ありあまる富
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事務所のドアを開けた俺は暫く言葉が出なかった。
あんずさんに急遽呼び出されて事務所に来てみたら、事務所は煌びやかに飾られ、事務所スタッフやニューディ所属アイドルのみならず他事務所のアイドルたちが一斉に出迎えてくれた。
あんずさん主催の俺の誕生パーティーは盛況の装いを呈していた。正直俺は少し戸惑っていた。俺のような嘘つきを祝いたいなんてやつ、居るわけない。俺だったらごめんだね。そもそも俺自身、自分の誕生日など忘れていたというに。
「三毛縞先輩楽しんでますか?」
そんな俺の様子を察したのか、あんずさんが声をかけてきた。俺は本心を隠すのが上手い方だと自負しているが、あんずさんにはどうにも見抜かれれしまうらしい。
「俺が思ったより沢山の人が集まっていて驚いたぞお!さすがあんずさんだな!!」
俺は率直な思いを口にした。
あんずさんは首を横に振った。
「私の力じゃないです。みんな三毛縞先輩のお誕生日を祝いたいて思って集まってるんですよ。だからこれは三毛縞先輩の力です。」
彼女の言葉はいつも正直で、俺とは違う真っ白で綺麗な言葉を紡いでいて、ずっと聴いていたいようで、少し胸が痛い。
「そして私も、その1人です。」
少し照れながら、あんずさんは続ける。
「私は今まで、三毛縞先輩に沢山の幸せを貰いました。MaMとしても、三毛縞先輩個人としても。先輩はいつもみんなに元気と幸せを与えてくれる。だから私は、今日くらいは私が、三毛縞先輩を幸せにしたいと思いました。」
「先輩、私は今日ちゃんと先輩を幸せにできてますか?」
あんずさんの綺麗な青い瞳がまっすぐに俺を見つめる。この目に見つめられると自分を全て見透かされているような感覚になる。
でも、あんずさんにならそれも良いと思えてしまう。
「当たり前だろ?今日だけじゃない。あんずさんはいつでも俺を幸せにしてくれる。俺にはもったいないくらいだぞお!!!!」
そう言いながら俺はあんずさんの頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。彼女は少し驚いてやめてくださいと少し拗ねたように呟いた。
初めは利用しようと近づいて、一方的に振り回して、でも今じゃすっかり俺にはあんずさんが必要不可欠な存在になってる。愛しいなあ。素直にそう思う。だが、それを口に出す事は一生ないだろう。俺はあんずさんが前へ進む手助けをこれからもしていくだけだ。
「こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。いい誕生日パーティーだった。今日のこと、俺は忘れないぞお」
「それなら良かったです。準備を頑張った甲斐がありました。」
「俺のために時間を割いてくれてありがとう。このお礼はアイドルの仕事で返そう!俺が必要な時は遠慮なく声をかけてほしい。いつでも駆けつけるぞお」
「じゃあ私も頑張って先輩に合う仕事取ってきますね」
あんずさんが微笑みながら答える。
暖かいなあ、幸せだなあ。
「改めて先輩、お誕生日おめでとうございます。」
この幸せがずっと続けばいいなんて、らしくない事を考えてしまうじゃないか。
「ああ、ありがとう」
俺はそう呟いて笑ってみせた。
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