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「あっ、ジャガイモで出来たパンケーキのようなもの...プラツキってこれか!」
「有名なのか?」
「うん、一番って言っても良いくらいメジャーな食べものみたい。ネットに載ってた」
「そうか。頼もう」

現地の名物はやはり制覇したいし、旅行の醍醐味というものだろう。滞在中に何回ゆっくり食事を出来るかも分からないし、そんな元気とお金が最後まであるかも分からない。ネット様様、押さえたい料理を色々調べておいて良かった。メニューを見れば何となく目星をつけていたものがわかる。

「あ、あとこれも気になってたやつ...!」
「...フッ」
「えっ」
「いや。楽しそうだなと思って」
「ごめん、食い意地張ってて...」
「何故謝る。食べたいものを食べるべきだろう。俺はいつでも食べられるし、好きなものを選ぶといい」
「うん、そうだね...!じゃあそうさせてもらおうかな。あとこれ、ピエロギ!ポーランド版餃子!」
「餃子......?」

訝し気な表情を浮かべる牛島くんは、本当にポーランドのことをよくよくは知らないらしい。彼にとってはあくまでバレーをしに来ていて、観光や食事は二の次なんだろうか。食事管理とかもあるんだろうし、外食もあまりしないのかな。

いつくか料理を適当にピックアップし、軽く乾杯をする。高校の時に憧れた人とこうやってテーブルを挟んで食事をしているなんて、何だか不思議な感じだ。

「天童は元気にしていたか」
「うん、相変わらずだったよ。私も偶々入ったお店でばったり会った一回きりだけどね」
「そうなのか」

久しぶりに会うし話題は卒業後のことが大方であったが、ふいに天童くんが話題に上がる。そうだ。この場を作ってくれたのは他でもない天童くんなのだ。

「天童くんに帰ったらお礼言いに行かないとなぁ。取り持ってくれたし」
「そうだな」
「急に話が出て驚いたでしょ」
「いや。俺も名字とまた話したいと思っていたしな」
「えっ、そうなの?」

そんなことを言われると思っていなかったので、思わず少し大きな声を出してしまう。牛島くんが、一段と真剣な声色で口を開く。

「高校の時、図書室で話しただろう」
「うん、あったね。よく覚えてるね」
「あの時に名字に言われたことを、ずっと考えていた」
「私、何か変なこと言った...?」
「変なことではない。試合を観に来てくれていたと天童から聞いていたから、感想を聞いた」
「うん、聞かれたね」
「それで、いつか俺のバレーを見て、子どもが憧れるかもしれないと言ったんだ」
「...言ったかも」
「卒業も近かったから、当時よく考えていた。高校の部活でバレーをするのと、プロチームでバレーをするのは全然違うからな」
「...うん」
「根本、好きでバレーをやっているのは変わらない。でもあの時名字にそう言われて、子どもの憧れとなるような存在でありたいと思ったんだ。そしてその為には、満足せずに強くあり続ける必要がある」
「.........」
「まあ長く話したが、要は、プロチームでプレーする覚悟ができたということだ」
「そんな...私大したこと言ってないよ」
「バレーを格好良いとも言っただろう。沢山の人に思ってもらいたいんだ、ああいう風に」

牛島くんの夢は大きい。告げられる言葉に凄いなと感じると同時に、日々何となく過ごす自分とのスケールの違いをまざまざと感じさせられた。

ひやりとした風が肩を撫でる。アルコールも入っているからか、余計に寒く感じるのかもしれない。暖をとろうと手のひらを軽くこすり合わせると、意外と目敏い牛島くんに見つかってしまった。

「寒いか?」
「ちょっとだけ。でも、大丈夫だよ」

そう言うと、おもむろに彼は来ていたジャケットを脱ぎ、テーブルの横から私に差し出した。

「羽織っているといい」
「えっ、いいよ!牛島くん寒くなるよ」
「ならない。何なら暑いぐらいだ」

そう言う牛島くんの顔は、暗がりではっきりとは分からないが少し赤みを帯びているようにも思える。あまりお酒は強くないのかもしれない。

「う...ん。じゃあ、お言葉に甘えて」
「そうしてくれ。風邪を引いては困る。仕事で来ているなら尚更、体調管理は大事だろう」

何とも牛島くんらしい。というか、こういうことを意外とさらっとしてくれる人なんだ。知らなかった。というより、高校のときだって、私は殆ど牛島くんのことを知らないままだった。どんな人で、何が好きで、どんなことで笑うのか。知りたい。もっと。この穏やかな時間が流れる同じ地で、一緒に居られるうちに。




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