漏れるか、漏れないか
「だ、ダンデくん……?」
「ん〜……」
お酒の香りをぷんぷん纏わせた紫の頭が肩にもたれ掛かってくる。今日はジムチャレンジの打ち上げとは聞いていたけど、ここまで酔って帰ってくるとは思わなかった。まだお酒を飲めないチャンピオンやホップくんも参加すると聞いていたし。
申し訳なさそうな顔をしたホップくんと、きちんと嗜む程度で留めたのであろうカブさんの姿を思い出す。二人はベロベロに酔ったこのダンデくんを家まで送ってきてくれて、有難いことにベッドまで運んでくれた。珍しい組み合わせに他のメンツも潰れたのだと察する。後日お礼をしに行かなければならない。
「ダンデくん、離れて〜」
「ん〜〜」
「ん〜じゃなくて……」
さっきからずっとコレを繰り返している。ベッドに運んでもらって、二人を玄関まで見送って。寝室に戻って来たらダンデくんが起き上がっていたので大丈夫かと声を掛けたところ引き寄せられ、何故かこの体勢のまま数分が経過している。
普段よりも早いペースで吐き出される息はアルコールをモロに感じさせる程で、こっちまで酔いそうになる。寝てしまった方が楽なんじゃないかと思うけれど、ダンデくんは離れてくれない。早く離れて欲しい。
実は、私は今、大変尿意を催している。
いつもだったら帰る前に連絡をくれるダンデくんだけど、今日はご覧の通り潰れていらっしゃるのでそれが無かった。そして突然帰ってこられた。それが偶々私のトイレ行こっかな〜どうしよっかな〜のタイミングに被ってしまったのだ。
こんな事になるなら面倒くさがらずにさっさとトイレに行っておけば良かった。こんな時に限ってダンデくんは離れてくれない。涙がちょちょぎれそうだ。
「ねーえ、ダンデくんてば」
「んぅ〜」
「わわわ、ちょっと」
肩をずり落ちたダンデくんの頭が私の膝の上に着地する。膝枕だ。憧れることもあったけれど、今は全く望んでいない。是非そのままベッドに落ちてくれ。
そんな願いは叶わず、こちらを向く様に寝返りを打ったダンデくんが私のお腹にぐりぐりと顔を押し付けてくる。可愛い、けどマズイ。膀胱が。人権が。
「ダーンデくん!それはダメだ!ほら、枕はあっち!あっちで寝よう!」
「ん〜……、なんでだ?」
「へ」
「このままがいい」
そう舌足らずに言い更にぎゅうとお腹に抱きついて来る。か、可愛いーー!でも本当にやばい!どうしてこんな事に!
「で、でもね、ダンデくん」
「キミは、オレのことがいやなのか?」
「んん……?」
「せっかくかえってきたのに」
「ダンデく〜ん……?」
「キミがさびしがるかとおもって……!」
「!?」
私は今もしかしてメロメロを掛けられている……?お酒のせいか分からないけど、少しだけ潤ませた瞳で私のことをムッと睨み上げるダンデくん。口元を私のお腹にくっ付けているから髭が見えなくて、より幼く見えてしまう。
可愛い。でもそこで喋らないで。振動が本当にいけない。私のために帰って来てくれたというのは嬉しいんだけど、それどころじゃない。私は今にも決壊しそうなのだ。膀胱が。
私のためだと言うのなら今すぐ離れて欲しい。もう限界だ。
「は、離して、ダンデくん」
「いやだぜ」
「嫌だじゃなくて……も、漏れるの!」
「もれる……」
「ダンデくんが嫌なわけじゃないの!お願いだからトイレに行かせて!もう限界なの!!」
「といれ……」
羞恥心を堪えて直接言葉で伝える。ぽつぽつと私の言葉を繰り返すダンデくん。子供でも分かる文章だ。さあ、早く私を解放して!
最早意識はトイレに向かっている私からダンデくんが離れてくれる、事はなく。むしろお腹から胸辺りまで身体を起こしてきてそのまま押し倒された。なんで!?
「だっダンデくんっ!?聞いてた!?私トイレにっ」
「わかった、ここですればいいだろう」
「はあ!?」
「もうオレはねむいんだ」
言葉の通りに居心地の良い場所を探して目を閉じるダンデくん。しっかり腕は、というか半身が私に乗り上げている状態だ。ちょっと、いや大分マズイ。
残念ながら踏ん張ることも出来ない今の私にはどうすることも出来ない。踏ん張ったら出るからね。完全に詰んだ。
「起きて!起きろっ!ダンデっ!!」
「いやだ」
「もう漏ちゃうよ〜!わ、私の人権が〜っ!!」
「オレがみとめてたら、じゅうぶんだろ」
「ひえ」
とんだ暴君の様な事を言い放ち、すやすやと寝息を立て始めるダンデくん。ま、待って〜!そうだけどそうじゃないの〜!その言葉、本当に起きてからも覚えていますか?覚えてないですよね??そしたら全てを失うのは私だけなんですが??
私の膀胱が朝までもったのかどうかは神のみぞ知る。