淫奔ナイトメア

 

 ※ 〇〇しないと出られない部屋ネタ
   超ご都合主義です



怒りに任せて扉に拳を打ち付ける。だが頑丈なそれは、揺れただけで何ら変化はない。ぎり、と唇を噛み締めた。

「ふざけるな…!」
「おい、少しは静かにしろ」
「この状況でよく落ち着いていられるわね!」

腕と足を組みベッドに腰掛けているのは、八神庵。私がこの世で一番嫌いな人間だ。視界に入るだけでイライラする。
KOFの余興だなんだと言われ、選手全員がランダムなペアになり部屋に押し込められた。それはまだいいとしても、その相手がよりにもよってなぜこいつなんだ。二人きりなんて御免だ、とぼやきながら、もう一度扉に技を放つ。だがそれは先ほどと同様、当たった途端にふっと消えてしまった。

「俺でも駄目だったんだ。みょうじ、貴様にできるはずがなかろう」
「何よ、この…っ!」

今度は八神に向かって大きく拳を振りかぶる。
白と黒で纏められたモダンな部屋。中央には寝心地のよさそうなキングサイズのベッドが鎮座している。というか、そのやたら大きなベッドと小さなシャワーブース以外の家具は存在していない。
そして、ドアの上のプレートには――"オナニーを見せ合わないと出られない部屋"などというふざけた文言が書き記されてあった。

「フン…この程度か」

振り上げた腕をいともたやすく受け止められ、鼻で笑われる。大きく舌を打った。

「先程から何を焦っている?」
「私は、ここから出ようと…!」
「こんなもの、すぐ終わらせればいいだけだろう。処女でもあるまいに」

うぐ、と言葉に詰まってしまう。ここでそんな反応をすれば、そうだと言っているようなものだ。取り繕おうにも、既に遅く。

「…ほう?」
「な…何よ」

面白そうに口角を上げた八神。強がってみるけれど、もう遅い。
するり。腰を撫でられ、過剰なほどに身体を震わせてしまう。

「っちょっと! やめ…」
「男に対する耐性もないのか。顔が赤いぞ」

揶揄するような口調に拳を震わせる。それでもなんとか開いた口が紡ぐのは、紛れもない拒否。

「はな…っしなさい、よ」

途切れ途切れに言えば、意外にもすぐ手を離されて。弾かれるように距離を取ればまた笑われる。

「な、なんで服脱いでるの!?」

いきなり上着を脱ぎ、床に落とした八神。それにぎょっとして声を荒らげる。反応が過剰な気がするのはもちろん、己らに課せられた課題のせいだ。

「脱がずにどうやるというんだ。少しは頭を使え」
「な…っ、本気で…?」

馬鹿にされるけれど、今の私にそれを気にしている余裕はない。思わず後ずさってしまった。

「このまま二人でこうしているよりはマシだろう」
「っでも…」

確かにそうかもしれない、だけど。どくどく跳ねる心臓を宥めるように胸に手を当てた。心の準備も覚悟も、何もかもできていない。
うんざりしたように八神がため息をつく。

「早くしろ。それとも…俺に脱がせろと言うんじゃないだろうな?」
「っうるさい! 自分の服ぐらい自分で脱げるわよ!」

売り言葉に買い言葉とはこのことか。つい乗ってしまって、後悔してももう遅い。
シャツを取り払った八神に背を向け、震える手で自分の服の裾を掴む。そして。
震える手でボタンを外し、肌から落としてゆく。ぱさ、という衣擦れの音がいやに大きく耳についた。

「ぬ、脱いだ…けど…」

キャミソールまで脱ぎ捨て下着姿になった私は、ぼそぼそと呟く。前を向く勇気は出なくて、項垂れたまま所在なく、左手で右の二の腕を掴んだ。
ああ、今なら恥ずかしさで死ねるんじゃないだろうか。

「これもだ。脱げ」
「ひゃんっ!」

ブラのフック部分を指で引っ掛けて弾かれ、驚いて振り向けば黒いボクサーパンツ以外何も身に着けていない八神が立っていて。顔を逸らしてしまう。

「じ、自分だって着てるじゃない!」
「なんだ、そんなに見たいのか?」
「っな!?」

口をぱくぱくさせれば、再び彼が笑う。羞恥で一向に頬の熱が引かない。
ただただ翻弄されている。それがたまらなく悔しかった。
立ち尽くす私をそのままに、八神はベッドに腰掛けてこちらをじっと見つめる。
脱ぐのを待ってやっているのだ、と言わんばかりの態度に、殴りかかりたくなる衝動をなんとかやり過ごした。

「悪趣味…!変態、スケベ、サディスト!」
「何とでも言え」

悪態をつきながら自分の背中に手を回す。緊張で手が震え、上手く金具を外せない。
ああ、何が悲しくて嫌いな相手の目の前でストリップなんてしなければならないのだろう。
やっとのことで外したブラを、時間稼ぎをするようにわざとゆっくり、しゃがんで置いて。
纏わりつくような視線を感じ、前を向いた私は。固まってしまった。
八神が。緩く勃ち上がった自身のものに、布地の上から触れていたから。

「どうした? 続けろ」
「っあ…な、何」

狼狽える私とは対象的に、全く動じずこちらに視線を投げかける八神。熱を孕んだそれに、ぴくりと身体が反応してしまう。
じわ、と。染み出したものを誤魔化すように、内腿をきゅっと擦り合わせた。

「な、んだかんだ言って自分も興奮してるんじゃない!」
「そうだが。悪いか?」

必死で煽ったつもりがカウンター。開き直るように言われ、二の句を告げないでいると。八神は意地の悪そうな顔をして、こちらを見る。

「自分も、ということは…貴様も興奮しているんだな」

まずい。背中に冷や汗が伝う。墓穴を、掘ってしまった。
弁解しようにも何も言い返せない。だって、こんなに――疼いてしまっている。

「オカズにされるのがそんなに悦かったのか」
「ち、が…っ」

おかず、という言葉の生々しさに身体が震える。慰み物にされて発情するなんて。そんなわけがないと。言い返せなかった。
動揺するな、したら負けだ。そう自分に言い聞かせるけれど。言葉尻はどんどんすぼんでいって。
このままじゃ、絡め取られてしまう。

「悪趣味、変態、淫乱――マゾヒスト」

嬲るように、ゆっくりと。さっき私が吐いた台詞を復唱する八神。でも丸々同じわけじゃなくて。まるで…自分のことを言い表されているようで。
認めたくないのに、反論もできない。じわり、と悔しさから涙が滲む。

「ほら、早くそれも脱げ」

当然のように顎で指し示すのは、私のショーツ。追い詰められた私は自棄気味に、でも恐る恐る指を滑らせて。サテン生地とレースでできたそれを、少しずつ下にずらしていく。
その間も八神は視線を私から外さない。意識しないでいようと思っても、どうしたって気になってしまう。
ショーツのクロッチ部分が銀糸を引いていそうで、湿っていそうで。直視するのが怖くて目を逸らした。

「こ、れでいい、でしょ」

引力に従って踝まで落ちた下着を、緩慢な動作で脱ぎ捨てて。目を伏せながら零す。
すれば無言で手を差し伸べられ、ベッドへ誘われ。こわごわ彼の元へ近寄った。
ああ。今から私は、どうなって、何をされてしまうのだろう。
ぎゅ、と目を瞑るけれど。

「っ、え…」

呆気に取られる。八神はエスコートするかのように私の手を取り、ベッドに座らせ。自分はその反対側へ移動しただけだったから。

「なんだ、期待したか?」
「す、するわけないでしょ!」

跳ねのけて睨みつける。激しく鼓動する心蔵を無視しようとしながら。
私は足元、彼は枕側へとそれぞれ向かい合って座った。八神が己の下着を脱ごうとするので、慌てて目を逸らす。
とりあえずここまで来れば、あともう少しで開放されるはず。とはいっても私は…じ、自慰なんてしたことがない。どうすればいいのかわからず、とりあえず自分の性器へ手を伸ばした。

「ふ、ぁ…」

ぬるぬると分泌物で潤っているそこ。まだ何もしていないのに濡れている、その意味ぐらいわかる。信じたくは、ないけれど。
指でなぞっているだけなのに声が出るのが恥ずかしくて、もう片方の手で口元を抑えた。

「もっと広げて見せろ」
「な、に言って…」

羞恥心でいっぱいいっぱいな私に、彼はまた無理難題を押し付ける。睨みつけようが、八神は不遜な態度を崩さず口元で笑うだけだ。

「それだと見せ合ったことにならんだろう」

冗談じゃないと言いたかったが、仕方なく。大陰唇をもう片方の手でそろりと拡げる。
くぱりと開いたそこから、蜜が溢れたのが分かり。また、赤面してしまう。

「は、っ」

吐息混じりの声が聞こえて、そろりと目線を上げる。そこにはわずかに息を荒げながら己の逸物をしごく八神がいて。思わず注視してしまった。
普段の冷酷な表情とは違い、熱を宿した瞳がぎらぎらと光る。視線が混じり合い、彼が口角を上げた。男のくせにどこか艶めいたそれに思わず、生唾を呑む。
私で、興奮してるんだ。あの八神が。その事実に下腹がまた疼いた。

「ん、あ…ァ」

恐る恐る割れ目の上にある肉芽に触れる。くにくにと弄ってみるが、気持ちよくない。というか…上手に刺激できなくてもどかしい。

「上手く触れないのか?」

私の心を読んだように声が降ってくる。驚いて顔を上げれば、八神が立ち上がりこちらに近寄ってきていた。

「なら、手伝ってやろう」
「ちょ…っ」

拒否する間もなく後ろに回られ、抱きすくめられる。大きな体にすっぽりと包まれて、肌と肌が触れ合う感覚にまた心臓の鼓動が激しくなった。
熱い。私も、彼の身体も。

「クリトリスはちゃんと皮を剥いて弄れ」
「ひ、ァ…!」

耳元で囁かれ、生温い吐息がかかって。びくんと身体が跳ねる。
鼓膜を刺激する低音に合わせ、敏感な陰核を捏ねられて嬌声が漏れた。

「耳、舐めるの、だめ…っあぁ」

耳の穴に舌をねじ込まれ、逃げるように身を捩る。だけど彼がそれを許してくれるはずもなく。簡単に捕えられ、そして責められる。

「乳首も勃起しているぞ」
「っや、ちが…っあ!」

頭を振れば、色づいた蕾を摘まれて。呼応するように肉芽がひくりと脈打つ。
――気持ちいい。こんなの、知らない。絶え間なく与え続けられる快感と羞恥に、頭が馬鹿になってしまいそうだった。

「ん、ふ…ぁ、だめ…」

鼻から抜けるような甘い声が、自分のものではないようで気持ち悪い。
ちゅぷ、と入口に指を添えられ。指が入るか入らないかという瀬戸際で撫でられる。
ああ、どうしよう。期待してしまう。これから何をされるのか、どこをどう責められるのか。

「指を挿れるのも初めてか」
「当たり前…っア、く!」

節くれた人差し指が、蜜壺に呑み込まれてゆく。初めてのことなのに恐ろしいほど痛みはなくて、ただ気持ちよくて。
ゆっくりと抽送されれば、それだけで。感じすぎるほど、感じてしまう。

「あ、ぁっ!そこ、そこぉ…っ!」

二本に増やされた指がばらばらに動く。かと思えば二本同時に下側の壁を抉られたり、子宮口をつつかれたり。まるで玩具のように、ただ翻弄される。

「ココもか?」
「だ、めっ! や、あぁあっ!」

クリトリスと膣内を同時に責め立てられれば、もう、私は。
過ぎた快感に、身を震わせることしかできない。

「やだ、ぁ、何か…何か来る…っ!」

何かが昇り詰めてゆく感覚。怖くて彼にしがみつく。何かを求めるように、いっそう膣がざわめき指を締め付けた。
耳元で囁く八神の声はいやに熱っぽくて、それがまた官能を高めてゆく。

「イけ」
「ひ、っあぁああ!」

初めてのオーガズムに背を仰け反らせ、内腿を戦慄かせて耐える。
だけど。

「や、っだめ、今だめぇえ! っまた、またキちゃうのぉ!」

八神の手の動きは止まらない。それどころか、より激しくなる。いやいやと首を振って耐えるが、それは二度目、三度目の絶頂を迎えても開放されることはなく。

「ぅ、ふ…ァ…っ」

やっとのことでちゅぽ、と抜かれた指。脱力しきり彼の腕の中に倒れ込む。
ああ。こんなに疲れて、もう動けないぐらいなのに。

「…フン。やはり淫乱だな」

まだ――ぜんぜん、足りない。
八神の手首を掴む。ねだるように、媚びるように身体を擦り付けた。

「もっとぉ…っ、もっとして…ぇ」
「今度はこっちだ」

すっかりいきり立った大きいモノが、ぬるりと股の間を這う。クリトリスと亀頭が少し触れ合うだけでも気持ちよくて。嬌声を漏らせば、そこばかりを往復される。
ああ、これが、この大きいのが入ってしまったら。私はどうなるんだろう?

「ね、欲しい…っ」

自然と言葉が口をついて出ていた。羞恥もプライドもかなぐり捨て、強請る声はどこまでも甘い。
八神は私の淫らな本心など全てわかっていたんだろう。呆けもせず、ただ笑う。

「挿れてしまえば自慰ではなくなってしまうだろう。いいのか?」
「いい、からぁ…はやく、ちょうだい…っ」

陰茎を手に取り、自ら秘所へ導く。ひくりひくりと収縮する膣はどこまでも淫奔だった。

「フン…仕方ない」
「あ…っ」

切っ先が膣口に宛てがわれ、ひくひくとナカが蠢くのが分かる。自分で腰を持ち上げ、擦り付けるように揺らせば互いの粘液が混ざり合って。

「ね、八神…っ」

めくるめく官能への期待が募る。からっぽの肉壷が切ない。はやく、きて?
蕩けた顔でそう笑いかければ、彼の顔が歪んだ。

「挿入れるぞ…ッ」
「っひ、ァああっ!!」

ずん、と肉を掻き分けて押し入る逸物は、想像していたよりずっと太く、大きくて。
その質量に息が詰まる。呼吸ができなくなる。裂かれるような痛みに、思い切り顔を顰めた。

「っ、こら…緩めろ」
「むり、ぃ…痛っん、ふ…ぁ」

宥めるようにキスをされ、舌を絡めた。ぴちゃぴちゃ、ぐちゃぐちゃと上からも下からも水音がする。それすら興奮材料にしかならなくて。

「ほら、全部入ったぞ」
「あ…は…」

ぎっちりとペニスを食い締めている結合部を見せつけられて、頭がゆだりそうになる。
子宮口にぐりぐりと先っぽを押し付けられ、その度に軽く達してしまいそうだった。

「深いのやあ…っ! ア、ひぅっ!」

ゆっくりと律動を始めた八神。その動きに合わせて喘ぎ声を上げる。ぬかるんだナカを擦る陰茎は熱い。火傷してしまいそうなほど。
時間が経つにつれ段々と痛みは収まり、代わりに重い快楽が湧き上がってきて。

「初めてなのにもうこんなに感じているのか? 変態…」
「ちがっ、ァ!」

思わず仰け反る。奥を抉られて軽くイってしまい、さっきより彼を強く締め付けた。形が浮き彫りになるほどに。それに合わせて八神の息も、荒くなる。

「っ…違わないだろう」
「あっ、すき、そこ好きぃっ!」

子宮口をノックするようにコンコンと突かれ、素直に嬌声を漏らす。
腰を掴んでいた手が頭の横に移動し、更に密着して。胸の飾りがその逞しい胸板に擦れ、それだけで快感を拾ってしまう。

「なまえ…」

名前を呼ばれてびくり、と身体が跳ねる。
眉根を寄せて私を見つめる八神の瞳に宿っているのは、恍惚と悦楽。それを齎しているのが私だという、その事実が痛いほど――気持ちよかった。

「いおり、ィっ…!」

名前を呼べばがちゅがちゅと遠慮なく子宮口を抉られて。壊れてしまいそうなほど強いそれすらも、快感に変換されてしまう。

「あ、ひぃ…っあん!」

だらしなく舌を突き出して喘いでいれば、また唇を合わせられて。
快楽で頭が痺れる。処女なのに、ついさっきまで処女だったのに、こんなに感じてしまうなんて。私は本当に淫乱なのかもしれない、とか頭の隅で考えながらも。八神を、求め続けてしまう。

「ふ、ゥあ…! いお、庵ぃっ…もっと、もっとぉ!」
「煽る、な…っくそ」

足を彼の腰に、腕は首にそれぞれ絡める。首筋に顔を埋めれば亀頭が一層膨らんだように感じて、収縮する肉壁がまたうねった。総毛立つほどの快感を、決して逃さないように深く咥え込む。

「ッく、イくぞ…!」
「やっ、ナカらめ! いおり、ひ、アっ! イく、イっちゃうぅ!」

口では駄目と言いながらも、抵抗も…身体を離すことさえしない。
最奥に押し付けられて。どくりどくりと膣内で脈打つ陰茎と、中に溢れる熱い飛沫を感じながら、何回目かもわからない絶頂を迎えた。
暫くしてずる、と引き抜かれたモノ。スペルマが零れて脚を白く汚す。荒く息を吐きながら、八神が隣に寝転がる。

「っ、は...」

そうやって数分間、お互い無言で倒れ伏していた。
なんとか呼吸を整えた私は起き上がり、よろよろと部屋の隅にあるシャワーブースへ向かう。ピロートークやムードなんか知ったこっちゃない。むしろ同じ空間にいたくない。

「く、そ…っ」

徐々に白面に戻り始めた私は、先程の痴態を思い出してシャワーを浴びながら頭を抱え込んだ。
ああ。これからどんな顔をしてあいつと接すればいいんだ。


 ▽


あれは夢だ、忘れよう、と現実逃避の末に結論付けて身支度を整えた。見事に解錠されていたドアを開けて部屋から出ると、そこにいたのは京とテリーの二人。
お疲れ様、と声をかけるがどこかギクシャクしている空気。何か…私達の部屋のように変な課題でも出されたんだろうか。

「ねえ、他の人達は?」
「まだ出てきてねえぞ。俺とテリーがペアで…俺らのは楽だったんだけどな」

京に問えば、落ち着きのない様子で答えてくれる。
彼によると、課せられた課題はペアによって違うらしく。京とテリーは恋愛遍歴の暴露、だったらしい。ちょっと聞いてみたかったな、と笑った。

「あ〜……あと、さ。そこにモニターあるだろ?」
「うん、あれでしょ?」

私が指差した先の壁には、大きな液晶画面があって。それぞれの部屋を映し出している。どの部屋も、健全でそれでいて難しい指示を出されているようだ。ひよこのオスとメスを見分ける、千羽鶴を作るなんていうのもある。

「みんな頑張って…る…」

待てよ。ここにそれぞれの部屋が映し出されている、ってことは。

「いや、俺だって見る気はなかったんだけどさ…なっ、テリー!」
「…俺に振るな!」

慌てたように話す京。帽子を被り直したテリー。そのどちらの頬も赤らんでいるのは――?

「ま、まさか…あんた達…」
「何をしている」

後ろから降ってきた声に顔が引きつる。恐る恐る振り返ればそこには、先程まで同じ部屋にいた男がいて。

「や、八神っ…!」
「もう庵とは呼んでくれないのか?」

言葉とは裏腹に彼が見せるのは意地の悪そうな笑み。かっと頭に血の登った私は腕を振り上げるが、簡単に止められて。
あれ、なんだかデジャヴ…。

「なまえ」
「っな…! …、……!」

あのときのように名前で呼ばれて。思わず固まった私の頭を一撫でし、八神は隣をすり抜けていく。

「あ、いつ…っ!」
「…まあその、なんだ。ドンマイ…?」
「ハハハ…」

火照る頬を、食い込む爪の痛みで宥めるように拳を握る。こんなに人を憎いと思ったのは初めてかもしれない。
慰めのように肩に手を置く京とテリーの優しさが、今はただ辛かった。ああ、当分この悪夢からは逃れられそうにない。




 

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