スキスキダンデ様(ダンデside)
「こんばんは!今日もお疲れ様です!チャンピオン・ダンデ様!昼間に広場で開催されていたポケモン触れ合いイベント参加させていただきました!やっぱりよく育てられてるポケモンはかっこいいですね!あ!一番かっこ良かったのはもちろん!チャンピオン・ダンデ様でしたけどね!!大好きです!!!」
「………」
世間一般的には休日の今日、昼間にリーグ主催のポケモンとの触れ合いイベントがありそれにゲストとして参加した後の帰宅途中。
今日も今日とて目の前に彼女が現れた。
正直今日は久々のイベントで走り回りかなり疲労も溜まっているので早く家に帰りたいのだが……。
昼間にも姿を見たというのに帰り道にも変わらず現れた彼女になんとも言えない気持ちになる。
何百回、下手すれば何千回も聞かされた彼女からの『好き』という言葉。
初めのうちこそ俺もどういう反応をすればいいのか分からなくて、ドギマギしながらうやむやに返答していた。
が、ある時から彼女の言葉に違和感を覚えてからは、あまり彼女の事は得意では無くなってしまった。
彼女との出会いは約五年前、俺がジムチャレンジをしていた頃まで遡る。
俺は例の如く生まれ持った方向オンチに悩まされながらもなんとか旅を続けていた。だが、ルミナスメイズの森だけは本当に方向感覚が分からなくなり困り果てていた。
そして森の奥深くまで迷い込んでしまった先で、ヤレユータンの群れに囲まれている少女を見つけた。咄嗟に当時のリザードと共に助けに入った、それが彼女だった。
涙が止まらない彼女にキャンプの際に使うタオルを貸し(ちゃんと未使用の物だ)、涙を拭うと彼女が顔を上げた。
その時、まるで寝ぼけたソニアのワンパチにほっぺすりすりをされた様な、とにかく強い電撃が身体中に走った。
──か、かわいい……。
まあ、つまりはその、彼女の顔がタイプだったんだ。
その後は平常心を保ちつつ、腰を抜かし立てなくなった彼女を背負って、アラベスクタウンまで何事もなく辿り着くことができた。
別れ際に次のジム戦を観戦しに来てくれるとのことで、普段はつい渡すのを忘れがちなリーグカードにこれまた珍しくサインまで入れて彼女に手渡した。
余談だが、ジムチャレンジ中のオレのリーグカードは他のチャレンジャーの様に頻繁に写真を変更することもなく数も最初に刷った十枚ほどしか存在していない。
サインを入れたのも母さんとホップに渡した二枚と彼女に渡した一枚だけなのだ。
まあわざわざそんな事を彼女に伝えるわけもないのだが。
その後、彼女から生まれて初めての告白(だったのかも今では分からない)を受け、気が動転した俺はルミナスメイズの森に逆戻りする事となる。
あの時もありがとうな、リザードン。
その後も順調にジムチャレンジを進んで行った俺は、師匠であったマスタードさんの教えの元、当時のチャンピオンに勝ち、チャンピオンとなった。
チャンピオンになり暫くしてから頻繁にシュートシティで彼女に出会う様になり、その度に『好き』だの『大好き』だのを聞かせられる日々が始まったのだ。
どうやら彼女はシュートシティのスクールに通っている様で、シュートシティのマンションで一人暮らしをしているらしい。
珍しい特性のポニータを贈るほど過保護気味だった彼女の祖母であるポプラさんがよく許可を出したなとは思う。
それから何回目かの遭遇、そろそろどう返事をしようかなどと自分なりに考えていた頃、俺は気付いてしまったのだ。
彼女は俺のことを『チャンピオン・ダンデ様』としか呼ばないのだ。
これって、つまりアレなんだろ?『チャンピオン』である俺にしか興味が無いわけで。
もちろんそんなつもりは無いが、もしも俺がチャンピオンを降りることになった時、その時が来たら彼女は俺になんか興味が無くなってしまうのではないか。
そう一度でも考えてしまってからは、ダメだった。
それでも彼女は今でもほぼ毎日現れるし、やっぱりなんだかんだ彼女が気になってしまう自分がいる。
最近ではドラパルトにお願いして一匹のドラメシヤに録音用マイクを持たせ彼女を尾けるように指示する始末だ。やはり音だけでは物足りなくて映像も欲しいので良い小型カメラを模索する日々……というのは置いておいて。
「おい」
「ハッ」
少し考え込んでしまっていたが、とにかく今日はもう疲れたんだ。早く家に帰らせてくれ。
「私と貴方の愛の起源について思い返していたらボーッとしてしまいました!ごめんなさい!」
「………。リザードン」
「ばぎゅあ」
呆れたようなリザードンの声を無視して背中に乗る。
……彼女も俺との出会いについて考えていたのか、なんて、一緒の事を考えていた事に少し嬉しくなりつつ。
今日も安全飛行で頼むぜ、リザードン!
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「あぁ、帰ってきてしまったのか。ドラメシヤ」
「メシ〜♪」
今日彼女の後を尾けていたドラメシヤはきまぐれな性格をしていて、どうも毎回早く帰ってきてしまう。
首元に巻いていたマイク入りのスカーフを外し、今日の成果に耳を傾ける。
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「……は?」
俺以外を好きになろうだなんて、させるわけないだろう。