オマエがちゃんと使用中にしないから!

 レナとの特訓中にフライゴンによって砂塗れにされたパーカーを脇に抱え廊下を歩く。歩く度にパラパラと砂が落ちる音が止まらない。こりゃ後でフライゴンと一緒に廊下掃除だな。
 今日はゴーグルを忘れちまって目もショボショボする。洗眼剤はまだ残っていただろうか。
 とりあえずはシャワーを浴びて、洗濯はその後だ。まだ終業時間まではあるし、ジムの中のランドリー室も開いてるだろう。

 シャワー室まで歩きながら最近頭を悩ませている問題について考える。

 オレさまはここ最近、どうしてか運が悪い。悪いというか良いというべきなのか、とにかく今まで有りそうで無かった失敗が起こる様になってしまった。

 例えば、ヌメルゴンの粘着液に滑り込んで来た女性を抱えきれずに地面に押し倒す体制になってしまったり。普段はあり得ないバトルコートの整備ミスにより扉が壊れ廊下を歩いていた女性を水浸しにしてしまったり、などなど。
 他にもまだまだあるが、上げ出したら止まらないのでこれくらいにしておく。ただオレさまは今までこんな事が起こった事は一度も無かったのだ。
 常に気を付けていれば良いというだけでは解決にならない。

 問題となるのが、今上げた事象全てに女性へのボディタッチが含まれるという事だ。下着が目に入るなんてザラにあるし、胸に触れる、唇が触れるなんて事もあった。この間なんかは股に、いや何でもない。
 しかも全てが同じ人物、それも最近ジムに新しく入って来た事務員の女性とだけ起こる。
 沢山の応募者の中からオレさま自ら選び抜いた人物。そんな彼女にオレさまがやっている事と言ったらセクハラ以外の何物でも無い。顔の好みで採ったと言われても反論は出来ない程だ。
 オレさまだってやりたくてやってる訳じゃ無い。どうしてか彼女に近付くとそういう事が起こってしまう。

 彼女が意図的にやっているのかと疑った事もあるが毎回被害に遭うのは彼女の方だし、何より毎回可哀想なくらい涙目になれる程演技ができる奴だとは思わない。
 仕事は出来るし他の事務員たちからの評価も良い。リョウタたちジムトレーナーも大層気に掛けている様だ。本当にオレさまだけ。対オレさまの時だけ変な事が起こる。どうしろってんだ。

 札が使用中ではない事を確かめシャワー室のドアを開く。いい加減そろそろジムの設備改修をしたいが中々認可が降りない。今度ダンデを通じて頼んでもらうか?いや、そんなダセェ事は出来ねえしな。
 壁際に置かれている棚の中に、衣服を入れるカゴが見当たらない。レナが先に使ってそのままランドリー室に持って行ったのか。仕方ない、そのまま置くか。

 脱ぐときにユニフォームから出来るだけ砂が落ちない様にゆっくりと静かに脱いでいく。それでもやっぱりパラパラと落ちるので此処も掃除かと溜息。
 かと言ってフライゴンに加減をしろと言う訳にはいかないしな。本番のバトルで上手く全力が出せなくなっても困るし、何より特訓だからって手を抜いている様ではダメだ。オレさまはダンデに勝つんだからな。

 髪を縛っていたゴムも解く。もう掃除は確定してるんだから砂が落ちるのも気にならない。ここまで纏わりつける砂嵐を起こせるオレさまのフライゴンは優秀だな。
 ふふんと一人笑っていると後ろからドアが開く音。え?

 慌てて振り返るとこちらをポカンと見つめる二つの瞳と目が合う。なんでコイツが此処に居るんだ?札は使用中になっていなかった筈だ。
 入口ではなくシャワーブースの方から現れた彼女は、今までシャワーを浴びていたのだろう。勿論何も身に纏っていない。

「きっ、きっきっ!!??」
「ま、待てっ!」
「ふぐぅっ」

 状況を理解したのか彼女が叫ぼうとする。のを慌てて口を塞ぎ押さえ込む。ここで叫ばれたら不味い。流石に問題になる。明日のトップニュースがキバナ逮捕になってしまう。
 廊下に話し声が漏れないようにシャワー室の中に押し入る。……あれ、もしかして選択ミスったかもしれない。

「な!なんでっ!?」
「シーーーーっ!」
「えぇっ!?」

 戸惑いつつもオレさまの指示に従って小声でなんで居るのかと聞いてくるナナシ。いやそれはこっちのセリフなんだよな。

「札、使用中になってなかったぞ」
「う、嘘です!」
「嘘じゃねえって!オレさまもよく確認しなかったのは悪いけどよ」
「そんな……」

 思わず溜息を吐く。目の前の、いや随分下にある頭がびくりと跳ねる。チラリと視線を落とすと、ジワリと大きな目に涙が溜まっていて。あ、なんか。

「ごめ、なさっ」

 まろい頬を一筋、二筋と涙が伝ってい、手で隠された胸元に落ちて行く。
 ……どうやらもう我慢をするのは無理そうだ。

「え、ぇっ?き、きばな、さま?」
「……悪りぃ」

 結局オレさまはランドリー室には行けなかったし、掃除は次の日に行った。




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