煉獄さんに押し倒される話〜光ver〜
あれ、この人は何で私を押し倒してるのだろう。性を感じさせる様な、男らしい顔つきをして。
確かに一応恋人同士ではあるが、それは可哀想なことに前世からの関係を断ち切れなかっただけで。この人にとって私はそういう対象では無かった筈だ。
「杏寿郎、さん……?」
「ん?なんだ」
まるで愛おしいものを見る視線で、手つきで私の頬をつ、となぞる。二度目の人生でも初めての体験に、背中がザワザワと粟立つ。
震える喉を奮い立たせ、なんとも弱々しい声を出す。
「ど、どうかされましたか。私、何か仕出かしましたか」
「いや、君は何もしていない!」
では何でこんな状況に、と目の前の彼を見つめることしかできない。分からない。彼のことは今も昔も、何も分からない。
私と彼には大正時代に生きていたという摩訶不思議な記憶がある。教科書には記述されていない、人を殺める鬼が蔓延していた時代。
その時代に彼は鬼を滅する鬼殺隊として、私はその許嫁として生きていた。
結局彼の元へ嫁ぐ事は叶わなかったけれど、偶に顔を見せに来てくれる彼は私を妹の様に可愛がってくれていた。妹の様にとは正に文字通りで、彼の弟への態度と私への態度はそう変わらなかった。
任務終わりの彼がそのまま同じ布団で眠ることもあった。だが、欲を向けられる事もなく、口吸いなんてもってのほかだった。
だから、彼にとって私は好ましいとは思われていてもそれは家族愛で、夫婦になる相手としては見られていないのだと思っていた。
「なんで」
「やっとだ!」
「な、何が、でしょうか」
「やっと君を俺の物に出来る!」
にこやかに笑いかけられる。こんなに笑顔が眩しい男性を、私は二度の人生で彼しか知らない。
問題は、彼の言葉が日本語の筈なのに、理解できないこと。俺の物、とは。頭の中で検索を掛けても、某ジャイアニズムの少年しか出てこない。
とはいっても、一応私は今も昔も杏寿郎さんの物、の筈。立場だけだと。ただ、今世では彼を縛り付けるつもりは無かったのでタイミングを見て別れるつもりだった。
「私、ですか……?」
「うむ!前の世では君を手に入れる前に死んでしまった。だからこそ、今世では俺と一緒になって欲しい!」
「は、はあ……」
分かったような、分からないような。前の世では、とは仰いますけど何かと理由を付けて嫁がせてくれなかったのはそちらでしょう。
もしそれに罪悪感を抱いているだけなら気にしないで欲しいのだけれど。私も、私の家族も大して気にして居ない。
そう伝えようと口を開いた途端に、彼の節くれだった太い人差し指がそっと唇に充てがわれる。柔い皮膚から感じる彼の体温に心臓がドキリとリズムを乱す。
「俺は昔から、会った時から君に夢中だった」
「ぇ、え?」
「気付かれていないとは思っていたが、よもやここまでとは」
「だ、だって!杏寿郎さんは!」
私で興奮しないですよね。
私の言葉によって、杏寿郎さんの部屋に沈黙が落ちる。一瞬目の前の彼が固まったかと思うと、距離を取る為顔の横に置かれていた腕が折り畳まれ、私の身体に彼が重なる。ん?
「きょ、じゅろ、さん……?」
「俺は」
「ひっ」
「ずっと我慢をしていたんだが」
分かってくれたかと太ももに何かが押し付けられる。これは、いや、え?杏寿郎さんの……?なんで勃って……?
突然の状況に頭が追いつかず呆然としていると、いつの間にか首筋からちゅ、とリップ音が鳴っている。え?
「杏寿郎さん!?」
「よもや!どうかしたか?」
「どうかしたかって、な、何を……?」
「む?ああ」
「君に受け入れてもらう準備だ」
私は意識が飛んだ。