ずっとわからないままがいい
「ねえシャル聞いて〜!また振られたんだけど!」
「へぇ〜通算10人目くらい?今回も短かったねえ」
「まだ8人だよ!えーん何が悪いの!?最初はみんな向こうから声かけてくるのに!私が重いから!?」
さあどうだろうね、と適当に慰めながら、めそめそするナマエの頭を撫でてやる。
ああでもないこうでもないとナマエは小さな脳みそをこねくり回して振られた理由を挙げ連ねているが、恐らくそれはどれも正解では無い。
だって本当は、オレが別れるように仕向けているのだから。
腐れ縁のナマエは、本当にもうどうしようもないくらいに男を見る目が無い。
浮気なんかは可愛い方で、不倫に二股、ヒモにDV、ギャンブル狂いの借金持ちと大抵のクズはコンプリートしている。
それなのにナマエはそんなクズを好きだかっこいいとのろけるのだ。
正直、ナマエは可愛い。
一人でふらふらしていると大抵ろくでもない男に声をかけられて、ちょっと優しくされただけでころっと惚れてしまう。
普段からふわふわしている方ではあるが、それが恋愛沙汰となると途端に知能が底辺まで下がるらしい。
そしてそんなクズに振られた彼女が、オレのところに泣きつきに来るところまでがいつものお決まりのパターンだ。
よしよし、と慰めてやれば、泣き腫らした瞳でどうしたら長続きするんだろう、とナマエが呟く。
「いい加減恋愛に振り回されるのやめたら?」
「わかってるけど、でも好きになっちゃうんだもん」
「バカだねえ、ナマエは」
「いいの、シャルが慰めてくれるから。シャルはずっと私のそばにいてくれるもんね?」
そうは言っても、明日にはけろっとしてナマエは新しい恋を始めるだろう。
そしてきっとまたオレは、彼女の恋路を邪魔して自分のところへ戻ってくるように差し向けるのだ。
いつかはナマエも気づくだろうが、それはまだ先でいい。
君に向ける感情がどんな色をしてるかなんて、今はまだわからないままでいい。
また彼氏に振られた。
もっともらしい理由を並べ立てて別れようと話す元恋人の声を適当に聞き流し、これで何人目だっけ、とぼんやり考える。
失恋してショックを受けているはずの胸の片隅には、およそ別れ話にはそぐわない感情がじわじわと侵食し始めていた。
通過儀礼のような別れ話が終わり一人になった瞬間、私はちゃんと悲しい顔を作って、目に涙を浮かべて彼の番号を呼び出す。
だって彼は今頃、私が振られるのを知ってて慰める準備をしてるはずだから。
いつからだろう、こんな歪な愛情を求めるようになったのは。
最初の何人かに振られた時は、本当に悲しかった。
自分の何がいけなかったんだろうとシャルに泣きながら相談して慰めてもらって、それが何度か続くうちに違和感を抱いた。
その違和感はやがて確信に変わったが、私はシャルを問い詰めたりはしなかった。
だってシャルは私が泣きつく度にひどく満足そうな顔をして、優しく私の頭を撫でるのだ。
たかだか数週間にも満たない恋と、腐れ縁のシャル。
失いたくのはどちらか、と問われたところで私の答えは明白だった。
「バカだねえ、ナマエは」
「いいの、シャルが慰めてくれるから。シャルはずっと私のそばにいてくれるもんね?」
満足げな顔で私を見下ろすシャルに冗談混じりに問う。
きっといつかは、私が振られるために彼氏を作っていることを知るだろう。
けれど、それは今じゃない。
この歪んだ感情を君に向ける私の思惑など、今はまだわからないままでいい。