砂糖の甘さは己の甘さ
伸ばした手が空を切る。おかしい、先程まではそこにあったのに。目はスマホに向けたまま手だけをちょいちょいと動かし手探りで目当てのものを探す。すると真上から溜息。あ、やばい。
「……お、おかえり〜ダンデくん」
「ただいま」
「お早いお帰りで……」
すぐ側に立っていたダンデくんに慌てて挨拶をする。
チラリと時計を確認するともう十九時を指していた。いつの間にこんな時間に……。そうか、私は時渡をしていたのか。
あははと誤魔化しながらダンデくんが持っているものに手を伸ばすが、スッと上に持ち上げられる。笑っているその顔が笑っていない。
「いつも通りの時間だぜ」
「いや本当にそうでございますねオホホ」
「なあ」
静かなリビングにピンと張り詰めた空気が流れる。とんでもない圧を感じる。ここはバトルコートだった……?
「それ、なんだ」
「エッ?これですか?え〜と、……ゴミ、ですね」
「なんのだ」
せめてクエスチョンマークを付けてくださいダンデ様。怖くて逃げ出してしまうぞ!なんて巫山戯た事は口に出来るわけがなく、私は正直に答えることしかできない。
「……お菓子、です」
「種類は」
「ポテトチップスと、チョコレートと、あとクッキー、ですね……」
「グミを忘れているぜ」
「ア、ソウデスネ……」
ダンデくんが手に持っていたものをプラプラと揺らす。もう殆ど無いじゃないかとか今関係無くないですか!?いえバリバリ関係ありました。ごめんなさい。
「痩せるんじゃなかったのか」
「お腹が減って……どうやら無意識に……」
ダンデくんのナイフのような鋭い視線が刺さる。うう、私をそんな目で見ないで。
「この間、オレの外食の誘いを断ったのは誰だ」
「私です……」
「この間、目の前でお菓子を食べるなと癇癪を起こしたのは誰だ」
「……、私です……」
「この間、オレに」
「私ですっ!ごめんなさい!!」
許してくださいとダンデくんの足に縋り付く。どさくさに紛れて足に抱き付けてラッキーとか思ってないですよ。本当です。
頭にポンと乗せられた手が髪を梳く。これは許されたかもしれない。恐る恐る顔を上げると苦笑したダンデくんと目が合う。
「本当に仕方ない子だな、キミは」
「ダンデくん……っ!」
「だが」
髪を梳いていた手にガシリと頭を鷲掴まれる。痛いとまでは行かない絶妙な力加減。
逆光の筈なのに、そのイエローの瞳だけはまるで暗示を掛けているかの様にぼんやり光って見えるのは気の所為だろうか。現に目を離せないんだよなあ。
「この家に間食の類を持ち込む事はキミもオレも禁止にしよう」
「エ」
「今あるのはこれだけか?」
ダンデくんの問い掛けに脳が信号を出す前に勝手に手が動き、指を差す。ダンデくんの後ろに控えていたリザードンくんがその方向に向かい、その先にあった戸棚を開く。
「こんなに溜め込んで居たのか、キミ……」
「……」
「さては今日以外にも食べていただろう」
「…………」
「……。これは明日リーグスタッフに差し入れる、いいな」
「はい……」
リザードンくんが戸棚にみっちり仕舞われていたお菓子を取り出して行く。鋭い爪をしているのに本当に器用だ。
ああ、私のお菓子たち……。さようなら……。
「なあ」
「は、はいっ!」
いけない、せっせと動くリザードンくんをぼうと眺めてしまっていた。
「もし次お菓子を食べた時には」
「食べた時には……?」
「オレが特別メニューを組んでやろう」
「ひぃ……っ」
ダンデくんが日々熟している厳しいトレーニングが頭をよぎる。とてもじゃないが、そんな事をした日には一週間は筋肉痛で動けなくなる。
冗談なんかでは無いその提案が実現するかしないかは、全て明日からの私に掛かっている。頑張るのよ、私……!