- 2021.03.20. -

「今日試合だよね?頑張ってね。終わって落ち着いたら電話できるタイミングあるかな」

0時になった瞬間に届いていたのは祝いの言葉と、試合後に電話したいというメッセージ。試合の前夜は日付が変わる前には布団に入ってしまうし、自分の誕生日なんてこの年齢になっては尚更楽しみにするものでもなかったが、それでも彼女から届いた言葉は試合前の昂った気持ちに拍車をかけた。今日も、勝つ。

「ありがと。試合終わって会場出たら連絡できると思う」

そう返事をしてスマホの画面をロックすると、いつになく気合の入った自分の顔が映った。練習してきたことを普段通りやるだけだし、気合を入れたところで彼女に会えるわけでもない。それは分かっているのだが。


「臣くーーん誕生日おめでとお」
「初めて直接言われんのがお前って本当に最悪なんだけど...」
「臣さんおめでとうございます!」
「オミオミハピバ!!!!」
「ありがと」
「何やねん腹立つ俺のも素直に受け取れや」

相変わらず騒がしい控室も、大分慣れてきた。今日も俺は、バレーをやる。昔からそれは生活の中心に当たり前にあって何ら変わらないが、ふとした時に心のどこかで名前ちゃんがちらついて、何だか擽ったさを感じるのはここ最近のことだ。

「名前ちゃんに連絡したりー」
「うるさいお前に言われなくてもする」

試合はフルセットとなり長丁場ではあったが、ブラックジャッカルの勝利となった。MTGを終え帰り急いで準備していると、宮に余計な一言を掛けられたので適当にいなし、そそくさと控室を出る。気持ちがはやってしまって、会場出口を前に指はスマホで必死に彼女の名前を探していた。電話に出るだろうか。試合が長引いたのでもしかしたらタイミングが合わないかもしれない。

会場を出たところで、耳に当てたスマホからコール音が3回聞こえて改めようかと思ったとき、聞きたかった声が耳を揺らした。

「もしもし、聖臣くん?」
「...名前ちゃん」

名前ちゃんの声は不思議だ。高くも低くもなく、ちょうど良く鼓膜を震わせる。

「試合お疲れさま。改めて、誕生日、おめでとう」
「...ありがとう。試合も、勝った」
「見てたよ!スパイク気持ち良く決まっててテンション上がったー!」
「そう」
「誕生日だし勝利インタビュー聖臣くんだったね、急に振られて困ってた」
「事前に言われてなかったから.........そんなところまで中継してたの?」
「うーん、どうだろう。流石にそこまではしてないんじゃないかな」
「...........?」
「ファンの人にもお祝いして貰えて良かったね〜、差し入れ食べないなら貰うよ」
「.........?え、まって、まさか」
「ふふ、そのまさか!」

来ちゃった!!と彼女の声が耳元ではじける。大阪久しぶりに来たんだー、と彼女は何てことなく話を続けるが、俺はまだまだそれが信じられなくて、え?本気なの?今どこ?と問いただすと、試合会場を出てすぐの公園にいるという。電話を繋ぎながらそこへ急ぐと、その姿が見えて、駆け寄りながら通話を切る。

「........本当にいる」
「本物だよー」

びっくりした?土曜で良かったー、とケラケラ笑っているが、俺は驚きと嬉しさと名前ちゃんへの思いとで、ぐちゃぐちゃだ。これはやっと最近分かってきたことだが、名前ちゃんは結構行動的で思い切りが良い。ごちゃごちゃ頭で考える時間があるなら、直感的に動いてしまいたいタイプなのだ。

「ハァ.........何で本当名前ちゃんってそういうことするの」
「えっ、ごめん...?やっぱりいきなり来たら迷惑だった、かな」
「そうじゃなくて」

嬉しいって言ってるんだけど。

そう溢すと、ベンチからゆっくり立ち上がった名前ちゃんが両手を控えめに広げて近づく。誕生日おめでとう、当日に会えてよかった。と言って。可愛いな、と思う。こんな自分に対してもいつもニコニコしてくれるし、遠慮しないで素直に話をしてくれる。そんなことを考えていたら自分の腕も無意識に動いて、名前ちゃんを文字通り手中におさめた。

「会いたかった、聖臣くん」
「うん」
「おめでとう、聖臣くん」
「ありがと。さっきも聞いた」
「うん、何回も言いたくなっちゃう」

暫くそのままでいて、お互いの腕が緩むと、名前ちゃんが申し訳なさそうに「プレゼント、まだ用意出来てなくて...ごめんね」と言う。

「別にいいよ」
「よく考えたら聖臣くんの欲しいものとか、好きなものとか、全然分からないなって」
「そんなの要らない」
「えっ」

そう、要らないのだ。

「物はいいから」
「うん、」
「一緒に居て、くれれば、それで」
「...うん」

ぎゅ、と名前ちゃんの右手を掬い取ると、柔く握り返された。少し自分の体温より温かいそれ。

「...俺ん家、行く?」
「いいの?」
「誰も来たことないけど、名前ちゃんならいいよ」

そもそもどうするつもりだったの、と聞くと、まあ何とかなるかなって!と何とも彼女らしい答えが帰ってきた。

「まさか東京帰るとか、他泊まるとか言わないよね?」
「一応新幹線は回数券だし、泊まる目星は付けてた、けど...」
「ダメ。許さない」

今日は抱くって決めてるから。

そう言うと、ぼぼぼっ、と名前ちゃんの顔が赤く染まる。そんな、ストレートすぎるよ...と言って、もっと見ていたかった表情は手のひらに隠されてしまった。ちょっと強引にそれを剥がして、漫画みたいに口をもごもごさせている名前ちゃんの顔を覗く。

「良いでしょ、好きにしても。俺誕生日」
「........聖臣くんのその顔だめ」
「どの顔。いつも通りなんだけど」
「........痛いのと恥ずかしいのは、嫌だからね」
「名前ちゃんが嫌がることはしない。多分」
「たぶん......」

本当に名前ちゃんとそういう関係になってから、俺も知らなかった自分が顔を覗かせて驚くが、不思議と嫌ではなかった。名前ちゃんに暴かれていくのは寧ろ心地良いかもなんて、彼女の所為で、俺はやはりどうかしてしまったのだ。


Happy Birthday Kiyoomi!
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