掌編

▼2021/07/31:ヒスミズ1

雨の日

 自分の思い通りになることなどない天候の変化に、わざわざ気をくれてやる必要はないのだが、こうも雨が降り続くとなると流石に気が滅入るものである。シフトもないので外に出ることはなく、ただ大人しく部屋の中で時間を持て余すのはミズキにとって苦痛でしかなかった。湿気の鬱陶しさを解消しようにも、そもそもが動く気になれないのでどうしようもない。
 ヒースは、気圧の影響で頭痛がするのだと言って眠ってばかりだった。薄っぺらいタオルケットを身体に巻き付け、丸まった姿は猫を彷彿とさせる。頭痛がすると言ったくせに眠る表情に苦悶はなかった。
 タオルケットからはみ出た爪先は骨張って、生白い。
 しとしとと降り続ける雨音の隙間に聞こえてくる寝息は穏やかなもので、どうにもならない蟠りを抱えたミズキは僅かばかりに腹が立った。
 思い立って、湿気でいつも以上に膨らんだ深緑の髪に手を伸ばし、かき回すと眉間に皺が寄った。目を覚さぬままの反応にミズキはふと気を良くし、そうして今度は鼻をつまむ
 むずかるような呻きのあと、半分だけ瞼が開いて、萎れた菫色の瞳がミズキを捉えた。
 タオルケットから抜かれた腕が伸び、ミズキの首にまわる。

「こっち」

 誘われるがまま素直にミズキも布団の中に入り、入眠のせいでぬくぬくとした薄い身体に身を寄せた。
 首に回された腕は自然と背中の真ん中で組まれ、態度の悪い脚がミズキのそれに伸し掛る。肩口に擦り寄ってきた頭に鼻を埋め、目を閉じた。呼吸の音、鼓動の音、そして雨が地面を叩く音が段々と遠ざかって行く。
 悪くはない気分だった。

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