七夕'21

「ナナシちゃん、はいこれ」
「え?」

 つい先程何故かベランダからやって来た我がジムリーダー様が紙切れを差し出す。よく分からないまま受け取ったけど、この縦に長い紙をどうしたら良いのだろうか。

「なんですか?これ」
「タンザクって奴!これに願い事を書いたら叶うんだってよ」
「タンザク……、願い事……?」

 面白そうだから持ってきたんだよとへにょっと緩くヌメラスマイルを浮かべる。わざわざそれだけの為に事務員の家まで来たのか。
 テーブルの上に放ってあったボールペンを渡され、早く書くように促される。突然来るものだから汚い部屋を見られてしまった。今すぐ外に締め出したいけど、職場のトップに当たる人物にそんな事はできない。
 そもそも突然願い事を書けと言われても何も思いつかない。お金が欲しいとはこの人の前で書けないし……、あ、恋人が欲しい!とも書けないので生活が充実します様にとか?

「書けた?」
「あっちょっと待ってください」

 きっとこの後も他の職員の家を回るのだろう。さっさと書いてしまわなければ。もう生活の充実でいいだろう。無病息災、生活の充実。これ以上無い贅沢な願いだ。
 すごく視線を感じながらも字が乱れない様に丁寧に文字を書く。こんな事ならもっとカリグラフィーの授業を真面目に受ければよかったと後悔。

「すいません、お待たせしてしまって」
「いや大丈夫だよ」

 渡した紙をジロジロと見られる。分かっていたけどプライバシーなど皆無だ。恥ずかしい。

「キバナさまは何を書かれたんですか?」
「ん〜?オレさまの気になっちゃう?」

 仕方ねえなあと楽しそうに見せられた紙には達筆に書かれた文字。『気付いて貰えますように』……?

「どうだ?」
「え〜っと……?どういう……」
「ふふ、なんだろうなぁ?」

 詳しくは教えて貰えないまままた明日なとベランダから再び出て行ったキバナさま。一体何だったんだろう。
 雲一つない星空の中にフライゴンの緑色が吸い込まれていった。


****


「先輩、そういやタンザクには何書いたんですか?」
「タンザク?何それ」
「え?昨日キバナさまが……」
「昨日はキバナさまと会ってないよ?ね?」
「オレも会ってないよ」
「あれ、でも昨日家に……あれ?」
「「あ……(察し)」」
「わ、私だけ……ですか?」
「あ〜、そういや前なんか書いたような〜」
「わ、私も〜」
「あ、よかった!そうだったんですね!」
「「あははは(キバナさま分かりやすすぎる)」」


****


「んふふ、ナナシちゃんの願い事はオレさまが叶えてやらないとな〜!そしたらオレさまの願い事も叶うし、一石二鳥ってな〜!」




back
トップページへ