だってオレは、

*病み注意





 オレがガラル地方に引っ越してきた時には、既にあの子には想い人が居た。それだけの話だ。

 母さんが移住先に選んだのはガラル地方の中でも田舎、ハロンタウンだった。どうせなら都会の方が良かったとは流石に言葉にはしなかったが、そこまで不満に思う事も無かった。むしろ感謝したいくらいだ。だって、此処を選んだおかげであの子に出会えたから。

 ハロンタウンは過疎化が進んでいて、人口よりも牧場のウールーたちの方が数が多い。そんな限られた中でも、奇跡的に同世代の子が二人も居た。ホップとナナシだ。
 ホップは天真爛漫で少し自信過剰な所もあるが、明るくて元気な奴。ナナシもそんなホップと一緒に育ったからなのか、年齢の割には腕白な性格をしていると思う。ただ、彼女がホップを見る視線には明らかに情が乗っていた。
 最初は二人は既に付き合っているのだと思っていたが、ホップの方が恋愛のれの字も興味がない様子で。ナナシの片想いなのだと直ぐに気がついた。オレにはそれが好都合だった。
 だって、オレはナナシに一目惚れしていたから。

 そんな二人と一緒にジムチャレンジに参加し、オレはホップの兄であるダンデさんを討ち倒し、あれよあれよとチャンピオンになってしまった。名目ともにオレはガラルで一番強い人物となったのだ。
 ローズさんのブラックナイト事件により負傷したまま戦ったダンデさんは本調子で無かったと擁護する声も少なくないが、それもまた運だ。運も実力のうちって言うでしょ。
 そもそも、オレはダンデさんが出来なかったムゲンダイナの捕獲に成功している。そこからも実力はオレの方が、とは流石に言い切れないけど。まあ、ホップも一緒だったし、ザシアンとザマゼンタのおかげだしね。

 でも、ナナシはジムチャレンジ前にオレに言ったんだ。『ダンデ兄ちゃんくらい強い人が好き』って。それはオレを傷つけない様にした遠回しな『ごめんなさい』だったんだろう。
 そしてその『強い人』はナナシの中ではホップを指していたんだろうけど、生憎オレの方が強かった。『ダンデ兄ちゃん』よりもオレの方が強かった。だから。

「付き合おうよ、オレたち」
「で、でも……」
 ジムチャレンジの間にオレよりも目線が低くなったナナシが困った様に俯く。
「オレ、ダンデさんよりも強くなったよ」
「……そうなんだけど、」
 そうじゃなくて、と胸元で手をもじもじさせる。ああ、ふふ。可哀想過ぎて笑ってしまいそうだ。オレは悲しそうに、不安そうに問いかける。
「……オレの事、キライ?」
「っ、そういう訳じゃ!」
 慌てた様にガバリと顔を上げる。あ、目が合っちゃったね。
「ホップが好きだから?」
「そ、れは……!違うくって、」
 口では否定しているけど、顔はジワジワと赤くなっていくナナシ。でも、言質は取っちゃった。
「じゃあ付き合おうよ」
「………うん、と」
 断りの言葉が紡がれそうになる瞬間にナナシを抱きしめて、その声に被せる様に態とらしく喜びの声を上げる。オレは相槌を都合よく勘違いしちゃっただけなんだ。
「やった!これからオレたち恋人だね!」
「えっ!?ち、ちがっ!」
「あ、ホップー!」
 遠くから歩いてくるホップに声を掛ける。偶々研究所から戻ってくる時間だったみたいだ。
 笑顔で駆け寄って来たホップが途中でオレの腕の中にナナシが居ることに気付き、驚いた顔をする。ナナシはというと焦って顔を真っ青にしている様だ。
「ホップ、オレたち付き合う事になったんだ」
「え!?そ、そうなのか?ナナシ」
 戸惑った様にホップがナナシに問いかける。ね?とオレが促すとナナシは俯いてしまった。ただホップはそれを肯定と取ったらしい。
「おめでとう!二人はお似合いなんだぞ!」
「ありがとう、ホップ!」
 喧嘩しない様になと言い残しホップが走り去る。ああ、なんだか悪い事しちゃったかな。でも、いつまでもハッキリしないキミたちが悪いんだ。オレは直ぐに行動に移すタイプなんだよね。

 眉を下げ涙目になっているナナシの頭を撫でる。何の涙なのかなんて、オレは知らないよ。
「ナナシ、これからよろしくね!」
「…………っ、」
 肩を震わせるナナシの頬を涙が伝う。はは、ダメだ。笑みが堪えられないや。
 大丈夫、心配しなくてもナナシも直ぐにオレの事好きになるよ。ホップよりもずっと、ずーっと、ね。だって。

──オレはこの世界の主人公なんだから!




(ホップくんも夢主ちゃんも自覚の有無はあれどお互い想い合っていた。けど、それを言葉にすることはなかった。小さい頃からずっと側にいるのが当たり前だったから。そんな二人の中に入り込んでぐちゃぐちゃに掻き回すマサルくんでした。なんかちょっと逆行ぽくなっちゃったけど全然そんな事はないです。ホップくんを自信過剰と評する一方自分も自信過剰というヤツで、マサルくんはその自信過剰に負けない実力を持っているってだけです。光のマサルくんを闇/病みキャラにしてしまった罪は重い。牢獄に入って来ます。さようなら)




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