自覚するまであと100日
「キミ、これ以上オレに近寄らないでくれるか?」
「え、は、はあ」
困惑した表情で頷く彼女にまた苛立ちが募る。本当は分かっているくせに、そうやって分からないフリをして。
正直、流石のオレでもこれ以上付き纏われるのはもうウンザリだ。
「分かったか」
「あの、その。すいません、心当たりが……」
「は?」
この後に及んでまだそんな事を宣うのか。地を這う様な低い声が自分から発された事に少し驚きながら、それを彼女にぶつける。
肩をびくつかせて怯える様に此方を見てくる目が心底気に入らない。こんな感情を人に抱くのは生まれて初めてだ。
「オレに近寄るのを、付き纏うのをやめてくれと言ってるんだ」
「っだから、思い当たることが……」
「いい加減にしろ」
「っ」
瞳に並々と溜まっていた涙がついに決壊し、まろい頬に一筋二筋と伝う。そうやって泣けば解決すると思っているところがもっといけ好かない。
キミの涙はオレを苛立たせるだけだ。なんの意味もない。むしろ逆効果だ。それくらい分かるだろう。
これ以上この場に居ても気分が悪くなるだけだと判断し、今後も続ける様であればリーグから直々に対応をする事を伝える。つまりガラルには居られなくなるも同然だ。
それを聞き、声を押さえて啜り泣く姿が本当に目障りでイライラする。あからさまに聞こえるように大きく息を吐きその場から立ち去る。
これでやっとオレに平穏な生活が戻ってくる。
****
「という訳だ!オレだってストーカーくらい自分で対処出来るんだぜ」
「へえ〜、ヨカッタナ〜〜」
「……はあ」
目の前の二人から思っていた反応が来ない。もっとすごい、良くやったなとか言われると思ったのだが。
オレの話の途中から只管つまらなさそうにグラスをマドラーでかき混ぜていたキバナが顔を上げる。
「オマエさあ、本当にその子ストーカーだったのか?」
「当たり前だろう。オレの行く先々に現れるんだぞ?しかも一人の時に限ってだ。ストーカー以外のなんて言うんだ」
オレの話を聞きながらギターで曲を作っていたネズが口を挟んでくる。
「ダンデ、オマエ自分が何か分かってるんですか」
「オレか?チャンピオンだが」
「そうじゃねえですよ。方向音痴、でしょうが」
「……まあそうだな。それが何なんだ?」
オマエマジかよとドン引いた顔をキバナが向けてくる。一体なんなんだキミたちは。
「オマエ、行く先々って言うけどよ。目的地が違っただけで実際その子と会ったのは同じ場所とかじゃねえよな?」
「そんな事無いぜ!一度シュートで会ったことがある!」
「一度、ですか」
二人が顔を見合わせてため息を吐く。なんなんだ、本当に。
「言いたいことがあるなら言ってくれないか」
「じゃあ言わせてもらいますけど。その子はオマエのストーカーじゃないですね」
「オレさまもそう思う〜」
「は?何でだ?被害者のオレが言ってるんだぜ?」
「だってそれ、オマエから会いに行ってんじゃん」
「は??」
「何が被害者ですか。本当はその子に会いたかったのはダンデの方だったんじゃ無いですか」
「そんな訳が、」
「無意識にその子のとこに通ってたんだよ、オマエ」
言われたことに納得できなくて、テーブルを叩き、大きな音を立てて椅子から立ち上がる。それに驚く様子もなく興味無さそうに見上げてくる二人。
「絶対に違うぜ!第一オレは彼女を見るだけでイライラして」
「それ」
「な、なんだ」
「お子ちゃまなダンデくんには分からないでちゅかね〜」
「…………」
「これはオレたちが口を挟んじゃダメなやつですね」
「な」
育て方間違えたなと笑う二人が面白くなくて、財布から札を何枚か出し机に叩きつける。オレはキミたちに育てられた覚えはない。
それを見てゲラゲラ笑い出す二人を背に店を後にする。
オレが今こんな不愉快な気持ちになったのも全部彼女の所為だ。本当に気に入らない存在だぜ。
2021/09/02