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時は過ぎるのが早い。気がつけばもう6月。蝉たちも鳴き始め本格的に夏を感じるようになってきた。

制服も衣替えで夏服に変わったし。そういや千鶴可愛かったなぁ〜。パッと見は女子は千鶴1人だけだしこれからも気をつけてかないとな。

そんなことをボーっと考えながら剣道部の朝練に向かう。



「おはようございまーす。」

「あ、おはよ、アヤちゃん。」

「うげっ…お前かよ。つか、アヤちゃん呼び止めろっつの。」

「その反応は酷いなー。ただ朝の挨拶しただけなのに。」

「いや、だからオレに近づくなっつの!」



なんでコイツにじり寄ってくるんだよ!つか何で携帯のカメラ向けてんだ!何を撮る気だよ!




「はよざいまーす!」

「! 平助っ!」

「は…何…ってうぉ!!?」

「あーらら残念。」



ちょうどいいタイミングで平助が来たもんだから利用させてもらった。平助の背後に隠れるようにして回り込み目の前の奴を威嚇する。



「おい、綾萌どうした…って総司何やってんだ?」

「んー、アヤちゃん弄り?」

「はぁ?」

「がるるるるるっ……」


試合の時のこいつはワクワクするけど普段のコイツとは一緒にいたくない。隙あらば狙ってくるアイツを警戒しながら朝のメニューをこなしていった。

オレの相手は女子にはいないからこうして男子の方に混ざらせてもらっている。ま、女子剣道部なんかここには作れないけど。千鶴とオレの2人しかいないし。オレ見た目だけじゃ男子だし。更衣室ももちろん千鶴と一緒。

こうして朝から汗かくのは楽しい。運動後はいつもスッキリする。



「2人ともテスト対策は大丈夫?」

「うげっ…」

「んー、まぁ大丈夫なんじゃない?オレは授業も真面目に受けてるし。」

「アヤちゃんは大丈夫そうだよね。平助は…聞かなくてもわかるか。」



朝練が終わり教室に向かう途中で告げられた言葉に隣の平助が顔を青ざめさせて深く項垂れた。平助勉強苦手だもんな。中学の時も悲惨だった。うん。



「綾萌ーっ!今回も頼むっ!」

「えー…帰りに何か甘いもん奢ってくれたら考えなくもない。」

「奢る奢るっ!なんっでも奢るから、この通りっ!」

「じゃあ1つ貸しね。」

「うぐっ…背に腹は変えられねぇ…」

「んじゃ交渉成立だな。」

「なになにー?何の話ー?」

「煩い。お前には関係ない。」

「僕は平助に聞いたんだけど?」

「チッ…平助先行ってる。」

「お…おう…」



アイツの言葉がいちいち目障りでオレは足早にそこを立ち去り教室へと向かった。



「総司ー、あんま綾萌のこと苛めてやんなよなー。相当不機嫌だぞ、アイツ。」

「だろうね。」

「わかっててやってんのかよ。確信犯とか一番タチ悪ぃな。」

「だってあの反応面白いじゃない?」

「……それ絶対アイツの前でいうなよ?殺されんぞ。」



朝のHRで左之先生から罰則についての話を聞かされ、平助が頭に思い浮かんだ。…アイツ本当に大丈夫か?確かにいつもこの時期は屍になってたけど。しかも土方先生が発案者って……ご愁傷さま……だな。



「千鶴ー、飯行こうぜー。」

「あ、うん。」



千鶴と一緒にいつも通り食堂へ向かうと予想通り混雑中。小さく息を吐き千鶴と共に列の最後尾へと並ぶ。



「邪魔だ、どけ。」

「え…」

「うっわ…最悪…」



声がした直後人波を真っ二つに割って入ってきたのは、いや振り向かずともわかる。千鶴を追いかけ回しているハイエナだ。



「我が嫁…とまた貴様か。」

「アンタも大概しつこいよな。」



そう風間千景。夏なのにあの制服暑くないのか?あー、でもそれ言うなら天霧さんもそうか。つか、天霧さんのが暑そう。黒だし。でも全然暑そうじゃないんだよなー。いつも澄ました顔してるし。

てかなんかアイツの周りだけ空白の空間が出来てんだけど!?でも周りも異様にピリピリしてるし、アイツが来たおかげでそれに拍車かかってんのか…?うわ、面倒しか起こさねぇなアイツも。



「やはり俺とお前には、強い縁があるようだ。そう思わないか?」

「思わねぇよ、クソ野郎。」

「貴様には聞いてはいない。それ以前に口を開くことを許した覚えはないのだが?いつになったら我が嫁の前から消えてくれるのだ?」

「はっ!お前の許しなんかいらねぇっつの!千鶴はお前の嫁じゃねぇし、千鶴はこれからオレと飯食べるんだからお前が消えろ。」

「はぁー、学習しないな貴様は。千鶴が我が嫁となるのは前々から運命づけられていたことなのだ。どうしてそれを理解しない?」

「一生したくねぇよ!」

「どうやら貴様と話していても時間の無駄のようだ。千鶴、学食を食べるなら俺が奢ってやろう。俺たちは縁があるようだからな。」



いや、だから縁なんてねぇよ。むしろそんなもんあってたまるかってんだ。



「そうかぁ?同じ学校で同じ学食使ってんのに出くわさねぇ方がおかしいだろ。」



お?いいぞいいぞ!もっと言ってやれー!



「言われてみると面妖な……。今日まで遭遇しなかったことが逆に不可解です。」



確かに。ま、オレとしてはかなり有難い縁だけどな。



「よっぼど縁がねーんだろ?」

「…まぁいい。外野がなんと言おうと今日ここで俺たちが出会ったのは間違いなく何かの縁だろう。」



うっわ…。どこまでポジティブ思考なんだよ。引くわー。

みると両隣の2人も呆れた視線をアイツに向けていた。そりゃそうなるわな。



「千鶴、こんな奴放っておいて行くぞ。時間無くなる。」

「あ、う、うん!風間先輩!ご、ごめんなさい!」

「あんな奴に挨拶なんてする必要ないから。」

「でもやっぱり申し訳ないもの。」

「はぁ…千鶴はお人好しすぎ。」

「アヤちゃんには負けるよ。」

「……………」



千鶴の言葉に少し照れ臭くなり少し強く手を握るとごった返す人混みの中でようやくカウンターまでありつけた。そして2人とも注文し終えてプレートを運んで4人分座れるスペースを見つけ確保しておく。

さっきより騒がしいなと思いさっきの場所を見やるといつの間にやら土方先生がアイツと口論を繰り広げていてさっきより煩くなっている。それを源さんが止めているという。源さん、お疲れ様です。

千鶴と他愛ない話をしながら食事をしていると息を切らせた平助とアイツが来た。

なんでこんな状況なのか分からない2人の為にさっきあったことを2人に話す。すると2人とも呆れた顔して溜息を吐いた。



「ほんと毎回よくやるよなー…。」

「だろ?」

「お前も入ってんだよ!」

「は?」

「いやマジで意味が分からないみたいな顔止めろよ!」

「なんでオレが入ってんだよ。」

「お前だって風間と顔合わせる度に喧嘩してんじゃん。毎回飽きもせずにさ。」

「あれはアイツが突っかかってくるからで!」

「あーはいはい。わかったわかった。お前のそーゆうとこほんと子供っぽいんだよなー。」

「平助にだけは言われたくない!」

「んだとっ!?」

「ふ、2人とも落ち着いて、ね?」

「ふん…」



千鶴に宥められたから止めたけど、あー、うんやっぱこうやってムキになるところが子供っぽいのかな?

いやでも子供っぽいって言われたからってあこまで怒ることなかったような?…平助に悪いことしちゃったかな?…謝らなきゃ…だよね。



「はぁ…」

「どうしたんだよ、溜息なんか吐いて。」

「いや…何でもない。」

「そっか?ならいいんだけどさ。それより朝練したんだし腹いっぱい食わないと倒れるぞ!お前俺より大食らいなんだし…ってぇ!」



とりあえずムカついたから平助の頭を引っぱたいてやった。



「でも朝練あると千鶴と来れないんだよなー。オレの癒しの時間が…。」

「あーまぁ確かにな。でもこの時期が一番気持ちいいだろ?」

「そうなんだよなー。あれは爽快だ!」

「あははっ!お前練習中ずっと生き生きしてるもんな。」

「まぁ剣道自体愛してるし。」

「おぉぅ…。お前よくそんな恥ずかしいことサラッと言えるよな。」



恥ずかしくねぇだろ。剣道愛してて何が悪い!女とか男とか関係ない。実力だけが勝負の世界!ワクワクすんじゃん!



「剣道こそオレの生きる道だ。」

「うわ、一くんみてぇ。」

「確かに。でもこの時期は放課後だるいじゃん。暑いし。」

「だよなー。けどまぁ、ここ最近は朝練中も勉強してる部員がいて稽古だけに集中出来ねぇんだよなー。」

「廊下でも単語帳とか教科書とかノートとか見てる人いるよね。」

「学校中がピリピリしてるよね。テストだか罰則だか知らないけど迷惑な話だよ。」



ああ、そうか。コイツらの担任って……
千鶴も感づいたのか複雑な表情で2人を見ていた。



「まぁ、中でも一番ピリピリしてんのは土方先生だけどな。」



やっぱり……。



「学校の雰囲気を悪くしてる諸悪の根源が特に機嫌悪いんだから迷惑にも程があるよ。」

「さっきのだって周りの反応いつもと違う気がしたもんな。」



殺気立ってたし。みんな罰則もだろうけど土方先生…だろうなー。



「…ってなんか結局テストの話になっちまったよなぁ。昼休みくらい忘れてぇのに。」

「あ…ごめんね、平助くん。」

「いや、君が謝ることはないよ。悪いのは平助なんだから。」

「そうそう。」

「そうそう…ってちげーよ!ってか綾萌も何同意してんだよ!いつもは総司に突っかかってんのに!てゆーか!総司だってテストの話に乗ってただろ!?」

「うるせーよ、バカ。」

「いって!…とにかく!テストなんて消えてなくなりゃいいのに……。」



涙目で頭を擦りながら食事を再開する平助。隣で騒がれたら溜まったもんじゃない。



「そう言わずに勉強は頑張ろう?」



千鶴から諭されるも



「い、いや、まぁ、それはわかってるけどさ……」



何故か急に吃り始める。それに視線があちこち泳いでいる。…なんか隠してんな。



「平助…」

「な…なんだよ…」



オレの声色がいつもと違うことに気づいたのか、少し表情を強ばらせながら恐る恐るこちらを見る平助。



「お前頭悪かったよな。」

「いきなりなんだよ!いや、確かにいいわけじゃないけどさ……」

「いや〜、あの点数は壊滅的でしょ。」

「総司は黙ってろよ!」

「てことは罰則は確定なわけだ?」

「ぐ…っ」



平助が苦虫を噛み潰したような顔になる。
そんなに悪いのかよ…。



「平助の罰則に比べれば誰だってましだよね。」

「は?」

「総司ーっ!余計なこと言わなくていいんだって!」

「こんなとこで格好なんかつかないよ、平助。それに今更じゃない。」

「それとこれとは別なんだよ!」

「あ、あの平助くんの罰則ってそんなに酷いの?」

「オレもそれ気になってた。どうなんだよ、平助。」

「だ、だからぁ〜……」



千鶴にまで気にされちゃ観念したのか渋々といった様子で話し始めた。確かに平助にとっちゃ地獄のような罰則だな。よりにもよって……



「次の古文のテストで50点以下だったら、普通の罰則以外に一定期間の部活動禁止…か。…またえらいことやらかしたな。よりにもよって担任の教科で……ご愁傷さま。」

「ま、まだそうなるって決まったわけじゃないんだからそんな不吉なこと言うなよな!」

「いや、だって平助ってかなーりバカじゃん。もうそれはそれはオレが匙投げるぐらい。」

「うぐ……っ」

「平助くんあんなに剣道部の練習頑張ってるのに…」



千鶴が悲しそうな顔して言うけど普通に平助の自業自得だと思う。



「そうなんだよ!俺すげぇ剣道好きだからさ、部活動禁止なんて絶対に嫌なんだ!けど、古文のテストはいつもギリギリでさ……。今回は正直ダメかもしれねぇ……。」

「あ、諦めないで平助くん!ちゃんと点数を取れば罰則を受けなくても済むはずだから!」

「……うん。わかってるけど……」



うん、まぁ、それが出来ればこんな苦労してねぇよな。千鶴の言い分は間違ってはいないんだけど……ね。



「暗い顔だね、平助。テストも始まらないうちから罰則確定って感じかな。」

「ま、このままだと間違いなくそうなるだろうな。」

「お前らな……」



隣を見るとオロオロしている千鶴。平助が心配なんだろうな。…ほんと優しい奴。

そんな千鶴を安心させるために薄く笑って頭を撫でてやる。するときょとんとした顔で小首を傾げながらオレを見上げてきた。………マジで可愛い。千鶴の頭にはてなマークがいっぱい見える。



「大丈夫だから、な?」

「…うん。そうだね。アヤちゃんがいるもんね。」



ふんわりとした笑顔で微笑む姿はまさに天使。内心それに身悶えながらもう1回軽く頭を撫でて食事を再開した。


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