ワンドロ『礼服』

*『深夜のpkmn夢書き真剣勝負』参加作品です



 目の前の光景にうっとりする。まだ太陽も昇り切らない時間。少しずつ黒から紫へ、紫から青へと変わっていく空を背に佇む人物。その人の髪と空が同じ色で、まるでどこかの宗教画の様。
 僅かに差し込む光が服の装飾に反射し、その人自身が輝いて見えるというおまけ付き。私の中ではいつも光り輝いているけど。

「出来たぜ」
「うん……」
「聞こえてるか?」
「うん……」

 ああ、とてもカッコいい。本当にこの人はこの世に存在しているのだろうか。まさか私にしか見えていない天使様、いや神様なのではないだろうか。こんなにもカッコいい神様に断罪されるのなら、罪を犯すのもやぶさかでは無い。
 神様が此方に近付いて来られる。ああ、どんな地獄に落とされようとも、私は貴方を思っていつかは必ず天国に。

「戻って来るんだ」
「はっ、か、神様……!」
「神様?」

 オデコに衝撃を感じ意識が戻る。また変な妄想をしていたのかと神様……ダンデくんが呆れた溜息を吐く。だって今日は一段と輝きが増しているから。
 今だって朝陽が後光の様に差していて一段と神様。もうこれは神様以外の何者でもない。

「それより、おかしい所が無いか見てくれないか?」
「喜んで!」

 大衆居酒屋の店員みたいな返事をしてしまった。神様の前で恥ずかしい。心を切り替え、望まれた通りに目の前の神……ダンデくんの周りをぐるっと確認する。

「あ、ここが捩れちゃってる」

 ベルトから繋がるここの金具を外して、ねじれを直してまた付けて。よし、オッケー。他は問題無さそうだ。

「うん、大丈夫そう!」
「悪いな。チュニックタイプになるだけで随分装飾が増えて困るぜ」
「胸元のバッチも多いもんね」

 そう、今ダンデくんが身に纏っているのはいつものブロックコートでは無く、ショルダーノッチタイプの肩章が付いたチュニックを着ている。金色に輝くボタンもバッチも飾緒も、とにかく盛り沢山だ。
 今日はダンデくんがバトルタワーを開設して一周年。午前中からタワーで記念式典が開催される予定で、今絶賛準備中。式典自体までにはまだまだ時間はあるものの、早めに家を出るのに越した事は無いという事で、まもなくダンデくんは出発する予定だ。
 私も普段よりもうんと早い時間に起きて準備を手伝っていたのだが、うーん。

「カッコいい」
「ふふ、サンキュー」
「あっ、……えへへ」

 思わず口から出てしまった様だ。でも珍しく緊張した面持ちだったダンデくんが、いつもの様に笑ってくれたので結果オーライってやつかな。
 一度口から出てしまえばもう我慢する必要はない。むしろこの気持ちを伝えなくてどうするのだ。

「ダンデくん!いつもと全然雰囲気違ってカッコいいよ!勿論いつもカッコいいんだけど、また別のカッコよさ!素敵!天使!神様!近付き難いオーラがある!」
「……それは褒められてるのか?」
「当たり前じゃん!!」

 ダンデくんがそうだろうかと顎に手を当て首を傾げる。あ〜、人間の欲なんか一ミリも持って無さそう〜。人間の思考なんか理解出来ないぜとか言って欲しい。
 そんな邪な事を考える私の髪をくぐり、白い手袋をした大きな手が私の首筋に触れて来る。素肌とも、グローブとも違う感覚に少し違和感を覚えてしまう。

「どちらかと言えば色的に堕天使じゃないのか」
「へっ、だ、堕天使のダンデくん……?」

 確かにチュニックは金の装飾がよく映える黒色で、ボトムスも黒色のストレートパンツだ。赤でも白でも無く黒、漆黒。
 堕天使のダンデくんだなんてそんな、そんなえっちなワードが本人から提供されるだなんて。不思議とダンデくんの背中に真っ暗な大きい翼が見える様な気がする。

「キミを誑かしてオレは堕とされてしまったんだ」
「エッ!?」
「なんてな」

 耳元で低い声で囁かれたかと思うと、ニッと悪戯っ子の様な笑みを浮かべて離れて行く。そのまま壁にかかった時計を確認し、テーブルの上に並んでいたボールを手に取ったダンデくん。
 私は思考停止してしまい、ダンデくんを視線で追うことしかできない。わ、私の所為でダンデくんが……!?

「そろそろ行くぜ。見送ってくれないのか?」
「い、いく……」

 ヨロヨロと覚束ない足取りでダンデくんの後ろを歩きなんとか玄関へ向かう。
 用意しておいたドレスシューズを履き、ドアに手をかけたダンデくんが此方を振り向いた。

「そうだ、今日はこの服のまま帰って来るんだ」
「そ、そうなの?」

 じゃあまたこの目で見ることが出来るのかと内心喜んでいると、何故かくすっと笑われた。
 合っていた目がすっと細められ、心臓がどきりと跳ねる。

「だから、いい子で待っていてくれ」
「ひぇっ」
「返事は」
「はいっ!」

 じゃあ行って来るぜとドアは静かに閉められた。私はその場で崩れ落ちた。




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