「これ昨日言ってたCDだよ」
「わ、ありがとう花倉くん!家帰ったらすぐパソコンに入れるわ」
「部活忙しいんだから、ゆっくり時間がある時で大丈夫だよ。返すのはいつでもいいから」
優しく言われ、白石は胸を高鳴らせる。花倉の穏やかな話し方と声はいつ聞いても白石の胸を心地良く締め付けた。
それじゃあ、と花倉が踵を返す。少ないやり取りでも、彼の時間を独り占めできたことは白石を満足させた。
「しーらいし!何しとんの?」
「うわっ!け、謙也か……びっくりした」
「ビビリすぎやっちゅーの!食って殺したりせえへんて。な、持ってるCDなに?白石の?」
「え?あ、いや、友達に借りたやつやで」
「へー!誰に?」
「だ、誰て……」
謙也は純粋な疑問で聞いているのだが、その問いは随分と白石を困らせた。ここで、花倉くん、なんて言えば謙也に興味を持たれるだろうし、フットワークの軽い謙也ならすぐにでも話しかけに行くかもしれない。
「あ!財前やん。おーい、財前!ざいぜ……、おい!無視すな!」
返答に困っていると、謙也は後輩の財前を見つけて駆け出して行ってしまった。人知れず安堵の息を漏らし、白石は借りたCDを鞄にしまうために教室へと戻った。
「悠樹、また前髪伸びたんじゃない?いい加減切らないの?」
「俺が行ってる美容室いいよ、紹介しようか?」
自分の席についてCDを鞄へ入れていると、花倉の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら他クラスに在籍する花倉の友人二人が遊びに来ていたようで、白石の意識は彼ら三人の会話に集中する。
友人二人は昼休みになると時折、花倉の元へ遊びに来ることがあった。彼らが発端になって花倉の存在が注目されるようになってしまったらどうしよう、と白石にとっていつもハラハラする時間だ。
「勿体ないよなぁ、髪さえ整えればすごいイケメンそうなのに」
「ええ?何それ。そんなのないよ」
「身長もあるんだからもっとちゃんとすればモテそうだけどな」
「いや……それはないって」
花倉は反応に困っている。花倉の魅力的な素顔を知っている白石はただただ生きた心地がせず、お願いだから早く話題を変えてくれと祈るばかりだった。
「前髪これくらい切ればいいのに」
友人の一人が花倉の前髪に手を伸ばした。それを見て、白石は思わず、ダメ!と叫びだしそうになる。
「わ、ダメダメ、俺の顔見ない方がいいよ」
「え?なんで?」
「そう言うくらい自信ないんだ」
「ふぅん……じゃあやめとくよ」
やがて彼らの話題は別のことへと移っていった。
白石は、一安心すると同時に自分の性格に嫌悪していた。
今自分が望んでいることは、花倉と周囲の人間が関わりを持たないような状況だ。それは、花倉にとっては酷い話だろう。花倉だって、友人が増えるならそれに越したことはない。今彼は自分の顔に自信がないと言って俯いていたが、素顔を知っている自分がその背中を押したら花倉は一歩踏み出せるかもしれない。そして、自信を持って周囲と関わろうとする花倉は、その人となりで多くの人を魅了するのだ。
(でも、俺は、色んな人に素顔を知ってほしくないと思ってるし、謙也にも紹介したくないと思ってる)
自分はこんなに嫌な性格をしていただろうか、と白石は鞄から見えるCDケースに視線を落とした。