思春期キバナと学生生活
「お前って本当可愛くねえよな〜」
いつもだったら此処で何も言えなくなり、キョダイマックスニャースだのアローラナッシーだのと話題に関係ない悪口を言い返す。でも今日の私は違うのだ。
「ふ〜んだ!アンタはそう思ってても私のこと可愛いって思ってくれる人は居るもんね〜!」
「はァ?居ねぇよ!そんな物好きなやつ!」
「そんな事ないもんね!」
スクールバッグを漁り、ついさっき渡されたばかりの手紙を取り出す。なんと、散々今まで目の前の人物に可愛くないだのブスだの言われ続けて来たこの私が!ラブレターを貰ったのだ!
コイツのせいで自尊心なんかゼロに等しく、自分はどう頑張っても可愛くないブスだと諦めていたがそんな事は無かったのだ。私を可愛いと認識してくれる人は居たのだ!
「ほら!ラブレター貰っちゃったんだ〜!んふふ!」
「だ!誰からだよ!どうせイタズラとか」
「違うもんね〜!ちゃんと直接渡されたもんね〜だ!」
前から可愛いと思ってました、好きですって顔を真っ赤にして、手を震わせてこの手紙を渡された。ちゃんと読ませてもらったけど中身も私へのアツ〜イ気持ちが書かれていたし、コイツの言う様なイタズラでは無く、ガチの告白とラブレターだ。
人生で初めての恋愛イベントに浮き足立つのも仕方ない。
「何処のどいつだ?同じクラスか?先輩か?後輩か?」
「隣のクラスの人!選択授業の時一緒なんだ〜」
散々バカにしていた私に先を越され焦っているのかすごい剣幕で問い質される。ふふん、ざまあみやがれってやつよ!
「……それで、ソイツと付き合うのかよ」
「え〜?お友達からでも良いって言われたし〜?でも付き合っても良いかな〜って……わっ、ちょちょ!何?」
自分でも調子乗りすぎかなと思うくらいルンルンしながら話していると、突然路地裏に押しやられる。スクールに入ってムカつくくらいデカくなったコイツには、すっかり力では敵わなくなってしまった。
夕陽が当たらない薄暗い壁を背に、前には学ランの壁。少女マンガでよく見る壁ドンの体勢だ。何が悲しくてコイツに壁ドンされなければならないのか。
「何?制服汚れちゃ」
「好きだ」
「は?」
「オマエが好きだ」
このタイミングでその冗談はキツいと笑ってやろうと見上げると、そこには思っていたのとは違う真剣な顔。私の前では柔く釣り上がりがちだったその目が、今はバトルの時みたいに鋭く釣り上がっている。どうして。
どうして私は、さっき告白された時よりもドキドキしているの。
「ソイツよりもずっとオレの方がオマエの事を知ってるし、ソイツよりもずっとずっとオレの方がオマエの事を好きだ」
「な、何?どうしちゃったのよ」
「告白、断れよ。友達にもなるな」
ずっと私を見つめてくる碧眼から逃げたくて顔を俯ける。大きな手がすりと頬に触れて来て、そこから熱が広がる様に顔が熱り出す。
その手からも逃げたいけれど、なんだかこれ以上動かせないし、動かしたくない。
「……なんで」
「……」
「なんで、アンタは可愛くないやつに、告白、してんの」
「……」
「私、可愛くないんでしょ。物好きになっちゃうよ」
「……あーーーーー!!」
「……っ?」
触れられている頬とは反対側の肩に顎を置かれ、背中には腕が回ってくる。目の前の首筋からは最近つけ始めたという香水の香りと、僅かに彼の家の懐かしい香りがして、少しだけ落ち着く。
「…………いよ」
「え?」
「オマエは可愛いよ!ずっと!オマエしか可愛いと思った事ない!」
「っ」
顔は埋めたまま、でも腕の力は強くなって。イチミリの隙間も無くピッタリとくっ付いている私たち。だからこそ感じる私のものではない早い鼓動に、私の心臓までつられて早く脈を打つ。
「なあダメか?」
「……えっと」
「オマエが可愛いから意地悪しちまったんだ。オレだけがオマエの隣で、一人でドキドキしてるのが嫌だった」
「……」
「自分でもバカだと思う。許してくれなくていい。……でもオレも告白した。返事は欲しい」
「……」
「いつまでも待つから。ソイツが良いって言うなら今は諦める。でも絶対にオレの方が良いって分からせてやる」
「……」
「……、だから」
「……ふふっ、あはははは!」
どんどん早くなる私のものではない鼓動と、止まらず紡がれ続ける言葉。それがなんだか面白くって、つい笑いが堪えられなかった。
そのままゆっくりと離れ、遠ざかる体温が残念だと思ってしまう私は。私も、きっと。
「いいよ」
「え?」
「アンタと、キバナと付き合う」
「は、え?い、いいのか?」
「ふふ、うん!」
「ほ、本当にいいのか!?オレだぞ!?ずっとオマエに酷いことばっか言ってたんだぞ!?」
「……本心だったの?」
「違うっ!!」
「ふふ、ならいいよ」
クスクス笑っているとポツリと雨が降ってくる。雨?今週はずっと快晴だって。え。
見上げると視界に入ったのは見開かれた、二つのまあるい空から流れる雨。……なんだか、久しぶりに見たなあ。
「そんなに私と付き合えるのが嬉しいの?泣き虫キバナくん」
「ぅ、ゔれしぃ……」
「えぇ……」
揶揄ったつもりだったのに思った反応と違っていて、こっちが困惑してしまう。確かに昔はよく泣いていたけど、そんなに?
昔を思い出して背中をぽんぽんと叩いてやる。と、またぎゅうと強い力で抱きしめられた。
「ぐ、くるしぃ……」
「うぅ、好きだ。結婚してくれ」
「はあっ!?さ、流石にそこまでは……」
「嫌だ、結婚する……。オマエと結婚するって決めてる……」
「一人で決めないで〜……。まあ、それは今後のアンタ次第よ」
ほら頑張ってと背中を摩ると鼻を啜る音。ポケットに入れていたハンカチを渡してやり、キバナが落ち着くのを待つ。
暫くして離れたキバナがスクールバッグを肩に掛け直し、顔を背けて此方に右手を出してくる。私も右手を差し出し握手をすると違うと怒られてしまった。
「こっちだよ!分かれよ!」
「仲直りの握手かと思ったんだもん!」
「んな訳ねえだろ!オレたち恋人、……なんだぞ」
「……うん」
すっかりいつものキバナに戻ったかと思ったけど、いつもとは違うくすぐったい雰囲気。ふふ。ここらで一発、私もやり返してやろうかな!
繋いでいる手をくいくいと引っ張ってこちらへ屈んでもらう。近くなった耳元にもっと近付いて。
「私もね、ずっとキバナの事好きだったよ」
「っは!?お、オマエっ!」
「多分ね!」
「……っ!……はーーーーっ」
「ほら、帰ろ?」
「……フフ、ああ!」
翌日。告白のお断りをするのに態々ついて来たキバナが、そのスクールで一番デカイ身長を生かし無駄に相手に圧をかけまくった事により、早々に私たちの関係は周知されるのだった。
2021/08/20