快楽の虜

 

 ※ 痴漢モノ



ざわめきに満ちたすし詰め状態の満員電車の中、ドアに押し付けられて軽く溜息をついた。
セットしたはずのアラームが鳴らなくて。見事寝坊して学校に遅刻寸前のところ、ギリギリ間に合う電車になんとか乗れたけれど。通勤ラッシュにかち合ってしまい、この有様だ。
俯いているため背中から上は辛うじて空気にさらされているが、腰からお尻にかけて他の乗客と密着しているせいで他人の体温を直に感じて…少し気持ち悪い。身動ぎしてみるけれど大した効果はなく。ついてないな、とぼんやり自分の靴と床を眺めた。
違和感に気づいたのは、それからすぐだ。スルスルとお尻を這う感覚。まるで撫でられている、ような。
…いや、まさか。まさかね。思い浮かんだ答えを振り払うように身震いする。
だって、痴漢だなんて。嘘に決まってる。
だけど私の意に反して、その動きはだんだん大きくなっていって。

「んん…っ」

揉むようなそれに思わず吐息が漏れる。男の大きな手だ。ああ、気持ち悪い。鳥肌が立つのがわかる。
どうしよう。どうすればいいんだろう。この人痴漢です!って言えばいいんだっけ。
でも――怖い。こんな目に遭うなんて初めてだ。震える手を握りしめる。
いつの間にか太ももにまで伸びていた手が肌を滑る。感触を楽しむかのように繰り返し撫でられて、ぞわぞわと得体の知れない感覚が身体を走った。

「ひ、ぅ…」

もう片方の手がブレザーの中に差し込まれ、胸を掴む。そのまま揉みしだかれれば、ブラに蕾が擦れて、思わず反応してしまう。
耐えている間にも、手の動きはどんどんエスカレートしていって。

「っ、あ…!」

不意にショーツのクロッチ部分を撫でられ、咄嗟に脚を閉じようするが。時すでに遅し。お尻の方から腕を差し込まれていたため、太ももで手を挟む形になってしまう。
それを押し当てていると勘違いしたのか、男の手は段々とエスカレートしていく。
布地を何度か擦っていた指が、前へ移動する。軽く摘まれたのはクリトリスで。突然の刺激に肩が跳ねた。
布越しにコリコリと、芯を持ち始めたことを確認するように刺激される。敏感なそこを弄られ、吐息が荒くなり出したくもない声が漏れた。
――気持ちいい? そんなはず、ない。

「いや、ぁ…っ」

もう一度クロッチを撫でた指が、何かに気づいたように裾から侵入した。秘裂をゆっくりなぞられて身震いする。

「もうこんなに濡らしているのか」

低い声が耳元で囁いたせいで、びくりと身体が震える。どこかで聞いたことがある、ような気がするその声音。
恐る恐る前を向き、ドアの窓に反射して映っている相手を確かめる。
――そこに居たのは。

「っ!? やが、み…!」

赤く長い前髪で片目を隠し、パンクファッションに身を包んだ長身の男。ガッチリした体つきに首元には黒いチョーカー、大きく肌蹴たシャツからは鍛えられた胸筋が見えている。
八神庵。私がいつか打ち倒したいと思っている男。だけど実の所は負け通しだ。更に歯牙にもかけられていない。こいつが憎しみをもって殺さんとする――本気の殺意で対峙するのは京だけだ。私など相手にもされない。そんなところがプライドを逆撫でする。
彼がどうして、と問う間もなく。直接根元から肉芽をなぞり上げられてしまう。

「ぁ、ア!」
「静かにしないと他の乗客に聞かれるぞ」

そうは言いながらも手を止める気配はない。それどころか益々エスカレートしていく。
敏感な海綿体を包む薄い皮を、人差し指と中指が剥いてしまう。そのまま軽く撫でられるだけで、くずおれそうになるほどの快感に襲われた。

「邪魔だな…」
「あ…っ」

片手だけでブラウスのボタンを引きちぎり、更にショーツをスカートの裾から見えるか見えないかのところまで下ろされる。抵抗しようにもその力は強く、振り解けるわけもなく。私はただ羞恥に震えながら受け入れるほかなかった。

「こ、んなの…バレ…っ」
「ああ、だから大人しくしているんだな」

訴えかけても男はどこ吹く風だ。ブラを下にずらされてしまえば、乳房が溢れて丸見えになって。ねっとりと耳輪を舐められ、耳朶を食まれ。また声が出そうになる。

「勃たせているな。乳首も…クリトリスもか」

クク、と喉で笑われて顔に熱が集まった。まるで淫乱だと、そう罵られているようで。

「っちが、ちがうっ…!」
「何が違う? いやらしい女だ……っと」

アナウンスと共に電車が停まり、次いでドアの開く音がする。私がいる方ではなく、反対側の、だ。どうやら駅に着いたらしい。逃げようとしたが…思いとどまった。今の自分の格好を思い出したからだ。こんな姿を他の人にまで見られたくない。だけど、ああ、どうすれば。
乗客は更に増えたらしく、先程より人口密度は高い。そのせいで私と八神は互いの呼吸音がはっきり聞こえる距離まで密着させられてしまった。お尻の谷間に硬いものを添えられ、思わず後ろを振り向く。

「っ…」
「わかるか? 貴様のせいでこうなったんだ」

責任を取ってもらわんとな、などと戯言を言って口元を歪める八神は。いつもの端正な顔立ちに宿る鬱屈さに加え、熱に浮かされたように蕩けた瞳をしていて。その視線に貫かれ、思わず目を逸らしてしまった。
――ああ。心臓の鼓動がうるさい。こいつに聞こえはしないだろうか、なんて。ふいにそんなことが心配になって、また前を向いた。

「へ、んた…ぃ」
「嫌っている相手に触れられて、ここまで濡らしている女に言われたくはないがな」
「っちが、く、あ…!」

悟られぬように悪態をつけば。入口付近を撫でていただけだった指が、割れ目から押し入るように挿入された。いきなりのことに体を強張らせれば、もう片方の手が乳首を捏ねる。

「きついな…貴様、処女か」
「っあ、ァ!」

ゆっくりではあるがナカで指を曲げて擦られ、嬌声が止まらない。
初めてとはいえ、十分に潤んだ蜜壺が指一本を受け入れるのはあまりに容易く。何度か抽送を繰り返されれば、そこは快感を拾い始める。

「ひ、あ…ぁン!」

指を増やされ、子宮口をなぞられて。抉るような動きに思わず嬌声が漏れる。まるで蹂躙されているようだ。
もっとほしい。もっと、もっと。貪欲にゆらゆら動いてしまう腰に、どうか彼が気づきませんようにと祈った。

「そこっ、そこ一緒にしちゃだめ…っあぁ!」

乳を揉んでいた手が下に伸びる。クリトリスまで擦られては、もう堪らない。ぴん、と指で弾かれるだけでも強い快楽が電流のように走る。
ねだるように八神の腕を掴めば、また笑われてしまう。もはや与えられる官能をただ甘受するだけだ。抵抗なんて、頭になかった。

「おい、気づいているのか」
「ぅえ…っ?」

ぐぽぐぽと音を立てながら抉られ、回らない頭で返答する。蠢く媚肉を弄ばれ、その度に甘い喘ぎ声が漏れていた。

「貴様の隣にいる男に、先程からずっと見られているぞ」
「っ…!?」

驚きに目を見開いて右側を向く。すると、ちょうどこちらを見ていたらしい学生と目が合って。即座に顔をそらされたが、その頬はしっかり染まっていた。
きっちりと学生服に身を包んだ彼。対して私は、羽織っただけのブレザーの上着、ボロボロになったブラウスに捲り上げられたスカート。肌が殆ど見えてしまっているこの格好に、今更ながら羞恥心が湧き上がる。

「ちょっと、だめ…っ!」

ストップをかければ手は止まり、膣から指が抜かれる。安堵したのもつかの間、腕を引かれて八神と向き合わされた私は。

「うそ、や…っあ!」
「やはり面白くないな」

再び二本の指で奥まで穿たれ、大きく身体が跳ねる。言っている意味がわからなくて彼を見上げれば、思ったよりずっと側に顔があって。唇が触れ合いそうなほど、それは近い。
こんな状況だというのに、相手はあの八神なのに――なぜかまた、胸が高鳴ってしまった。
隣の様子を見ようとしたけれど、頬に手を添えられてそれは叶わず。

「俺を見ていろ。目を逸らすなよ」

子宮がきゅ、と唸った。そんなこと言われたら、それだけで絶頂を迎えてしまいそうになる。どちらにせよ、もう限界が近い。

「イ、っちゃ…あ!」
「イけ、なまえ」

再び低く囁く八神。鼓膜にじんわりと沁みる艶っぽい声さえもが下腹に響いて。更に指のピストンが激しくなり、思わず締め付けてしまう。
名前を呼ばれたのなんて初めてかもしれない、と思ったときには既に視界が白くスパークしていた。

「イぅ…イく、イくっ…!」

今まで感じたことがないほどの快楽が全身を襲う。強烈すぎるそれにびくりびくりと身体を跳ねさせた私は、もう立っていられなくて八神の方に倒れ込んでしまった。

「っ、ふ……」

ガクガク震える脚にまだぼんやりしている頭。しかし彼は無情にも私を突き放す。

「立て」
「な、に…っあ」

戯れのように胸を掴まれ、手触りを確かめるように揉みしだく八神。乳首がまた反応してしまう。子宮が痛いほど疼く。
どうしようもないほど、この男を――求めていた。

「責任を取ってもらう、と言っただろう」

萎えていないモノを腰に擦り付けられ、生唾を呑んだ。ああ、今自分がどんな顔をしているか想像がつく。
ちょうど駅に着いたらしく、電車がまた停止した。私達の方のドアが開くようで、慌てて下着を穿いて、上着で破れたブラウスを隠した。

「行くぞ」

先に電車を降りてしまう八神。逡巡する間もなく、私の足は彼を追って動いていた。

「……うん」

学校のことなんてもう頭にない。何が待っているのか、想像もつかないけれど。きっともう私は、彼から逃れられない。
――八神に与えられる快楽の、虜になってしまったから。




 

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