昼下がりに赤色を
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いつものように14時半きっかりにそう聞いてきた少女に
「なんでも構わん」
いつものように返す。
「なんでも」が一番困るのは重々承知してはいるが、あいにく詳しくないのだ
「わかりましたわ」
それでも彼女は嫌な顔ひとつせずに、またいつものように魔術を唱えて湯を沸かす
普段となにひとつ変わらない光景だな、とぼんやり少女の後ろ姿を眺める
ふんふんと歌を口ずさむ彼女の声にそっと耳を澄ます
ポコポコと湯の沸き出す音と彼女の鼻歌が今日も昼の訪れを知らせる
向き合っていた資料からも目を離して大きく息を吐き出した。
この時間だけは仕事も嫌な事件も忘れて
休憩をとると決めている
いつのまにか出来たこの休憩時間を、結構気に入ってる自分がいたりするのだ
時々邪魔が入ったりもするのだが
「今日は、ローズヒップティーを淹れてみましたの」
その名は、彼女のお気に入りの紅茶だと聞いたことがある
色は彼女の瞳の色を溶かし込んだような澄んだ赤色で、香りと味は少し酸っぱい
疲れた体に染み渡る酸っぱさはなんとも癖になるというか、なんというか
───カチャン、と小さく音をたてて机にティーカップが置かれる
「どうぞ」
小さく笑った彼女に
「いただきます」
と返し、熱い紅茶に口をつける
暫し口の中で転がし、そして飲み込む
「うん、美味いな」
普段通り当たり前の感想を述べると彼女は嬉しそうに笑い
「お口に合ってよかったですわ」
と返してくる。
いつもいつも繰り返されるこの時間は、軍人として身をおいている限りいつ壊れてもおかしくない時間なのだが
それでも心のどこかでこの日々が終わらなければ良いな、などと思ってしまう
先程確認していた資料にも、魔物の活性化やその分布図、日々増える死者の数などが記されていた
いつ自分達が魔物に命をとられる側になってもおかしくない状況で俺達は生きているのだ
「どうかされました?エリオル様?」
名をよばれて、現実に引き戻されると
そこには心配そうに顔を覗きこんでいるまだ幼い顔付きの少女が立っている
何故このような少女が 部下として、軍人として、仲間として、俺の横に立っているのだろうかなどとふと思うが
彼女の聞いても「私がそうしたいと思ったからですわ」と返されるだろう
「なんでもない」
そう言って笑顔を返したつもりだが、ちゃんと笑えていただろうか
きっと上手く笑えていないに違いないが
「では、おかわりいかがですか?」
無邪気に笑った少女に
「よろしく頼む」
とティーカップを差し出した。
にこにこと差し出されたカップに紅茶を注ぐ彼女の笑顔を見ていると、まだまだ自分は死ねないなと苦い笑いが込み上げる
「どうぞ、エリオル様」
返されたカップになみなみと注がれた赤色を見て、そして少女の瞳に視線を戻す
「ありがとう、ロズリア」
彼女の名を呼んで、そっと噛み締めた。
君の名前を君に向かって言えるのは、あと何回あるのだろうか。
20180627
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