いつもの空き教室で、謙也と悠樹の二人は昼休みを過ごしていた。昼食もそこそこに大した雑談も無く、謙也が悠樹に不健全な行為を要求するのは悠樹にとってはもう慣れたことだ。相手が謙也の頼みとなれば、悠樹にはどんな要求だろうとそれを拒むことはできない。今日は自慰を強要された。けれど告白した日に教室で自慰をさせられたことを考えると今更抵抗感を感じることもなかった。

「あ、……っあ……ぁ」

悠樹は既に一度果てていた。しかし一度だけの射精では許されず、謙也が無言で見つめるなか二度目の絶頂に向かって自身を扱いていた。
謙也が見ているというだけで身体の全部が性感帯になるようだ。抵抗感は無くても羞恥心はある。こんな自分の痴態を見てどう思うんだろうと、ぼんやりとする頭の中で思った。

「ぁ、ぁ、あァ……っ!」

込み上げて、また欲を吐いた。ペニスが萎えて、怠さを覚える身体を投げ出す。
次の要求は無かった。謙也は黙ったまま立ち上がり、教室の何処からか物を取り出す。俯きがちに視線を落としている悠樹は音だけでそれを悟った。きっとトイレットペーパーを探してくれているのだろうと思った。

「悠樹、今日はこれ付けて戻ってくれへん?」
「……え?」
「まー拒否権なんか無いねんけどなあ。つーかあっても、お前断れへんやろし」

謙也が悠樹に見せたのは小さなローターだ。

「俺さぁ、一回やってみたかってん。授業中にローター付けるとかAVみたいなこと。めっちゃエロいやん?」

謙也は興奮した顔で笑っていた。今日はまだ触れられていなかったアナルに指が伸びてくる。ついさっき悠樹が吐き出した精子を絡めて、慣れた手つきで秘部を解される。謙也とのセックスが日常になって、男を受け入れることを覚えた悠樹の後ろはすぐに柔らかくなった。

「ァあ、っけん、や……っ!」
「はは、もー入るん?はっやいなぁ。確かにこれ俺のより何倍もちっさいけど」
「ぁ、あんっ、ぃや、けんや、ぁあ……っ、いや、っ」
「はあ?イヤ、とか聞けんわ。拒否権なんかない言うたやろが」

楽しそうにしていた謙也は一瞬にして顔を歪め、不機嫌さを隠しもしない声で悠樹を突き放す。

「つーか、どの口が俺に口答えしてんねん。お前は俺の言うこと聞くのが好きなんちゃうんか。あ?」

何がそうまで謙也の神経を逆撫でしたのか、よく分からないまま悠樹はコクコクと浅く頷いた。
最近の謙也はずっとこうだ。些細なことで不機嫌になって、悠樹に強く何かを言い付ける。何かしてしまったのだろうかと思って思い返してみても、悠樹に心当たりはない。
謙也は悠樹のアナルにローターを入れると、今度はトイレットペーパーを渡してきて身体に付いた精液を拭き取るよう言った。言われるまま後処理をして、床に放り投げていた衣類を手に取る。

身支度が終わると謙也は悠樹を連れて教室へと戻った。歩きながら、悠樹はナカにある違和感に何度か足を止めそうになるも、謙也がそれを気にする様子は無い。

「次、自習やろ。せやからちょっとくらいローター動かしても音が目立たへん。な、言うてる意味わかる?」

耳元に口を寄せられ、周りに聞こえない声量で囁かれる。悠樹はぶるりと肩を震わせた。

「ぁ……っ、うご、かすの?」
「せーかぁい。俺の都合で動かすから、ちゃんと耐えるんやで、ジブン」

悠樹が窓際の一番後ろの席に座り、謙也はそこから離れた教室の中央辺りの席に座る。自習の時間を担当したのは定年間近のおじいちゃん先生だった。私語をしても怒らない先生で有名だったので、自然と教室中が騒がしくなる。謙也には好都合だった。左隣の席に座るクラスメイトに話しかけるような態度をとって、視界の端に悠樹を捉える。制服のポケットの中にあるローターのリモコンを動かすと教室の済で悠樹がビクリと身体を反応させたのが見えた。

(うっわ、えっろぉ)

悠樹は俯いて快楽に耐えていた。注意してよく見てみると耳が赤くなっている。恥ずかしさと気持ち良さでぐちゃぐちゃになっているであろう悠樹のことを考えると謙也は随分愉快な気持ちになった。

「ほんで俺の貸したジャンプがさぁ……、なぁ謙也聞いとる?」
「あ?あー聞いとる聞いとる。ジャンプがなに?」
「水に濡れてくっしゃくしゃやねん!なんで風呂場で読んだんやろ、意味わからんわー」

クラスメイトの話を聞き流しながら、謙也の意識はほとんど悠樹にあった。気まぐれにリモコンを操作するとその度にビクビクと身体を震わせる悠樹の反応が面白くて、つい見入ってしまう。

試しに、振動を「強」にしてみた。
その瞬間に悠樹は身体を前のめりにして、切なげに眉を寄せて口を固く結ぶ。零れそうになる熱い吐息を我慢している表情は扇情的で、悠樹だけがこの平凡な教室から切り抜かれているようだった。

「なー謙也さぁ、さっきからなに見てん……」
「あーっヤッバ、プリント!なんも進んでへんやん俺ら。これ回収するとか言うてたっけ?」
「え?ああ、言うてたけど」
「ほんならやるかぁー。だるいけどしゃーないな」

視線を追ってこようとしたクラスメイトを遮って無理やりプリントに向かせる。見んなよ、と思った。悠樹のああいう顔見ていいの俺だけやから、とも。
それは、大勢の他人がいる中で悠樹に羞恥な行為を強要した本人が考えるにはあまりにも矛盾した考え方だった。

ローターを放って暫くクラスメイトとプリントに取り組んだ。けれど意識は悠樹の方を向いたままだ。
そうしたら、不意に悠樹の方から会話が聞こえてきた。悠樹と喋っているのは白石だ。二人は席が隣同士だった。

「花倉くん、大丈夫なん?さっきから具合悪そうやけど……」
「っ、へ、平気……」
「ほんまに?顔赤いし、熱あるんちゃう?保健室連れてくで」
「ぁ……っだ、だいじょうぶ、だから……」
「いやでも……」

やっぱり心配、と言って白石は悠樹に向かって手を伸ばした。それが熱を測ろうとしたのか、半ば強引にでも保健室へ連れてくために腕を掴もうとしたのか、意図はわからない。
ただ理由はなんであれ、謙也の中に黒い感情が渦巻いたのは確かだった。自分でも気付かないうちに席を立って、悠樹の座る席へと荒々しく歩いていく。謙也が急に音を立てて立ち上がったので一緒にプリントをやっていたクラスメイトは驚いていた。

「悠樹、保健室行くで」

返事も聞かず腕を引いて席を立たせる。強引な動作に悠樹が堪え切れず、「あ……ッ」という小さな嬌声を上げて、謙也は胸の中で舌打ちをした。男の性欲を刺激するような声を、他人が居る前で漏らされたことに謙也は腹を立てた。

謙也が悠樹を連れて行ったのは昼休みにも蜜事を繰り返したいつもの空き教室だった。二人きりになるにはこの場所が一番いい。

「けん、や……っ、ぁ……え」

教室に入るなり謙也は悠樹が腰に巻いているベルトに手を伸ばした。カチャカチャと音を立てて外され、下着まで一気に脱がされる。足元にスラックスと下着をたごませたまま、謙也は悠樹を机に覆いかぶさせた。上半身だけ机に預けたようないつもの格好だ。
その後ろで謙也が早急にズボンのチャックを開ける。前をくつろがせ、悠樹の後ろ姿を見ながら自身のペニスを上下に擦るとすぐにかたく勃ち上がった。

「ぁ、ぁ……けんや、けん、や……っ」
「はっ……えっろ」

中にローターが埋まったままの悠樹の秘部は、今日まだ一度も受け入れていない謙也の熱を欲するようにヒクヒクと入り口を震わせている。
謙也は昂ぶったペニスを入り口に宛てがい、そのまま突き刺すように腰を押し付けた。

「あ……っ!?ぁあ、あ、あーーーっ!」
「そういう声とか、顔とか、俺だけに見せとけや。っなぁ!」
「ああっ!あ!けんや、はげし、あァ!」
「激しく、しとんのや!わざと、!」
「ああ、あん!だめ、こえがっ!ああ!なか、なかのやつ、うごく!あっ!」

謙也に深く挿され、更にその奥で動くローターが普段触れない最奥を刺激し悠樹の背中を甘く痺れさせる。腰と頭も蕩けてしまいそうで、悠樹は何も考えられないまま必死に机にしがみついた。

昼休みに二度果てた悠樹は、謙也の激しい腰の動きを受けてまた性器を勃ち上がらせた。かたくなった性器は正直で、熱を吐き出したいと言わんばかりにパクパクと鈴口が小さく収縮を繰り返している。

「けんや、!だめっ、イク……!!イっちゃ、あっ!もぉ……っ!」
「はあっ、俺も、イク……」
「あ!あ、!ああぁーっ!!」
「くっ」

蠢く肉壁に締め付けられ、謙也は悠樹の中に精液を吐き出した。コンドームなんて付けている余裕などなかったから、射精して直接注ぎ込むことになる。
悠樹はお腹の中でじわりと熱が広がったのを感じた。けれどそれよりも未だ中で振動するローターに意識を奪われ、その止まることのない無機質な動きにピクピクと腰が僅かに反応してしまう。

「おねが、あぁっ、ぬいて……!」
「あー、これな……はいはい」
「ぁ、ん……っ!」
「悪いんやけどちょっと力んでくれへん?」

下腹部に力を入れさせて、奥に埋まっていたローターを抜き取る。ようやく快感から解放された悠樹は机に身体を預け、肩で大きく息をし呼吸を整えた。
その姿と、後ろの穴から自分が吐き出した精液が僅かに溢れているのを見て、謙也はやけに満足した気分になる。だって、付き合っている相手が『彼女』だったらこうはならない。

悠樹の口からはまだ熱の冷めない濡れた吐息が洩れている。誰の名前も平等な声色で呼ぶその口が、自分のことだけは求めるような切ない声で呼ぶんだと、そのことが急に思考の中で意識された。
謙也の背中がゾクリと震え、無性に、その口を塞ぎたくなる。

「…………、あー、はよ中のやつ出さんとな」

けれど何故か、悠樹の唇にキスをすることはできなかった。理由は分からない。悠樹とこんな関係になってから、怖気づいて己の欲望のままの行為を果たせなかったのは、これが初めてだった。