掌編

▼2021/07/31:藍ミズ1



 チームCの連中が花見とやらをしたのを藍がどこからか聞きつけ、チームBでもやりたいと騒いだのが事の発端である。案の定、肯定的な反応を見せたのは金剛ただ一人で、ミズキ含む他三人は理由を取り繕う事すらせずにただ面倒臭い、とだけ返したのだが、はて、いつの間にかミズキらも藍の口車に乗せられ、あれよあれよと薄紅の花弁を纏った巨木の前でレジャーシートを広げて握り飯を食らっているのだった。
 昼間ではあるが平日なので、ミズキたちの訪れた花見スポットに来ている人は疎らだ。穏やかな風に吹かれた花びらが青色の空を横切った。
 花見に誘った張本人である藍はご満悦の表情を浮かべミズキの隣に座っている。なにがそんなに楽しいのか、ミズキには理解出来ないが同じような写真を撮り続けていた。
 余りにも真剣なそれがなんとなく気に触ったミズキは、藍の頭に手を伸ばす。青空よりもずっと深い藍の髪はひどく目立ち、分かりやすい。

 ――これなら攫われてもすぐ見つけ出せそうだ。

「なんや、ミズキ」
「なんもねーよ」

 この狂犬極まりない藍が果たして易々と桜に攫われてくれるかと言えばそうでもないのだが、ただ、視界を詰め尽くす桜の色の中に眩い青が見えるのは良いな、と思ったのだった。


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