春に置いていかれるな

改めて高校時代に使ったテキストや参考書をまとめてみると、ちゃんと勉強してきたんだなあと思う。3年間なんて振り返ってみるとあっという間で、暑いひと夏が終わったような不思議な気持ちだ。

「使えそうなのは全部持ってきた。ごめん、重たいよ」
「ありがとお。お礼に何か好きなのおごったる」

そう言って治は公園の自販機に150円を投入した。あんなに小さかったのに、大きくなったなあ。こんなに背中広かったっけ。

「いいの!?治大人になったね......」
「フッフ。名前ちゃんは相変わらずゲンキンやなあ」

何だか小馬鹿にされた気がしたが、そう揶揄いながらも手に持っているのはミルクティーで、なんだがちぐはぐな光景だった。子供舌、とは敢えて言わないでおくが。

「もう使わないし全然良いけど、部活の先輩からは貰わなかったんだね。北とか」
「名前ちゃんに貰った方が近くて楽やしな。それに北さんのテキストもろても何や見られてる気分になる気ぃする...」

言えてる、と呟いて残り少ない缶コーヒーを飲み干した。理由はそれだけか。と寂しくなってしまったのには理由があり、私はこれまで抱えてきた気持ちを消化させるつもりで来たのだ。ずっと治をみつめてきた気持ちに、高校・大学と離れるこのタイミングで踏ん切りをつける為に。

「......」
「......」
「......あの、さ」
「ン」
「きょう、治に言おうと思ってたことがあって...その、えっと」
「......フッ」
「っえ!?なに!わら、えっ、笑っ」
「吃りすぎや。そんな雰囲気出されたら流石に違和感しかないやろ」
「だって...もう前みたいに学校でも会えないし、次いつ会えるかも分かんないなって、思って...」
「ふぅん。名前ちゃん、そない俺に会いたいん?」
「なっ...治は、そうじゃない?」
「誰もそんなこと言うてへん」

表情を伺いながらそう聞くと、侑鋭い瞳が少しだけ見開かれる。

「......名前ちゃんが大学行くからって、離れるとか御免なんやけど」
「う、ん。じゃあ、どうしたらいいの」
「変えればええんやろ、関係を。ただの、幼馴染から」

こんな時ですらちゃんと言葉にはしてくれない。でもこれが彼の精一杯で最大限だと分かっているし、こちとら伊達に何年も片思いをやっていない。

「...治が良いなら。変えたい」
「そう、言うてるやろ?」

そう呟くと、ふい、とそっぽを向いてしまい彼の表情は見えない。だが、この感じはたぶん、人に見せたくない表情をしているときだ。

顔はそっぽを向いているのに、裏腹に彼の左手が私の投げ出された指先を掠めた。ゆっくり、ゆっくりと触れる部分が多くなっていく。

はっきりとした言葉も、関係性もないけれど、始まったばかりの私たちにはまだ無くても良いかなと、初めてしっかりと感じた隣の体温にそう思えた。
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