キャンディ・ポップ - 木兎光太郎

じゃあ、少し自主練付き合って欲しいって俺からお願いするから。多分19時位になると思う。その位には体育館の近く、そうだな、水飲み場辺りに居て。


わたしより赤葦の方が気合が入っている。赤葦全面協力、木兎先輩への告白プロジェクトだ。

「赤葦にそこまでしてもらって本当情けないけど、肝心の告白が上手くいく気がしない...」
「うーん、そればっかりは名字が頑張るしかないね。まあでも、大丈夫だよ。告白する雰囲気出せば、多分いけるから」
「その自信なに!?」
「大丈夫だって。上手くいくよ」

この赤葦のプッシュと謎の自信は何なのだろう。中学から一緒の赤葦は、何故か高校もずっと同じクラスで、所謂腐れ縁というやつだった。となれば木兎先輩と関わることも必然的に増えていき、まんまと惹かれてしまったという訳だった。

赤葦に準備OKと声を掛けられ体育館に向かうと、そこには木兎先輩だけで、持て余して壁打ちしているところだった。

「あの、木兎先輩」
「あれ!?名字ちゃん!どしたの?赤葦は?一緒?」
「あ、赤葦は、えっと、ご、ごめんなさい!」
「え!?なになに」
「赤葦が気を遣ってくれて、その、時間を作って貰ったんです。今日、バレンタインだから」

バレンタイン、という単語を出せば流石に木兎先輩も察したようで、そわそわし始めたのがこちらにも伝わってくる。

「...もしかして名字ちゃん、おれに、くれるの?」

向けられる期待の眼差し。ああもう、女は度胸!当たって砕けろ!

「はい。こっ、これ、貰ってください」
「やった!名字ちゃんから貰えると思ってなかったからめっちゃ嬉しい!!」
「それであの、先輩も卒業だし、わたし、ずっと言いたかったことがあっ」
「まって!!!!!!!」
「えっ」
「おれが言う!!!」

名字ちゃんがすき。おれの彼女になって。

「えっ......」
「あれっ!?違った!?俺早とちった...?」
「いっいえ!!違く、ないです」

しょぼん、と音が聞こえてきそうなくらいにおろおろしていた木兎先輩は、わたしの言葉でいつもの太陽みたいに眩しい笑顔をみせる。本当に表情がころころ変わるひとだ。

「...でもおれ、心配だな」
「心配?」
「名字ちゃんのこと好き、けど俺はこれからもバレー続けるし、環境もこれまでと全然違う。彼氏らしいことできないかも」
「そんな、」
「でも!!!」

ガシッ!と木兎先輩の両手が私の両肩を掴み、少しだけ痛い。大きな声にも驚いたけれど、それよりも、わたしを射抜く真剣な瞳に驚く。

「名字ちゃんのこと、好きだから。」

3回目。好きって、こんなに言ってくれるんだ。

「その気持ちでやっていけると、おもう。だから、良かったら、付き合ってほしい」

こんな夢みたいなことがあって良いのだろうか。近くにいるけれどどこか憧れで眩しかった存在、わたしのことを好きと言ってくれて、恋人にしてくれると言ってくれる。

「お、お願いします!!!」

おおおおやったーーーー!!と試合中のように、グーの両手が掲げられる。その姿を見て、彼が一番きらきら輝くバレー中のすがたを思い出す。これからも近くで見れるのだ。

「あっ、木兎先輩」
「えっ?」
「す」
「す?」
「すき、です」

おれもすき!!と、ぎゅう、と彼の匂いと制汗剤の匂いに包まれる。ゆっくりと逞しい背中に腕を回すと痛いくらいに抱き締めてくれて、その痛さが愛おしかった。


「木兎さん、名字のこと本当に気に入ってたみたいだったから。付き合うのも時間の問題かなって思ってました」

木兎先輩に手を引かれ赤葦に報告に行くと、赤葦はさらりとそう言ってのけたのだった。
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