ダンデが一人で手当てしてる話
ガタンと大きな音がして目が覚めた。手探りでスマホを探して時間を確認する。深夜一時。起きるには全然早い時間、むしろ寝始めてもおかしくない時間だ。夜型のポケモンが活動してるのかもしれない。
まあいいかと寝返りを打ったところでとある事に気付く。隣に人が居ない。空いて居る場所に手を伸ばしても冷たいシーツに触れるだけ。
先に寝てくれとは言われたけど、もしかしてまだ起きているのだろうか。じゃあさっきの物音は。
まだ寝かせろと我儘を言う重い瞼をこじ開け、ベッドから起き上がる。少しふらつく足取りで物音がした方、多分リビングかな。暗い廊下を歩きそっちへ向かう。
予想通りというか、リビングのドアの隙間から光が漏れている。やっぱり何かしている様だ。もし男性特有の処理とかだったら気不味いので、様子を伺う様に少しだけドアを開ける。
目当ての紫はすぐに見つかり、ソファには座らず何故か床にしゃがんでいる。そんな隠れて、と一瞬考えてしまったけど何かを拾っている様子。床に散らばっているのは。
「包帯?」
「!」
私の声に驚いた様に振り返る。いつもだったら気配だ何だと言ってすぐに気付くのに珍しい。
「……すまない、起こしたか」
「ううん。……水、飲みかったの」
「そうか……」
咄嗟に嘘をついたけど、バッチリ見抜かれているだろう。それでも嘘じゃ無いんだよとばかりにキッチンへ向かい水を飲む。
もう一つコップに水を汲み、まだせっせと散らばった物を箱に戻している人の側のテーブルに置く。位置的にここから箱、救急箱は落ちたのだろう。
「怪我、してるの?」
「……いや、違うんだ」
「じゃあ病気?その包帯は?」
「……」
そんな大胆にお腹に包帯を巻いて、怪我じゃないと言うなら何と言うのか。
前に怪我をした時、私が心配しすぎてしまったのが悪かったのかもしれない。ウザったく感じられたのだろうか。でもだからって黙らなくてもいいじゃない。
もしかして今までも、こっそりこうやって一人で手当てをしていたのか。
「手伝うよ」
「……すまない、どうしても上手く入らなくて」
「違う」
私が否定の言葉を出したからか、やっと今初めて目が合う。いつもとは違う弱々しい目。
「手当て、手伝うから。だから」
「ナナシ……」
「一人で抱え込まないで」
「……」
「心配されるのが嫌なら何も言わないから。態度も変えないから。だから、手当てくらいはさせて、くれませんか」
あれ、何で私泣いてるんだろう。泣いてしまったら、嫌でも『はい分かりました』としか答えられなくなる。違うのに。
涙を見られたくなくて俯き、なんでもないのとぐちゃぐちゃに入れられた救急箱を整理する。ああ、気不味いな。想像していたのとは違う気不味さだ。
何個か薬が足りないのがあるけど、それは明日……いや今日か。とにかく朝起きてから探せばいい。一刻も早くこの場所から去りたい。
箱の蓋をパチンと閉め、立ちあがろうとすると腕を引っ張られた。ぎゅうと抱き締められたその身体からは消毒液と軟膏の香り。
「すまなかった。キミに心配をかけたくなかったんだ」
「……」
「大して大きい傷では無いのに、キミに怪我人扱いされるのは嫌だったんだ」
そうか、前に肩をざっくりと切って何針も縫ったのは大きい傷では無かったのか。その時も、おそらく今日も、ポケモンバトルで負った傷なのだろう。
この人にとっての怪我の基準は何なのだ。ポケモンが関わると、てんで判断基準が緩くなる。
「それに、キミを泣かせたくなかった」
「……」
「なのにこうやって泣かせてしまっては意味がないな」
手当ての時に余ったのだろうタオルで目元を拭われる。涙腺がおかしくなってしまったのか、涙は止まる気配が無い。なんの涙なのか自分でも分からない。
「なあ、泣き止んでくれないか?」
「……」
「……。嫌だったんだろう、悲しかったんだろう。オレが黙っていたことが」
「……」
「悔しかったんだろう、手伝わせてくれなかった事が」
オレももし、キミがオレに黙ってそんな事をしていたら責めただろうな。そう言って私の肩に顎を乗せ、自嘲するように笑う。
「……分かってるなら、なんでっ」
「キミが大事だからだ」
「っ、」
「キミが大事だから、大切だから、余計な心配させたく無い」
「でも」
「キミには、いつでもカッコいいと思われていたいんだ」
咄嗟に顔を上げようとしても頭の後ろを押さえつけられて上げられない。なんで、どうして。顔が見たいのに。それに。
「ダンデくんは、いつでもカッコいいよ」
「ふふ、サンキュー。でもな、弱っているところを見せるのには勇気がいるんだ」
「ゆうき」
「ああ。……愛している人には少しでも見栄を張ってしまうのが男の性なんだぜ」
「!」
そう言われて頬に柔らかいものが当たる。いま、ちゅって、愛してるって言われた……?
頭が混乱している。ぐるぐるお腹の底で渦巻いていたものがふわふわと綻んで。それを上手く言葉には出来なくて、とにかく目の前の身体にそっと腕を回す。
「今日はもう寝よう。……起きたら、包帯変えるの手伝ってくれるか?」
「……ん、いいよ」
ふふと笑ったダンデくんが私を抱き締めたまま立ち上がる。自分で歩くと抵抗するとそういうのが嫌だと言われてしまう。なので仕方なく、いつも通りに大人しく身体を預ける。
ポケモンバトルを辞めろとは言わない。けれど、もう少し自分の身体を大事にしてほしいとは思う。
だって貴方は、私の愛する人だから。お互い様ってヤツでしょ。
(
「うわ、これ火傷?」
「ああ。昨日はリザードンの調子がよかったんだぜ」
「そっか。……はい、出来たよ!」
「サンキュー!」
「もうこれ以上傷増やしちゃダメだよ」
「はは!最近は無かったんだぜ?」
「うん……あれ?ここ」
「ん?」
「ここ、肩甲骨の辺り新しそうな引っ掻き、傷……」
「……ふふ」
「なんでもないです」
「心当たりが?」
「知らない!早く服着て!!」
「イタタタ、傷が……」
「も〜〜!嘘はいいから!」
「本当だぜ?」
「え、大丈夫なの?包帯緩める?」
「ふふっ、嘘だぜ」
「も〜〜〜〜〜!!!」
)
(実際ナナシちゃんが自分に黙ってることがあったら絶対許さないマンになるンデ)