約束





※刀剣破壊表現注意※





幾度とも繰り返してきたはずなのに、それ ≠ヘ慣れる気配が全く感じられず。
暗い部屋では、少し眩しい月が手元を照らす。


「また、今回も…」


ぽつり、ぽつりと唇から溢れる声量とは対照的に、強く溢れる涙がぽたり、ぽたりと審神者の袴を濡らした。


「主…」


安定は、ただただそれ≠襖の隙間から見守る事しか出来ないでいた。彼もまた♀轤ぐしゃぐしゃと濡らし、歯を食いしばる。









漸く涙も枯れ、立てるようになった頃。床に転がる資材を拾い集め、審神者はまた′Jり返す。


数え切れない程に繰り返したお陰で、彼≠迎え入れるために動かされる手は、随分と手馴れたものになっていた。
いつもの&ェ量を数え、資材を入れる。


「…また、やるんだね」


安定は、審神者の隣でその行為に眉をひそめる。


彼女が顕現しようとしている刀…加州清光は、顕現される前に何故か毎度折れてしまうのだ。


「だって…約束したもの…」


彼女はボロボロだった。
清光と約束した日から、暫くはいつもの綺麗で柔らかい彼女であったが…その姿はもう何処にも見当たらない。

しかし彼女の生活は鍛刀が日課に加わった事以外、変わらない。
何もせずにただ鍛刀を繰り返せば、資材は当然底をつく。彼女が仕事を辞めないのも、変わらず主様≠ナいてくれるのも、全ては清光のため≠セった。


「清光…」








あの日$エ光は主を呼び、愛の言葉を並べた。それはすごく「ぐちゃぐちゃ」だったけど、とても真剣で…彼女もまた、真剣に愛の言葉を清光へ渡した。

だけど同時に、清光の震える唇からは、この甘ったるい場に似つかわしくない言葉も投げられた。


「俺…今のままだと主に愛される資格も、一番に、主だけを愛してあげられる自信がないんだ…」


だからね…と彼女の両手を包み、握り込むと清光は続けた。二人が震えている。


「ねぇ、主…」


ぽつり、ぽつり。



「俺を刀解して。」

「…っ」


最初から、彼女は察していたのだろう。襖の隙間から見えた彼女は、驚きよりもやはりこうなってしまった≠ニ言う顔をしていた。


「…それで、もう一度…今度は審神者が俺を顕現してくれない、かな…?」


どうやら、清光を顕現した本当の主≠フ存在が、二人の壁になっているようだ。清光は元の主≠強く愛していたから。
それは、今の主である審神者を愛する気持ちとは別に、消える事なく清光の心に強く残っていた。
でもそんな事したら…


「清光は元の主さんの存在を完全に忘れる事が出来るけど…私の事も、私を愛してくれた事も…」

「うん、そうだよ。でも、きっとまた愛し合える。そうでしょ?」

「…っ」


…なんて身勝手なのだろうか。とうとう清光の考えに怒りを鎮める事ができなくなった僕は、思わず刀に手を掛けた。

しかし、隙間から見える彼女が静かに顔を横に振ったのを確認すると、僕はもう何もできない。全然大丈夫なんかじゃないくせに。「大丈夫、大丈夫。」…そう、言っているようで。




この日$エ光は、主の手により刀解された。








鍛刀する度に折れ、なかなか還ってこないのは、今更彼が罪悪感に溺れてしまったから。≠ネのだろうか。

もう待たずに居られるように、彼女の事も刀解できたらどんなに良かったか。初めて主が人間である事に、やり場のない怒りを覚え、吐き出したくなる。
血の味が口の中へ広がる。唇を噛み過ぎたようだ。

そして、僕が顔をしかめて居ると、今日もまた∞いつものように∞それ≠ヘ…


「主…」


加州清光は、折れる。


そしてまた′Jり返される。




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