06 : だいじなもの
初出陣の日から、ひと月が経過した。
気付けばこの本丸も二人の声が馴染むほど、すっかり賑やかになっていた。
そんな賑やかな声が、静かな寝息と共に落ち着いた頃。三日後の出陣に備え、部隊編成に頭を抱えていると、二つの影が障子に映る。
「どうして、れきしをかえたらいけないの…ですか?」
閉まりきっていない襖の先から強い光が突き刺す。
今日の月は、煩わしい程に明るいようだ。
「僕も、沖田くんを助けたい…と思う。なんで駄目なの?」
珍しい組み合わせで私の部屋に現れたのは、涙に濡れた今剣と安定の姿だった。
「簡単な様で、難しい質問ですね。」
正座でこちらに向き合う二人の姿は、すごく悲しいものだった。
私達の仕事…使命は、歴史改変を目論む歴史修正主義者である時間遡行軍を倒し、それを阻止する事だ。
歴史改変が行われてしまえば当然、タイムパラドックスが起こり、様々な時代に様々な支障をきたす。そんな事、あってはならない。
…ただ、元の主に愛され、付喪神となった彼らの「主を助けたい」と言う気持ちは、痛いほど良く伝わるものだ。
「今剣…あなたは今、この本丸での生活や私達との思い出が失くなってしまったら、悲しくはありませんか?」
「え…それは、すごくすごくかなしい、です!」
「安定、あなたもです。私達と過ごしている今≠ヘ大切ではありませんか?」
「それは…もちろん大切だよ」
「それらが失われてしまうのですよ。」
私が諭す様に告げると、二人の頬へ再び涙が伝う。
「辛いと思います。悲しいと思います。それでも、今…あなた達の主は私です。」
元の主を超えられなくても構わない。
それでも私は、この本丸の主である事に変わりない。だから、だからこそ…
「本当に勝手だとは思います。…ですが、私と今≠一緒に生きてはもらえないでしょうか。」
「あるじさま…」
そっと二人を抱きしめると、静かに頷いてくれた。
歴史の改変は許されないが、せめて今を大切に思ってもらえる様、尽力を尽くしたい。
大きな声を上げて泣く今剣と、静かに涙を流す安定を抱きしめる腕に力がこもる。
煩わしい程に明るい月から、しっかりしろと喝を入れられた夜だった。
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