title by 水声
最近、変なやつにストーカーされとるんです、と俺に相談をしてきた財前はいつもの飄々とした態度を潜めて、怯えきった表情をしていた。可哀想に。まさか自分がこんなことの被害者になるなんて夢にも思わなかったんだろう。普段人をあしらった態度の多い財前がこうやってストーカー被害を他人に相談するのも相当勇気のいったことに違いない。その証拠に財前はずっと視線を伏せていてまるで目が合わない。でも、もう耐えられなかったんだろう。だから相談したんだ、俺に。
「一人で悩んでたんだな……辛かっただろ?」
「っ……悠樹先輩……」
「大丈夫。俺がついてるから」
優しい声色で声をかけると、財前は泣きそうな表情をしている顔を上げた。想像通り目は潤んでいた。部活中に先輩へ遠慮ない態度をとってるあの財前がする表情とは、とても思えないようなものだった。
「写真、が、送られてきたりするんです」
「うん……」
「家に入る瞬間とか、コンビニから出てきたところ、とか」
「……」
「あと、この間俺……痴漢、されたやないですか。あれもきっとやったのはストーカーで……」
「そうだったんだ……ごめん。あの日、ちゃんと犯人捕まえとけばよかった」
「そんな!悠樹先輩は悪ないです。俺、まだその時はストーカーのこと一言も喋ってへんかったし……それに、助けてくれただけで、嬉しかった、ですから」
「財前……」
なんて痛ましいんだろう。痛ましくて、心臓の奥がズクリと疼いた。
財前は、ぽつぽつとストーカー被害の話を続けた。上履きの紐だけ無くなったこと、ノートが何冊か紛失したこと、部活で使ってるタオルが無くなったこと……。他にも色んな話をしてくれたが、俺が思うのはただ一つだけだった。
なあ財前、その話全部もう知ってるよ、と。
「俺、ほんまに怖くて……ど、どうしたらええんやろうって」
「うん……怖いよな」
でもその犯人って、別に財前を怖がらせようなんて思ってないんだよ。愛してるだけなんだ。
盗んだものは全部丁寧に保管してあるし、写真だって日頃の感謝のつもりで送っただけだ。
ああそういや、上履きの紐を盗むのは簡単だったけど、ノートを盗むのは結構手こずったっけな。俺、三年だから二年のノートに触れる機会ってなくて、ずっとチャンスを伺ってた。一冊は机の中に置き勉されてたのを盗んで、二冊は部活中に財前のスクール鞄から盗んで、もう一冊は職員室で積まれていたノートの束から盗んだ。本当は五教科分盗みたいんだけど、最近は財前の警戒も強くなってなかなか手が出せないでいる。惜しいんだよな、あと一冊でいいのに。
財前が部活で使ってたタオルは、洗わないで毎日ベッドで使ってる。財前の汗と匂いが染み込んだ世界でたった一枚の究極のタオルだ。あれを嗅ぎながら財前の部活中の写真とか見ちゃうと、とにかくもう色んな妄想が駆け巡ってムスコをシコる手が止まらなくなる。
なあ、あと写真だっけ?家に入る瞬間とか、あれは俺と財前の二人で帰った時に、玄関に入ってく財前を見送りながら撮った写真だ。自分でもよく撮れたと思ったから送ってあげたんだけど、あんまり気にいらなかったみたいで残念に思う。ああだったら、今度は保健室で寝てる時に撮った写真でも送ろう。あれは絶対気に入ってくれるはずだから。
痴漢の話はつい先週のことだけど、あれだって結構計画を練ったんだ。混んでる時間の電車に乗りたかったから、朝練のない日にしなくちゃいけなかったし、触りながら俺のムスコが興奮して勃ってもダメだから前日の夜とその日の朝に存分にヌいてくる必要があった。その条件が揃ってようやく財前に痴漢することができたのがつい先週のことだった。臀部をまさぐって、後ろから玉袋も弄った。ちょっとだけ触ってみた財前の性器は、もしかしたら興奮してるかな?って思ったけど、怖くて仕方なかったのか縮こまっているだけだった。一通り触って満足した後に、「もしかして財前、痴漢されてる?」と察しのいい先輩を演じると、財前は顔面を蒼白させて小さく頷き俺に助けを求めた。混み合っている車内で俺と財前の立ち場所を変えて「これでもう大丈夫だよ」と言うと、それだけで心底ホッとしたような顔を見せた。俺を犯人とは露も思っていないその態度がなんだか滑稽で、酷く興奮したことを覚えている。
「財前、今までずっと誰にも言えず苦しくて辛かっただろ?」
「……っ、は、い……」
「でもこれからは俺が相談に乗るし、俺が一緒に解決する。一人で悩まなくていい。俺を頼っていいから」
「悠樹先輩……っ」
財前は安心して、目尻に少し涙を浮かべていた。
ああかわいい、可愛いよ、その表情。俺に全幅の信頼を置いてるその顔。
写真に残せないのが本当に残念だ。でも記憶に焼き付けて今日のオカズにしてあげるから安心して。さっき盗んだ部活用の靴下を使って、今日も俺の妄想の中で、死にそうなくらい愛してあげる。