MEMO

▽2016/01/27(Wed)

SS






揺れと音、眩しさを感じた。
眠いのか、ただ重く開かないのか分からない瞼をゆっくりと開ければそこは列車の中だった。ああ、何故自分が此処にいて寝ていたのかと思考を巡らせる。そして周りを見渡した。視力が低い為か、周りの景色はぼやけてはいたが把握は出来た。
ーーどこかで見たことがある。俺はこの景色を知っている。
思考を巡らせるその男、ソディアは確かにそう思い感じた。この列車が向かっている先も、徐々に思い出していた。
「確か研究所に…」
「ようやく起きたのね、お寝坊さん。さっさと起きなさい、ピクニックに向かっているわけじゃないのよ」
「…メロウ」
上から声がしたと顔をあげれば、そこには深い紫色をした長髪の女が見下ろしていた。其れもその目はまるで蔑むかのように冷たい視線。そんな視線にソディアはやれやれ、と首を振り軽く髪をかきあげれば眼鏡を手に取り掛けながらも席から立ち上がる。この女はいつも俺に対してこうだったな、と何故かそう思いながら。
「相変わらずお前は朝が早いんだよ。俺は元々メンバーじゃないんだし、どうこう言われる筋合いはねェーの」
「其れは申し訳なかったわね、御嬢様。さっさと支度なさい!」
「ちょ、お前は俺の母親か?!」
「ソディア、メロウの言う通りにするんだ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を横目で見ていた黒人の男は、どうどう、と二人の間を離すように間に立てばこの状況に思わず苦笑した。この男の説得力のあるオーラに逆らえない二人は渋々大人しくなると、己の定位置と戻った。
「いいか、ソディア。これからやる仕事ってのはチームワークが重要になる。お前の"体質"は分かるが、だからと言って突っ走るのは駄目だぞ。リーダーはメロウだ、リーダーの指示には従え」
「お前の言う事には逆らうつもりはない、だけどあの女はまず俺を敵視してる。俺が何をしたっていうんだ」
「まるでどこかのドラマで聞くようなセリフだな」
「ならそのドラマが最終的に報われる話である事を祈るよ」
「こら」
皮肉に皮肉で返すソディアの頭を男はべし、と叩き深くため息をついた。叩かれた男は頭を抱えていたが放置する事にした。
「じきに着く。もう寝るのはやめておけ、お前を起こすのには骨が折れる」
「分かってるよ、ダディ」
ソディアは煙草を口に咥え、呆れたように去る男をへらっと笑み浮かべ手をひらつかせ見送れば煙草に火をつける。そして吸えばゆっくりと煙を吐き出した。
ーーこの先どうなるんだっけか。知っている気がする、確か変な奴に出会うんだよな。誰だっけか…
寝ていた時にみたような景色を思い出そうとするも、ぼやけるどころか一瞬でしか思い出す事も出来ない。まあこの先直ぐに答えが待っているからいいか、と結論に至れば直ぐに考えるのを止めた。
と、同時にメロウの声が響き渡る。
「そろそろ着くわよ」



ーーーーーー

「ようこそ、いらっしゃいました」
「それだけ?」
「メロウ。…いやはや、招待に感謝します。この格好での挨拶とは、申し訳ない」
大きく両腕を広げ笑顔で歓迎する研究員に、思わずメロウだけは顔をしかめた。
此処にきたメンバー、メロウ、ソディア、男、そして残り三人。この研究所の入り口に来るまで何も無かったわけではない、其れこそ色々なチェックがあって5時間はあれからかかったのだ。メロウは其れについての謝罪が無かったことが気に入らなかったんだな、と察した男はやんわりと話題を変えた。
この格好、というのもセキュリティチェックで全員が服を脱がされまるで病院で着させられるような上下が繋がっている服を着させられたままなのだ。まるでスカートを履いているようにもみえるその格好は、メロウのような女性ならまだしも、男性が着ているのは強烈なものがあった。筋肉質な男が着るなら尚更だ。
「余計なものを持ち込む輩も居ましてね、余計な仕事を増やされても困るもので。いや、あなた方は大事なお客様ですよ、ええ。ヒヒ、是非とも此方へ」
へこへこと笑みを浮かべたまま頭を下げる研究員は中へ入るよう促せば奥へと歩き始める。それに続けながらもソディアはチラリと通りにあるガラスケースに入ったイキモノを見た。それは息絶えていた。

「……で、有りまして。ヒヒ、素晴らしいでしょう?きっとお力になれるかと」
「ああ、確かに。これだとかー…….」
男と研究員が研究所をまわりながらも質疑応答を繰り返している中、2人から離れていた所にソディアとメロウは待機していた。元々此処には無理やり連れてこられたようなものだったソディアは、あまり研究員の話は聞いてもいない。其れにはメロウも気付いていたのか、案内されながらも興味なさそうに周りを見渡すソディアを何度か小突いた。

「完璧な環境?完璧な能力?…何が素晴らしいのよ。自然に反した事をしているのに。其れがどうして当たり前のように私達の世界に溶け込むのか理解出来ないわね。作られたのならそれは所有物として取り扱うべきよ」
「でも生きている」
「なら貴方は普段口にする家畜にもそう言えるの?貴方もあの馬鹿な研究員と同じね!」
「まあ…」
段々と荒々しく声を上げるメロウがソディアを睨むのに対し、話の中でも水槽の底に沈んでいる死体をただジッと眺めていたソディアはメロウを見やった。
「俺も作られた存在だから、確かに人間扱いされるのを求めるのは違うかもな」
そう笑みを浮かべて口にした言葉に暗さも落ち込みも、ただ明るさも喜びも無かった。その言葉と表情に、メロウは思わず目を逸らし黙り込めば「なによそれ」と小さく呟いた。

「これで全て終わりです、お疲れさまでした。ご帰宅の際には、…お気をつけて。ヒヒ」
「ああ。気遣い感謝します」
簡単な挨拶をすれば其々がまたチェックへ入る。ウンザリするような時間、だが此処からが仕事でもあった。
ソディアは記憶力が良かった。それこそ番号を覚えるのが得意だとか其れだけじゃなく、一度視界に入ったものは全て記憶する。その為、あたりを見渡していたのも研究所の地図を頭の中で作り出していたのだ。
あとはタイミング。ソディアは次は此方へ、と自分の前を歩くスタッフをここぞという瞬間に後ろから腕で相手の首をへし折る。そしてバレないようにそっと壁にかけてやれば、そのまま服や武器を回収し目的へ向かーー…う筈だった。
「ワタシが気付かないとでも?」
咄嗟に殺気を感じたソディアは声の主を確認する前に、マシンガンを自分へと乱射する攻撃から避けるよう咄嗟に扉の影へ隠れる。
「キサマは逃げられんよ、ヒヒ」
「ああ、アンタか。顔を見なくても分かる癖ってのは長所にも短所にもなるんだな」
「フザケている場合か?」
「ふざけなきゃやってられない事もあるさ」
やれやれ、と小さく首を振れば扉の影から飛び出し、相手へ走る。その瞬間に研究員が狙い撃つが構えが甘いがために反動で撃つ位置がずれ、ソディアは其れを利用し足元へ滑り込めばそのまま相手の腕を思い切り蹴り上げる。もろにくらった研究員は悲鳴をあげながらも、蹴り上げられたことにより持っていたマシンガンが宙を舞う。そのマシンガンが落ちるタイミングに合わせ、身体を回転させ思い切り相手の顔を殴り飛ばし相手が倒れる直前にマシンガンをキャッチし、倒れたと同時に相手の額へ銃口を突き付けた。
「ヒィ…!!」
「さあ、お遊びは終いだ。何処にある?例のタネは」
「……ププ、わざわざ自分から終わらせにきたのはキサマだ」
「えっ」
相手の手にはどこぞの映画でも見かける、まあ分かりやすい赤いスイッチ。それが言葉が終わると同時に押されると、その瞬間に地面が揺れた。
「キサマはここでワタシと死ーー…」
「笑わせたいならもっとジョークってやつを勉強しないとな」
へっ、と笑いを溢し気絶させるようそのまま思い切り殴ればおおきく揺れる地面から逃れるように必死に壁伝いに立ち上がる。
ーーまだ向こうに通信機も、くそっ、取る暇ないだろ!

ガコンッ

思考を巡らせている中、邪魔をするように聞こえたその音に嫌な予感がしたソディアはそろりとその音のした場所を見やれば来た道との扉からこの部屋だけがグラリと切り離されはじめた。元々この研究所は海の上に高く柱がありその上にある。切り離されたということは、今いるこの部屋は海へと真っ逆さまだということを示していた。
「おいおいおい、ウソだろ」
一瞬固まるその瞬間にも部屋は傾きはじめた。ソディアは我にかえれば聞きだそうとした研究員は諦め、全力で切り離された前の部屋へと降ってくる障害物を避けながら走る。
角度はほぼ90度へとなる瞬間、うおおお!!と叫びながらもそのまま思い切り入り口から向こう側へと飛べば、思い切り手を伸ばし片手だけギリギリ足元の縁を掴むことに成功した。その瞬間、思い切り身体を打つもその痛みに耐えながら海へと真っ逆さまに落ちていく部屋を眺めた。
「おいおい、俺の服とか装備どうすんの。全くたまには仕事選ばないとな」
はー…、と息をつき部屋へと這い上がれば所々破れた服を軽く払った。その瞬間、向こう側の扉が勢いよく開くとメロウが慌てたように飛び出した。
「ソディア、貴方通信機ーー……何よその格好」
「え、ああ、セクシーだろ?惚れるなよ」
「近づかないで変態」
「ウソだろ」
後退るメロウにソディアがわざと近寄ろうとした時、二人とも!と次に飛び出した男もソディアを見やれば、察したのかツッコむ事なく辺りを見渡す。
「…あの男はどうした」
「悪い、タネを聞き出す前に奴に仕掛けられちまってな。海の底で寝てるのは確かだ」
「安らかな眠りにはならなかった事は確かだな。この場合は仕方ない。ソディア、見回った時に怪しいところはあったか?」男からハンドガンを受け取りながらも、ああ、と短く返事をすれば開かれた扉の先を見やる。
「……違和感のある扉がひとつ、な」





ーーーーー


研究所の中にある、とある実験部屋。
1人の男がひとつの書類を手にしていた。その部屋は不思議と全く荒らされてもいない。しかしその男がもつ書類は確かにその辺りにあるようなものでも無かった。
その瞬間、ガコンッという大きな音が鳴り響く。ふたつほど隣だろうか、男は場所を把握し安全を確認すれば書類の中から取り出した、一枚の紙を畳みポケットへ仕舞う。
「…フン。他にもコレを探しにくる奴らがいるとは。だがお陰で予定より簡単に手に入った。全く、向こうはとんだ馬鹿がいるようだな」
死体にささったナイフ、ーーDrake.と彫られているものを引き抜けばホルダーへと戻し、まるで哀れむようにそう口にすれば部屋を後にした。






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