不意打ちンデ

「ヴァッッッ」
「変な声出してどうしたんだ」
「不意打ちンデ……」
「ふいうちんで……?」

 なんだそれはと顔に書き訝しげな視線を送って来るダンデくんにスマホの画面を見せる。画面にはデカデカとスーツ姿のダンデくんが映っている。確か数年前の有識者会議に出席した時の映像だ。

「これまた懐かしいヤツだな」
「いきなりスーツはダメですよ……」
「はあ」

 ダンデくんは興味を無くしたのか手元の新聞に視線を戻した。私もスマホに意識を戻しスーツ姿のダンデくんをうっとりと眺める。
 普段はイマイチカッコいいとは言い切れないユニフォームにかなり重さのあるマント姿でのメディア露出が多いダンデくん。だがちゃんとした場では当たり前だがそれ相応の御召し物を身に纏う。

 たまたま動画サイトのオススメ欄に出てきた当時のニュース動画だが、久しぶりにスーツ姿を拝めて眼福だ。ニュースについてのコメントに紛れるダンデカッコいいの文字にうんうん頷きながら動画の高評価を押し、私が私のためだけに厳選したダンデくんカッコイイリストに追加する。
 これでいつでもスーツダンデくんを見れる。ふふふ。

「あっ」

 ニヤついていると目の前からスマホが消え、慌ててダンデくんを見る。その手元には私のスマホが。主人である筈の私よりダンデくんの言うことを聞くなんてどうなっているんだ、このスマホロトムは。……まあ契約名義はダンデくんだけど。

「なに?」
「そんなにスーツ姿のオレはカッコいいか?」
「え?そんなの当たり前だよ〜!ふふふ」

 さっき目に焼き付けたスーツダンデくんを思い浮かべる。あ〜ん、カッコいい〜!思わず黄色い声が上がってしまうのも仕方ないことだ。
 そんな私を見ていたダンデくんが自分のスマホを操作し、終わったところで私のスマホが返して来る。私のスマホでしょと小言を言ってもロトムはケテケテ笑うだけだ。

 ご丁寧に動画アプリを落とされていたので、もう一度動画を見る為にアプリを開きリストを開く。

「あれ?」

 無い。思っている動画が、ついさっきまで見れていた動画が無い。一番上には『非公開動画』の文字。ま、まあこれは良くあることだし、と一番下まで目を通すがどこにもスーツ姿のダンデくんは見つからない。閲覧履歴も、最新のものは『非公開動画』。……。

「だ、ダンデくん……?」
「なんだ?」
「あの、ど、動画が……さっきまで見ていたスーツ姿のダンデくんが見れなくなっているんですが……」
「ああ」

 消してもらったぜ!ととってもいい笑顔を向けられる。う〜ん、カッコいい!じゃなくて。

「消してもらった!?な、何故……」
「ネットは便利だが、いつまでも昔の映像が残るのは困りものだな」
「そんな……。そんなの今更でしょう!?!?」

 わーん、私のスーツダンデくんが権力でもみ消されたー!と喚いていると右腕が引っ張られる。ダンデくんが座っている反対側のソファのアーム部分にほぼ寝転ぶ形で凭れて居た為、殆どの体重が片腕に掛かってしまう。

「いたいいたいっ!腕外れるってば!」
「キミは」
「え?」

 腕は掴まれたまま反対側の腕が背中に回され、まるでワルツのダンスみたいに密着し、鼻が触れ合いそうなほど顔を近付けられる。ちかっ。

「そんなにキミは昔のオレがいいのか?スーツを着ているだけで。目の前にオレが居るのに」
「今のダンデくんが良いです♡」

 近距離でそんな事を言われたら即答するしか無いだろう。バイバイ、スーツダンデくん。そのカッコいい姿はしっかりと目に焼き付けたからね。
 私の返答に満足そうな顔をしたダンデくんが知ってるぜとオデコにちゅってしてくれたので万々歳。サンキュー、スーツダンデくん。フォーエバー、スーツダンデくん。

 今度スーツを着る日は絶対に会う約束を取り付けようと私はこっそりと決意した。




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