{emj_ip_0856}清光とお揃い



机に置かれた瓶の中身は、思わず身震いしてしまうくらい綺麗な紅が広がっていた。

「爪紅?マニキュアじゃないの?」

「まに、まにきゅ?まにきゅあ?」


明後日までに提出しなければならない書類の山を睨んでいると、爪紅を持った清光がやって来た。
馴染みのない紅を見て興味が湧かないと言えば嘘になる。


「私の生きた時代では、マニキュアって物で爪を塗るの。赤だけじゃなく、いろんな色があるんだよ」

「へー。」


清光には赤が似合うと思うけどね、私も好きだし。なんて言ってやれば、途端に花吹雪で書類が飛んで言ってしまうだろう。いや、飛んで言ってくれるならそれはそれで…

そんな邪な考えを振り切り、再び紅に目をやる。やはり、とても綺麗だ。


「主も塗ろうよ。て言うか塗らせて!」

「え、良いの?お高いんじゃ…」


紅は高価な物だ、と言う知識が頭を過る。
それでも清光は、そんなの気にしないと私の手を引く。
握られた手と反対の手で書類を避ける。


「主とお揃いってやつ。」

「ふふ。そうだね、お揃い。」


鼻歌を交え、器用に指先へ色を置く彼もまた綺麗だと感じる。


「主?そんなに見られたら、顔に穴空いちゃうんだけど」

「…ご、ごめん!」

「変な主ー」


意地悪く笑う表情も、また綺麗だった。
やはり、気配でわかるのだろうか。彼の瞳は塗り始めてから一度も私の顔を確認していないはずだ。


「気でわかるよー。また見てるでしょ」

「えっ!」


おまけに心まで読めるのだろうか。どくどく煩い心臓を落ち着かせ、深呼吸。
マニキュアの様な嫌な香りはしないんだな、と気付く。代わりに彼の香りが鼻を通ってくる様で、妙にくすぐったい。


「主、顔に紅塗ったの?」

「えっ」

「綺麗だね。」


いつの間にか顔を上げていた彼は、くすくすと意地悪く笑った。





ありがとうございました!