の私はポケモンバトルがどうも苦手だった。九歳の誕生日にはおばあさまがたまごをくれたが、産まれたポニータも余りバトルは好きではない様で。
 なんとか最低限のバトルは出来る様にと、ルミナスメイズの森で野生のポケモンに相手をしてもらい特訓をするという日々を送っていた。

 ある日、森の様子がいつもとは違うことに気付いたものの重く捉えることもなく、森の奥へと足を踏み入れた。
 いつも特訓相手をしてくれるイエッサンやシュシュプなどが見当たらず不思議に思いながらも奥へ奥へと進み続け、そして様子が違う原因へ辿り着いた。

 そこに居たのは普段は優しい筈のヤレユータン達。だが彼らは一触即発、戦闘態勢に入っている様子で、十匹ほどのヤレユータン達が睨み合っていた。
 いつもの喧嘩の知恵比べではなく、血を血で流す縄張り争いなのだろう。

 ここはそっと、今すぐこの場を離れるべきだと幼いながらも懸命な判断を下した私はそろりと逃げようとしたのだ。が、お決まりのように地面に落ちていた枝を踏みつけてしまい、辺りにバキッと大きな音が鳴ってしまった。

「あっ……」
「「ゔぅ!?」」

 もちろん気づかれ絶体絶命、ポニータの特性が『にげあし』だったらと考える暇もなく只管走る。

 あの先の木のトンネルを抜ければあとはアラベスクタウンまで一本道!というところで木の上を飛んで先回りをしたヤレユータン達に退路を塞がれてしまう。
 さらには私とポニータを中心にぐるっと三百六十度囲まれてしまった。

 まだまだ子供の、しかもタイプ相性も良くないポニータと私では森の中で生活しているヤレユータンに叶うはずも無い。ここで私の人生は終わるのか、なんてまだ一桁しか生きていない短い人生の走馬灯が流れだそうとした時だ。

「リザード!だいもんじ!」
「ガゥッ!」

 そう、ダンデ様の登場だ。
 なんとアラベスクタウンのジムへ挑戦しようと向かっていたダンデ様が偶然通りかかり、私の事を助けてくれたのだ。

 リザードのだいもんじを受け怯んだヤレユータン達は森の奥へと戻って行き、私達は助かった。過言ではなく、ダンデ様のおかげで私は今日もも元気に息をすることができているのだ。

 無事だっとはいえ、まだまだ九歳のかよわい私は涙も震えも止まらず地面に座り込んでしまった。

「キミ、大丈夫だったか?」
「ゔぅ……は、はい。ありがとう、ございました」
「キミは生きてるぜ、大丈夫だ。これで涙を拭いて」
「フギュ」

 おそらくキャンプ用に持ち歩いていたのだろうタオルを顔に押し当てられ、ゴシゴシと涙を拭われる。

「怪我は無いか?痛いところは?」
「な、ない……」
「なあ、実は、その……森で迷ってしまったんだ。こんな状況で悪いんだが、アラベスクタウンへの行き方を教えてくれないか?」
「わたし、アラベスクタウンに住んでるので案内できます」
「そうだったのか、ありがとう!是非お願いするぜ!」

 涙を拭い、タオルから顔を上げるとニパッと眩しい笑顔。
 そう、私はこの時初めてダンデ様の顔を認識し、身体中に衝撃が走ったのだ。

──えっっ、か、かっこいい…………。

 これが、一目惚れってやつ、なのかな……。
 なーんて、当時少女漫画が大好きだった私はコロっとダンデ様に恋に落ちたのでした。えへへ。

「……?どうかしたか?やっぱり何処か痛いところでもあるか?」
「あっ心臓が……」
「心臓!?大丈夫か!?」
「あ!違うんです!全然元気っ!さあ、アラベスクタウンに向かいましょう!」
「あ、ああ……」

 しかしここで問題が。なんと立ち上がろうとしても腰が抜けてしまって、足に力が入らないのだ。

「あ、あれ……?」
「立てないのか。ほら」

 目の前には私に背中を向けてしゃがむダンデ様が!?

「……ほら、早く乗るんだ。賢いヤレユータン達だから大丈夫だろうが、ここに戻って来ないとは限らない。」
「は、はい」

 そんなこんなでダンデ様におんぶをして貰う事になり、真逆に行こうとするダンデ様を何度も引き止めつつアラベスクタウンまで辿り着くことが出来たのでした。
 え?もちろんずっとドキドキしてましたね。ダンデ様とてもいい匂いでした。

「ここで大丈夫です、ありがとうございました」
「まだポケモンセンターだ、家まで送るぞ?」
「いえ、もう歩けるので大丈夫です。……あ、あの!ジムチャレンジに来たんですよね?」
「ああ、そうだぜ!まあまずは、リザードを進化させてからだな」
「ガウ!」

 先程たくましくだいもんじを放っていたリザードが元気に鳴く。

「やっぱり!絶対観戦しに行きます!頑張ってください!」
「サンキュー!あ、そうだこれを」
「え?」

 なんとこの時に目の前でリーグカードにサインを書いて手渡されたのだ。今オークションに出せばかなりの値が付くこと間違いなしだ。出すことは一生無いけど。来世まで持っていく。

「わ!ありがとうございますっ」
「じゃあ俺はここで、気をつけて帰るんだぜ!」
「はい!あの、あの……」
「ん?」

「大好きですっ!一目惚れしました!」
「えっ、あ、ありがとう。その、これから応援してくれると嬉しいぜ!じゃあ!」
「あっ!!」

 真っ赤な顔をして再び森の中へ走り去っていった彼を見えなくなるまで眺め続ける。走るのも早いんだ。しまった、名前を聞いていないのに。いや、今リーグカードを貰ったんだった。

「ダ、ン、デ。あの人ダンデって言うんだ。ダンデくん、……ダンデさま♡照れた顔もかわいくてかっこよかったな……♡」

 ここから私のダンデ様を追い続ける人生が始まった。

 俺たちの冒険は、これからだ―――!


「おい」
「はっ!」

 そうだ、私は今たまたま出会ったチャンピオン・ダンデ様とのお話し中だったんだ!私とした事が!

「私と貴方の愛の起源について思い返していたらボーッとしてしまいました!ごめんなさい!」
「………。リザードン」
「ばぎゅあ」

 心得たとばかりに呼ばれただけでダンデ様を背中に乗せるリザードンくん。
 うーん、今日も羨ましいくらい意思疎通ができてる!流石だ!

「今夜はいつもより冷えるらしいのであったかくしてお過ごしくださいね!チャンピオン・ダンデ様!大好きです!また明日〜!」

 あ!たまたま出会ったって体なのにまた明日って言ってしまった!
 まあ途中で飛び立っていたので聞こえてないことでしょう。私はめげないんだから!

 ……とは言いつつも私も十四歳。そろそろスクールの友達みたいに恋人の一人や二人くらいは欲しいお年頃。

 初めは出会う度に告白する私に照れた反応をしてくれたダンデ様だけど、今では冷たく鬱陶しそうにあしらわれる事が増えた。
 普段は快活なチャンピオンなのに私に対してだけあんな反応されると正直……嬉しくなっちゃう。私だけが知っている、『チャンピオン様』じゃない『ダンデ』としての一面。えへへへへへ。

 でもやっぱり、自分だけの悦楽のために迷惑をかけ続けるのはよくないよねという倫理観がやっと私にも備わり始めた。なので、そろそろダンデ様を追いかけるのも終わりにしなければと近頃は考えている。

 というか、こんな一般人の私が迷惑をかけていい相手ではないのだ、チャンピオン・ダンデ様という男は。

 このガラルの無敵のキング、チャンピオン・ダンデ様。
 あの十八年もの間チャンピオンを維持していたレジェンド・マスタードさんの元で修行をし、ジムチャレンジ初挑戦でチャンピオンに勝った男なのだから。
 えっやっぱ改めてダンデ様凄すぎない!?いや〜好きですね〜。

「むしろもう告白とも思われてないんだろうなあ。女としても見られてなさそう。次の恋、探すか〜」

 ふと呟いた時に後ろからガサリと物音。
 振り向くとこの辺りでは珍しいドラメシヤが居た。首にスカーフが巻かれているからどうやら野生ではなさそうだ。

「あら?アナタ、トレーナーと逸れちゃったの?迷子?ふふ、ダンデ様みたいね」
「〜♪」

 ダンデという言葉に反応したのかご機嫌に鳴くドラメシヤ。

「かわいい!アナタもダンデ様の事好きなの?私と同じだね!」
「メシ〜!」
「あっ!」

 ふわりふわりと空へ飛んでいくドラメシヤ。
 目的があり飛んでいるようなので心配は要らないだろう。

「首にスカーフ巻いて、ご主人に愛されてるんだなあ」

 さ、私も今日はもう遅いしかーえろっ!
 明日は友達に程よく良さそうな人がいないか聞いてみなきゃ!




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