Untitled


 常に前向きで、希望を捨てず、仲間のために冷静に行動する彼女のことをとても尊敬していたし、大好きだった。見えないままに、けれど確かにじっと私を見つめる瞳はとても頼もしくて、美しくて。

「ねえヘレナ、私ね、やっとやりたいことができたわ! たくさん勉強して賢くなって、貴方と同じ道に進むの。ヘレナが立派な先生になるから、私はそれを支える助手になる。どう? 素敵な夢でしょう?」

 いつかの夕食の席だったか、正面に座るヘレナに前のめりになってそう宣言したときのことははっきりと覚えている。元々未来のことを考えることもなく、ただ日々を過ごすだけの怠惰な学生だった私が急にそんなことを言い出したものだから、他の皆に酷く驚かれたのは印象的だ。けれど周りのそんな反応をよそに、当のヘレナはきゅっと手を握って、まるで新しいものでも見たように見えない目を輝かせていた。

「素敵ね! なまえと一緒なら、私もっと頑張れる気がするの。ふふ、ここから出れる日がまた楽しみになるわ」


「……なんて、話したんだけどなあ」

 赤の教会、レッドカーペット。ここで倒れたのなら広がる赤い液体は目立たないだろうなんて思っていたが、実際は想像以上に赤黒く地面を染めていく。せめて通電まではチェイスを持たせたかったのだが。
 彼女は、ヘレナは無事に逃げられるのだろうか。この後に及んでそんなことを心配してしまう。あるときからゲームに負けた人がどんどん減っていく荘園。それはこのゲームの終わりが近付いていることを意味していた。

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