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古森、至急折り返せ。


距離が近いからこそ普段から自分に対して横暴なヤツだとは思っていたが、本日も通常運転な従兄弟に溜息を吐いた。しかし面白そうな匂いを感じて直ぐに折り返す野次馬でお節介な自分も大概だなと思う。

「もしもし。どした?」
「...........」
「おい何か言えよ!至急折り返してやったろ!」

ひと呼吸おいたあとで、ようやく電話口の相手は口を開いた。

「店を、教えて欲しくて」
「店?メシ?」
「メシ。けど男と行くような店じゃなくて、もっといいとこ」
「美味い店ってこと?東京なんて幾らでもあるよ、誰と行くの?」
「................女の人」
「エッ」

まてまてまて。佐久早が女の人と?メシ?良い店を?教えてくれと?メシ...?

「食べられないものは特にないって言ってて、和食が良いらしい」
「俺はお前がその気遣いを出来たことに感動してるよっていうかまだ状況に追い付いてないから待って!?!」

佐久早はあまり詳細を話したがらないであろうことは分かっていたが、こんな面白い話見逃すわけあるか。

「そもそもどういう人?何繋がりなの」
「.........それ、言わなきゃ駄目か」
「店選びのイメージは大事だろ?」
「..............木兎くんの従姉妹。今日試合見に来てて、皆でメシ行った」
「へえぇ。ってことは、年近いの?」
「俺の、3つ上」
「絶妙な年上具合...なんかいいな」

そうか、佐久早にもついに好きな人が...と大分先走った思考を急いで引き戻したが、強ちそうなるのではないかと俺は予想していた。そもそも他人に興味を持ったり自ら近づいたりする奴じゃない。でも一度懐に入れてしまえば、意外と距離感がバグってきたり、素直じゃないながらも甘えたりする奴なのだ。

「で、どうやって2人でメシなんて取り付けた訳?」
「......連絡先交換したから、さっき電話した」
「お前普段からそのくらい行動力発揮してくれよ...」

まるで親のような気持ちで、そこまで行動を起こせた佐久早に感動した。あまり話を引っ張るのも良心が痛むので、彼女のことやシチュエーションを聞いて電話を切り、東京駅周辺の和食屋を調べる。行ったことがある店でピックアップしても良かったのだが、どうせなら良い店を見つけてやろうと無駄にリサーチ力を発揮した。

いくつかURLを送って暫くすると「これにする」と。うん、良いチョイスなんじゃないか。予約しておけよー、と一言返してスマホ画面を暗転させた。今度会ったら根掘り葉掘り聞いてやろう。
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