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連れて行かれた店は、チームメイト御用達のバルらしかった。個室というほどでは無いが座席が仕切られており、他のお客さんは声が少し聞こえる程度で姿は見えない。

「名前ちゃんと香里ちゃんは何飲む?」
「うーん...とりあえずビールで」
「わたしも!」
「その感じええなあ〜」

光太郎にビールをお願いすると、香里も同様にビールを選んだ。2人で飲む時もいつもそうだし、ここに来る前に力説していた香里曰く、宮侑選手は目が肥えているだろうから所謂モテ仕草や取り繕った女の子らしさでは駄目だということらしい。お近付きになる気が満々で香里らしいなと私はひとりごちていた。良識はある人間なので、ハメを外したり無礼を働くようなことも無いだろうな、とも。

「ここはよく来るの?」
「東京に遠征来る時は大体そーかな。ホテルも近いし美味いからよく来てるよ」

慣れた様子で注文を終えた光太郎はそう答えた。そうだ、ブラックジャッカルの本拠地は大阪だった、とその言葉で思い出す。

「名前サンと香里サンはおいくつですか!?」
「翔陽くん、女性にいきなり年齢を聞くもんやないで」
「ハッすいません!」
「はは、大丈夫だよ。光太郎の2つ上、26の歳だね」

お姉さんだ...!と日向くんは目をキラキラさせており、香里と一緒に久しぶりのチヤホヤ感を噛み締めた。26というと職場で新人扱いされるような年齢でもないし、寧ろ中堅層で難しい立ち位置であることも多いからだ。

乾杯を終え、自己紹介がてら他愛無い話をしていると、幾つか注文していた品が運ばれて来る。隣に座る佐久早さんは端だったので、取り皿を預かる仕草と共に声を掛けてみた。正直お世辞にも話しかけやすいとは言えない雰囲気を持っている人だったけれど、これなら自然に話しかけられると思って。

「佐久早さん、何か取りましょうか?」
「.........どうも。お願いしても良いっすか」
「もちろん。食べられない物とかは...あ、揚げ物控えてるとかあったら、避けるので言って下さい」

その言葉に佐久間さんは目を丸くした。自分としてはスポーツ選手である彼に気を遣ったつもりだったのだが、もしかしたら伝わらなかったのかもしれない。

「...今は、特に大丈夫です。適当にお願いします」

そう言って彼は自分の取り皿を差し出してくれた。こちらの意図は伝わったようだった。

「じゃあ適当に見繕っちゃいますね...って、聞いておいて何だけど、光太郎普通にコロッケ食べてましたね...」
「......そうっすね」

早々にコロッケを喰らっていた光太郎を視界に入れると、そこで初めて、フッ、と隣にいる人間にしか聞こえない程度の佐久早さんの笑い声がきこえた。物静かで少し神経質そうな雰囲気を感じ取っていたけれど、少しだけ彼の本来の姿が垣間見えたようで、心がとろりと温かくなった。
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