あたためますか
ぱち、と目を覚ますと、目の前には静かに寝息を立てる侑の顔があった。成人男性に可愛いというのはワードとしてミスマッチだし本人は喜ばなそうだが、すやすや眠る表情はまるで子どものようで可愛い。口なんて、半開きだし。
仰向けになり頭上を探ると放ってあったスマホを見つけ、確認すると時刻は夜9時。思ったより寝てしまったし、変な時間に寝た分今日は夜更かししてしまいそうだ。
喉を潤したいが冷蔵庫には見事に何もない。さっきお茶も開けてしまったんだった。侑はちょっとやそっとじゃ起きないだろうし、コンビニに行ってしまおうか。テーブルに鏡を置き、眉毛とリップだけ整える。近所のコンビニだしこのくらいで良いだろう。
軽く正座していた脚をのばし、片手をついて立ちあがろうとすると、わたしのそれよりも大分固い手が手首を掴んだ。
「...どこ行くん」
まだ瞼は完全に開いていないし、夢現という感じだ。
「侑、起きてたの?」
「いまおきた...帰るん」
「帰らないよ、コンビニ行くだけ」
「......おれも行く」
ゆるりと起きあがった侑は、わたしの首元に擦り寄る。気分で甘えてきた猫のようだ。頬にかかる、ブリーチで少し軋んだ金髪を軽く撫でてやる。するとぐりぐり、とつむじが耳の下あたりに押し込まれた。
「帰るんかと、思ったあ」
寝起きの侑はいつになく甘えん坊なので、それを分かっていて私はいつもこの時間を噛み締めているのである。
「名前」
「ん?」
「9時言うても暗いんやし、行くんなら起こし」
「...うん、ありがとう」
そう言いながら侑は自分のマフラーをわたしの首元に巻いた。人のを巻いているからか、加減が少しおかしく、ちょっと苦しい。
「侑が寒くなっちゃうよ」
「俺はいらん。鍛え方がちゃうからな」
「ふふ、そう言う問題なの」
外に出ると、空気は冬らしく澄んでいて星がまたたいていた。目線を上に向けていると、右手が侑の指先に掬われた。彼は意外と手を繋ぐのが好きらしい。外では意地悪も言うしつっけんどんなところがあるが、2人で居ると意外と彼のつくる雰囲気は甘いのだ。
「お菓子買お」
「えー、この時間に?」
「どうせ暫く寝れんやろ。言うてた映画観よ」
「...それもいっか」
やろ?と笑う顔からは、にしし、と音が聞こえて来そうだ。
あっ、あとゴムも買わな。そう言った瞬間の顔は見ていないが、大体表情の想像はつく。右肩で侑の身体をどつくと、イタッ!と何とも大袈裟な声を出した。BACK - TOP