どちらかが相手を拘束しないと出られない部屋

 朝起きたら知らない天井が見えて、しかも隣にはダンデさんが居て。

「同棲始まりました?」
「まだ寝ているのか?」

 頭をゴンと小突かれる。ちょっと、いや結構痛い。という事は夢では無い、これは現実だ。なんだ、やっぱり同棲じゃないか。

 床で寝転んでいた私の横に座っていたダンデさんが立ち上がり部屋を歩き回る。私も身体を起こし周りを見回すが窓も扉も無い、殺風景にも程がある部屋だ。いつの間にここへ来たのだろうか。……まさかダンデさんに連れ込まれた!?

「なんだこれは」

 思わず溢れ出た、という様な呟きに顔を上げる。ダンデさんは壁際に置かれていたキャビネットを開き、引き出しに入っていた紙を読んでいた。その顔がどんどん歪んで行く。一体何が書かれているのだろうか。

「どうしたんですか?」
「いや……」

 ちょっと待ってくれと何度も紙を読み直すダンデさん。気になる。
 他には何か入っていないのかなとダンデさんに近付き、横からキャビネットの引き出しを覗き込む。と。

「え、ロープ?」
「……」

 引き出しの中に入っていた一本の長いロープを手に取る。ホームセンターなどで売っている極々普通のロープだ。
 何か知ってるかとダンデさんを見上げると、無言で紙をこちらに向けられる。

「『どちらかが相手を拘束しないと出られない部屋』……ってどういう事ですか!?」
「オレが知りたいぜ」

 一文字ずつ間違いが無いように読み直す。が、紛れもなく『どちらかが相手を拘束しないと出られない部屋』と書かれている。
 この紙と一緒にロープが入っていた、という事はつまりこれで。

「し、仕方ないですね!どうぞ!」
「……」

 ダンデさんにロープを差し出す。胸が高鳴っているのは期待とかじゃなくて緊張してるだけなんだから!だって、ダンデさんに縛られるって事でしょ!?
 そっと大きな手を重ねられ、遂に、とニヤついているとロープを受け取られる事なくこちらに腕ごと押し返される。あれ。

「ダンデさん?」
「考えたんだが」
「?はい!」
「ただの知り合いというだけのキミにそんな事をするのは失礼だろう。キミがオレを拘束してくれ!」
「ええ!?」

 色んな事への驚きで声を上げる。わ、私がダンデさんを拘束する?そんな事があっていいのか?勢いで私は犯罪者になってしまわないだろうか。……ていうかただの知り合いって。私はこんなに好きだと言っているのに。ぴえん。
 渋々じゃあ腕を出してくださいとお願いしようとする前に何故かシャツを脱ぎ出すダンデさん。何故脱ぐ!?

「ど、どうしたんですか!?」
「何がだ?」
「ふ、服ですよ!何で脱いでるんですか!?私を殺す気ですか!?」

 私の剣幕に驚いたのかキョトンとした可愛い顔をされる。何なのその顔!可愛いな!畜生!

「脱いだ方が縛りやすいだろう」
「え!?」
「ほら、早く」

 拘束といっても手首を結ぶだけで良いと勝手に認識していたが、もしかして亀甲縛りとかなんちゃら縛りとかの本格的なやつにしなければいけないのだろうか。そんなのやり方知らないし、ダンデさんの身体、しかも生肌に直接触れてしまう事になる。こんなご褒美があっても良いのか。いや寧ろやらなければ此処から出られないのだから。でもやらなかったらそれはそれで一生ダンデさんと此処で二人きりに?ワンチャン私の事好きになってくれるかも?もしかしてそっちの方が、

「おい」
「はっ」
「くだらない事考えてないで早くやってしまおう。一応オレは忙しいんだ」
「は、はい!すいません!そうですよね!ただいま!」

 一息で返答し、いざ!とロープを伸ばしダンデさんに近付く。が、そうだ。私はやり方が分からないんだった。

「えっと〜。ダンデさん、やり方分かります?」
「……。まずは紐自体に結び目を作っていくんだ」
「へ〜!」

 結び目か!いきなり巻き付けていく訳では無いのか。え?ていうかダンデさん空でやり方教えられるってもしかしてそういう趣味の方なのだろうか。普段から女を縛って縛って遊んでいたりして?……ちょっとショックだけど、ガラルを代表する人物だもんね。色んなストレスの発散方がある。人一倍のストレスを抱えているダンデさんが特殊な方向へ行っていても何もおかしくはないのだ。受け入れるしか無い。私もソッチ系統は要勉強だな。

「なあ、絡まってるぜ」
「あれ?」

 ダンデさんに縛られ鞭で叩かれる所までもうそ……想像したところで待ったを掛けられる。あれ?言われた通り普通に結んでるつもりだったのに何故か変な輪っかが幾つも出来ている。何をどこで間違えたのか。そもそもまだダンデさんは自由なんだし手伝ってくれても良くないか。いえ別に不満があるなんてそんな事は無いんですけど。
 そうこうしている内に絡まりはどんどん酷くなり、分かりやすくなる様に腕にかけた部分さえ余計にややこしくさせる始末だ。

「はあ。何をしているんだ」
「うぅ、助けてください……」
「全く。キミ、不器用すぎないか。貸してみろ」

 あっ♡ダンデさんの指が私に触れている……♡
 状態を確認する為ダンデさんがロープの端からゆっくり辿り解いていく。途中には私の腕も辿らなければならないので、不可抗力で僅かに触れてくる指の感触にうっとりしてしまう。
 変な声と吐息を出すなと怒られながら少しずつ解かれていくロープを見つめる。あと少し、というところでダンデさんが動きを止めた。

「どうかしたんですか?」
「……いや」

 今ダンデさんが持っているロープを引けばとりあえず腕は解放されそうなのに、何か問題があったのだろうか。空いてる手でロープを辿るもうーん、よく分からない!ダンデさんだけが頼りだ。
 そうして考えることを放棄していると両腕にスルスル何かが巻きついてくる感覚。あれ?

「えっ、え??」
「……」
「ダンデさん……?」
「……よし」

 テキパキと無駄なく動いていたダンデさんの手が離れた瞬間、遠くからゴゴゴと何かが動く音。え?とダンデさんを見上げると音のした方向を見て頷いていた。

「出口が現れた様だぜ!」
「あ!本当ですね!」

 先程までただの壁だった場所に、ポッカリと人が通れるくらいの四角い穴が空いていた。
 どうなる事かと思ったぜと脱いだシャツを身につけるダンデさん。ああもっと目に焼き付けておくんだった。結局ダンデさんを縛る事は出来なかったし、ダンデさんの生肌に触れる事も出来なかった。残念。
 少しだけ落ち込んでいると歩き出したダンデさんに合わせて引っ張られる腕。よく見ると腕に巻き付けられていたロープの先をダンデさんが掴んでいる。
 着いてこない私を不思議に思ったダンデさんが振り返る。

「……ああ、部屋を出るまでに解いたら出口が塞がれるかもしれないからな」
「はっ!た、確かに……!流石です!ダンデさん!」

 ほら行くぜとロープを引っ張られる。あ、なんかこれ、やばいかもしれない……♡

 無事に部屋を出られた私たち。ダンデさんにロープ解かれた時に少し赤くなった跡をさすられた時には心臓が止まるかと思った。

 その後、家に帰り着いてから早急に拘束モノのアレソレを買い漁ったのは言うまでもない。




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