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木っくん絶対ちっさいころ名前サンのこと好きやったやろ?と宮がいつもの憎たらしい顔で揶揄うと、木兎くんは顔を赤らめて子供の頃なんてそんなもんだろ!と反論した。子どもの頃少し歳上の異性に憧れるなんていうのは、良くあることだろう。自分にはあまりなかった感情だが。

ぎゃあぎゃあ、と基本的に騒がしく話しているのは木兎くん、宮で、それをニコニコ見守る日向と香里さん、置いてきぼりであまり喋らない名前さんと自分、という構図だった。

隣に座る名前さんは所作がきれいで、食べるたびに紙ナプキンで口元を押さえる。その様子を横目でじっくりと観察していた。

皆程よく酔いが回り会話の流れも無くなってきた頃、名前さんはハンドバッグとスマホを持って席を外した。トイレかもしれないし追いかけるのもどうかと思ったが、落ち着いて話すなら今しかないと思い、気付いたら少し間を開けて自分も立ち上がっていた。いつになく、俺らしくない積極的な行動だった。

名前さんの背中を探すと、向かう先はトイレではなく店の外のようだったので、追いかけながら適当な言い訳を考える。酔っ払ったかと思って、と様子を伺う形にしようか。

「........名前さん」
「あっ、佐久早さん」

声をかけると名前さんは目線をスマホから上げた。取り込み中だったのだろうか。

「スミマセン、邪魔でしたかね。酔っ払ったのかと、思って」
「気に掛けてくれたんですか...!ありがとうございます。あまり強くもないから加減して飲んでるので、今のところは」

大丈夫、と名前さんは笑った。

「こちらこそ水入らずのところすいません、しかもお疲れなのに」
「いや、木兎くんと宮が強引に誘ったようなもんなんで...ていうか、さん付けしなくて良いですよ、敬語も。俺、年下ですし」

うーん、と少し考えたあと、名前さんは、じゃあ佐久早くんで!と俺の名前を呼んだ。こくり、と頷いてそれでいい、と伝える。

そのやり取りで会話が途切れて、聞こえるのは車が行き交う音と、店の中から聞こえる笑い声だけになった。追いかけて来たは良いものの、ここにきて自分は会話が得意で無かったことを思い出す。こうなったらもう、本来の目的を果たしてしまえ。

「.........あの」
「うん?」
「嫌じゃなかったら、でいいんですけど」
「うん」
「連絡先、教えてくれませんか」

そう言うと、今度は名前さんが目を丸くする番だった。俺にそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。心の中で自分のコミュニケーション下手を呪った。

「えっと、大丈夫なんだけど、」
「...!」
「わたしはいいけど、大丈夫?スポーツ選手だし、きっとファンの女の子とか、たくさん...」

プロのスポーツ選手という肩書きに寄ってくる女は大体強引に迫って来るのが常だったので、名前さんの反応は新鮮だった。先ほどの自分の体調を気遣ってくれるような言葉も、プロの厳しい世界に身を置いている人間として久しぶりな擽ったさを感じていた。

「大丈夫です、まあ、アイドルとかじゃないんで...良い、ですか」
「うん、じゃあ是非。ありがとう」

そう言って名前さんはメッセージアプリのQRコードを出してくれた。表示されたアイコンの中では、名前さんが食べ物を前に笑っている。

「...ありがとうございます。後で連絡しますね」

今ここでしないのは、あわよくばやり取りを続けるためだ。意外にも俺は計算高いらしい。けれどもこの先どうしたらいいかなんて皆目検討がつかなかったので、相談相手として癪ではあるが、何だかんだ良く連絡を取っている従兄弟を脳裏に浮かべた。
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