七夕'21
キラキラと輝く星空を見上げる。今日は一段と輝いて見えるのは日付のせいか。カントー地方に居た頃はこの日は雨が降ることが多かった。こんなに綺麗に星が見えることに感動を覚える。
「空がどうかしたのか?」
「ん〜」
仕事からの帰り道、何故か途中で出会ったダンデくんが話しかけてくる。どうやらまた道に迷ったらしい。本人としてはこのまま真っ直ぐ行けば辿り着くとの事だが、生憎シュートシティとは正反対の方向である。
駅まで送ると言っても聞かないし、ならもう知らないと家までの道のりを歩く私。その後をついて来るダンデくん。何がしたいんだろう。
「今日はね、七夕なの」
「タナバタ?」
「そ。離れ離れになってしまった恋人の二人が年に一度だけ会える日」
「なんでまたそんな」
「知らなーい」
なんでだったっけ。七夕といってもメインで思い付くのは短冊に願いを書いて、それを笹に付ける行事だけ。天気が良くなくて星が見えないことも多かったし、あまり話を正確に覚えていない。
「たしか、それまで勤勉に仕事していた二人が恋人になった途端に仕事をしなくなったから……だったかな」
「それだけでか?」
「え、結構なことじゃない?正直迷惑じゃん。だから川を挟んで離れ離れにさせて年に一度、七夕の夜だけ会わせることにした。こんな感じだったと思うよ」
「へぇ」
あれ、二人は結婚してたんだっけ。もう忘れてしまった。まあ、ガラルで生きていくには必要のない知識だしいっか。今のところカントーに戻る予定もない。
でもたまには、紙を切って短冊と七夕飾りを作るのもいいかもしれない。確かずっと前に買った画用紙が残っていた様な。
「オレたちは大丈夫だな」
「え?」
何かを考えていた様子のダンデくんが唐突に放った言葉を理解できない。『オレたちは大丈夫』……何が?
「どういうこと?」
「ん?オレたちが恋人になってもキミは仕事を辞めないだろう」
「??」
「オレとしては辞めてほしいが、その所為で離れ離れにされたら元も子もない」
「????」
「だから、オレたちは大丈夫だな!」
ははは、と満足気に笑うダンデくん。正直なところ今の話、一ミリも理解できなかった。そもそもなんでダンデくんは私と恋人になる想像をしたのか。絶対あり得ないのに。
少しだけ、いつもより心臓が早くリズムを刻んでいるのは歩いているから。それ以外の何物でもない。
「何も言わないんだな」
「……ちょっとよく分かんなくて」
「そうか、分からなかったか」
そうこうしてる間に私の住むマンションの前に辿り着いた。じゃあまた、と振り返ろうとしたのに背中に手を添えられてそのまま進む様促される。戸惑っていると鞄を探られ、見つかった鍵で玄関のロックを開けられる。
「だ、ダンデくん?」
「夜も遅いし泊めてくれないか?今からタクシーを呼ぶのも申し訳ないしな」
「えぇ?」
「確か五階だったよな」
「う、うん」
今からって言ってもまだまだ天辺を回るまでは時間があるし、なんで私の階数を知っているのかも分からない。ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえたのか、くすりと笑われる。自然に肩に回されていた手で頬をすりと撫でられた。
「ベビーポケモンにも分かるように解説してやるぜ」
何を、とも嫌です、とも言えない空気と圧。こんなに家に帰るのが怖いのは生まれて初めてだ。
織姫さま、彦星さま。この人を引き剥がすにはどうしたらいいですか。来年からは笹も飾りも何週間も前から準備しますのでどうか私を助けてください。