泥濘の春
酔っ払いの頭で何故か連絡したくなってしまうのは何時も諏訪で、彼も彼で呼ばれればちゃんと来るのが呼んでおいて何だが憎たらしい。律儀に来る諏訪も、アルコールの力を借りないと連絡の一本すらまともに出来ない自分も。
「よ、名字。もうそこそこ出来上がってんな」
「すわ...何で来たの」
「はあ?お前が呼んだんだろうが」
店員のお姉さんにビールと枝豆だけを頼んだ諏訪は、仕事終わりにも関わらず顔を出してくれた。同期で同い年なこともあって偶に飲みに行く仲。何だかんだ私の取り留めのない話も愚痴も聞いてくれるし、良い奴なんだよなあ、こいつ。
「んで、何かあったわけ」
「やー、まあ。その、結婚式に行ってきまして」
「皆まで言うな。もう大体わーった」
26歳にもなれば友人や同級生の結婚式に呼ばれることも増えてきて、その度に幸せを分けてもらう一方で、予定もなければ相手もいない自分がどうにも惨めになるのだ。
「んな焦ることか?第一お前もボーダーの仕事嫌いじゃねえだろ。良いじゃねえか」
「まあそうなんだけど...」
ぐび、と手に持っていたグラスを空ける。諏訪の言っていることはもっともだ。でも大人になったって、誰かに認められたいし、励まされたいし、頑張る理由を与えて欲しいのだ。疲れたら寄り掛からせてもほしい。
「仕事はすき、だしそれなりに頑張ってる、つもり...」
「おお」
「けど、褒められたいのわたしは」
「はあ?」
「頑張ってるね、偉いね、無理すんな、って、いわれたい...」
「お前飲み過ぎだぞ。そんくらいにしとけ」
「なんのために、がんばってるのか、わかんない...」
意識はあるが、アルコールのせいで口は回らないし目は上手く開けられない。こんな面倒な女、諏訪だってきっと相手にしたくないだろう。おまけに瞳に涙も溜まってくるし、泣き上戸なんて尚更最悪だ。諏訪に謝りたいし弁解したいのに、だめだ、アルコールで気持ち悪さより先に眠気が来るのを忘れていた。その自己管理が出来ないなんて、もう、
「......ったくしょーがねーな、」
と、言葉とは相反して優しい音が耳を震わせたあと、頭を包む温かい感触を感じる。これはもしかして、諏訪の手だろうか。確認したいのに眠気には勝てなかった。
「.........ん」
気がつくと、白い天井が目に入る。だけれど灯りが見慣れたものと違うような。
「すわ、」
「...ん」
「後輩に色々気回して動き回ってんのも。そーいうの詳しくねーから分かんねえけど、いつもつ」
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