言葉足らずのダンデくん
「え?何の冗談?」
「だから冗談じゃない!キミが好きなんだっ!」
「はあ」
おかしい、こんな予定では無かったのに。つい数十分前まで頭の中で思い描いていたのは、今頃ナナシと抱き合っている自分だ。それが実際はどうだ。
格好良さも男らしさも何もない、ただみっともなく好意を受け取って欲しいとナナシにすがっている。
今までオレたちが築き上げて来た関係は一体何だったのか。ただの友達だとは言わせない。少なくともオレの方には友情なんかカケラも無かったのだから。あったのは恋愛と少しの下心。いや、本当に少しだけだぜ。
スタジアムで人前に出るよりも緊張しているというのに、想定外の事でさらにどんどん嫌な汗が溢れてくる。今にもナナシに掴みかかりそうになる腕を理性で押さえ込み、荒くなっている息を整える。
何をしているんだダンデ、オマエはこんなちっぽけな男では無いだろう。自分を思い出せ、自分に後悔したくは無いだろう。当たり前だ。
「ナナシ、もう一度言う。オレはずっと前からキミの事が好きなんだ」
「まだ言ってるの?」
「本当なんだ!オレは前から、キミと出会った時からキミの事が好きだ。冗談なんかじゃない。キミがウールーに追いかけられ転んで泥だらけになった時も、キミが苦手なおかずをオレの皿にこっそり乗せた時も、キミがココガラと一緒に空を飛ぶと木の上から落ちた時も、キミが」
「やめてやめてやめて!勝手に人の黒歴史を語りだすな!ふざけるのもいい加減にして!」
「違うんだ!黒歴史なんかじゃない、オレはそんなキミをずっと可愛いと思っていたんだ!それに、その……」
「まだ何かあるの……」
ウンザリとした顔で睨み上げられる。だがオレにとっては上目遣いに見え、ただ可愛いだけだ。僅かな理性が揺らぎそうになる。ダメだぜダンデ。
ここは格好良く決めてみせるんだ、ダンデ。
「キミが、これ以上オレから遠い場所で可愛く、綺麗になっていくのが許せないんだ」
「はあ」
雑誌の撮影でカメラマンにも読者にも好評だった精一杯のキメ顔を向けた。が、ナナシには効果が無かったようで、相変わらずウンザリとした顔。
どうしてなんだ。オレはそんなにも男として見られていなかったのか。成長するにつれ女性からアプローチを掛けられる事も増えたから、勝手に自分は魅力があるのだと勘違いしていたのかもしれない。
「……これでもダメなのか」
「んー、ていうかダンデくんさ、覚えてないの?」
「な、何をだ!?オレは既にキミから嫌いだと言われていたか!?」
「いやそうじゃなくて」
「『オレは一生恋人は作らない』って宣言したよね?私とソニアの前で」
「……は?」
「あとは……『オレの隣に並ぶのはリザードンだけだ!』だっけ」
「そんなことっ!……いや、言った、かもしれない……」
ほらね、と呆れたように溜息を吐くナナシ。いや、いや……。そうだ、言った記憶がうっすらある。
あれは、オレがチャンピオンになって五年目くらいの時だったか。オレとナナシとソニアの三人で集まると、大体は二人の会話にオレが巻き込まれる形になって。それで好きな人は居るかの話になったんだ。
丁度その頃、オレはとある令嬢に気に入られていたらしく噂が広まり始めているとローズさんに教えてもらった時だった。そうだ、それでオレはその事実無根な噂が広まってもナナシに誤解されない様に。
『オレは一生(ナナシ以外の)恋人は作らない』
『オレの隣に並ぶのはリザードン(とナナシ)だけだ!』
サッと血の気が引く。恋という花の種を大事に大事に育てていたオレは、まだ沢山の蕾を付けている最中で。気持ちを伝えずにとにかく誤解をさせない方法はこれしか無いと行き着いたんだ。
ナナシはしっかりとその言葉を覚えていてくれて、だからこそ今日のオレの言葉を全く信じてくれなかったのか。
オレがこんなにも自分の選んだ道を後悔したのは初めてだ。あの時のオレをぶん殴ってやりたい。
「す、すまない、ナナシ。……今日のことは忘れてくれ」
「……そっか、分かった!もう揶揄うのはやめてよね!」
「ああ、すまなかった」
揶揄ったつもりなんか一度もない。全てオレの本当の気持ちだった。
何年も前のオレの言葉を覚えていて、ずっと信じていてくれた嬉しさはある。だが必ずその言葉を覆し、今のオレの言葉を信じさせてやる。
そう一人意気込んでいたオレは、走り去るナナシの後ろを心配そうにナナシのスマホロトムが着いて行くのには気が付かなかった。
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「今更あんな事言ってくるなんて、ダンデくんはズルいよ」
2021/08/16