Rendere pan per focaccia

 


「ギアッチョって童貞っぽいよねー」
「…あ゙?」

アジトのリビングに設置されている、粗末な応接セット。そのソファに腰掛けたギアッチョはカフェラテを啜っている。
同じように対面のソファに座り、雑誌を読んでいた私が放った一言。それは彼の神経を逆撫でるような挑発。
期待を裏切らずピクリと引き攣った彼のこめかみを確認し、わざとらしく笑みを浮かべてみせる。

「だからぁ、童貞なのかなって」
「何度も言われなくたって聞こえてんだよこのクソが! だ・れ・が、童貞だって!?」

いつものように突っかかってくるギアッチョ。ああ、楽しくて堪らない。
私のことが嫌いなくせに、ソファから移動しようとしないのはつまらない意地を張っているから。てめーが退くまで梃子でも動いてやらねえぞ、ってね。そういうところが面白くて、つい遊んでしまう。

「あんたに決まってるでしょ、童貞ギアッチョくん」
「ッんだとてめ〜〜〜ッッ!!!」

キレた彼に笑いが止まらない。罵詈雑言を吐き続けるギアッチョをよそに、頭の中で次に入れるべき茶々を練り上げる。
そんな反応をするから、そんな態度をしているから私にこうやってからかわれるのに。この男はいつまで経ってもそれがわからないらしい。
キッチンでカッフェを淹れていたはずのイルーゾォは、早々に鏡の世界へと退散したらしく気配がない。とばっちりを受けるのは御免なんだろう。他の皆はそれぞれ任務や買い出しで留守だし、誰に止められることもない。
つまり、イジり放題ってことだ。

「ヤる直前で逃げられたりしてんでしょ? がっつきすぎなのよ童貞くんは」
「ンなわきゃねーだろうが! この性格クソ女が!!」
「性格クソはそっちよ、キレ症さん。その短気治したほうがいいんじゃないの? ま、この年になってまだ童貞貫いてる奴には無理…っと」

ガチャン!と派手な音を立て、テーブルにマグカップが叩きつけられる。もちろんそれはギアッチョがしたことで。彼は大きな舌打ちと共にリビングを出ていった。
言い過ぎたかもしれない、と少し後悔するも後の祭り。マグは割れてはいないものの、撒き散らされたカフェラテに溜息をついた。

「ただいま…っと、どうしたんだコレ」

部屋のドアを開けたのはホルマジオ。説明すれば、買い出しから戻ってきた彼はダイニングテーブルに買い物袋を置き、やれやれと笑った。

「程々にしとけよォ〜? あいつだって男なんだから、何すっかわかんねェぞ」
「そうね、殴られたりしたくないし。ちょっと控えることにするわ」
「そういうことじゃなくてな…ま、いいや」

また苦笑いを零す彼に首を傾げながら、ティッシュでそこら中に飛び散った液体を拭く。
それにしても、おちょくり甲斐があって面白い男だ。さて次はどうやって遊ぼうかな、などと考える私の頭からは、つい先程したはずの反省など綺麗さっぱり消え去っていた。


 ▽


ホルマジオが買ってきた食材を彼と一緒に冷蔵庫へ片付け、暇になった私は自室に戻ることにして階段を上がる。シエスタでもしようかと考えながらドアを開ければ。
――暗がりからぬっと伸びた手に、腕を掴まれて。

「っ!? ギアっ…」

明かりを付けずカーテンを閉められているとはいえ、今は真っ昼間だ。窓の上下や隙間から差し込む光がぼんやりと部屋を照らし、表情までは伺えないまでも、その特徴的な髪型に眼鏡は見間違えようがない。
そのままベッドに投げ捨てられ、両手首と両足首を氷で拘束されてしまう。暴れようとしたが肌を苛む氷塊に手や足を千切られてはたまらないと思い直し、それでも口だけは動かす。

「何するの!? 離してよ!」
「…さっき言ってたことだがよォ〜…」

ドアを閉め鍵までかけた彼は、ゆっくりと私の上に跨る。
そのままシャツを脱ぎながら顔を近づけられ、冷や汗が背中に流れた。冷気に混ざった怒気が、ピリピリと肌を刺す。

「本当に童貞かどうか、テメーに確かめさせてやるよ」

青筋を立たせ、瞳孔の開ききった目でこちらを捉えるギアッチョ。ひん曲がった唇はピクピク痙攣していて。これは間違いなく、ブチギレている。
やばい。非常にまずいことになった。レイプは犯罪ですよ、いやギャングに言うセリフじゃないか。現実逃避を始めた頭の中で、警鐘が鳴り響く。

「や、やだなあ! 何マジに…っちょっと!」
「うるせえな、自分で蒔いた種だろ」

腕と足の氷が解かれた、と思いきや手首は彼のシャツによって再び封じられる。
無遠慮にカットソーとインナーをずり上げられ、淡いピンク色の下着が丸見えになる。恥ずかしさに顔を反らした。
肌の上を手が這って。皮のフィンガーレスグローブの冷たさと、それだけではない感覚に身震いする。

「いやっ、触らな…っあ」

ブラのワイヤーの下を潜った指が、胸の頂に触れる。乳房もろとも揉みしだかれれば、次第に硬く尖り始めた先端。そこを掠められるたびに高い声が出そうになる。
背中にもう一方の手を差し入れられ、数秒後にはアンダーへの締め付けがなくなったことで、片手だけでフックを外されたとわかった。羞恥でどうにかなってしまいそうだ。

「意外と乳あんだな」
「黙っ、ふ、ゥ…」

下着を上へずらされ、口に乳首を含まれる。制止する間もなく、甘噛みされたり吸われたりを繰り返される。
嬌声は止まらず、抑えようにも手の自由は奪われている。それならばときつく唇を噛み締めた。

「ほら、ちゃんと声出せよ」

胸への愛撫は止まらぬまま、唇を舌で舐められて。それだけで強張っていたものが緩んでしまう。なんて単純なんだ。
顔を上げたギアッチョ。同時に手も離れてゆく。

「ふッ…あ…」

それが名残惜しい、なんて考えてしまう私は。
きっと、どうかしている。

「…クソッ、なんて顔してやがる」

ギアッチョが眉根を寄せた、と思えばぐいと唇を合わせられる。
ゆっくりと押し入る舌が歯列をなぞる。さっきまでの私なら噛んでやっただろう。だけど何故かそんな気にはならず、素直に応える。
頭がぼんやりと、まるで雲の上にでも浮かんでいるかのようにふわふわする。同時に、熱が燻る感覚も。
その間にも彼は私のスカートに手をかけていて。

「っい、や」
「何が嫌なんだよ。こんなに濡らしてるくせによォ」

下着姿にされた私は、せめてもの抵抗として身を捩って隠そうとする。
レースや刺繍が施された、ブラと揃いのショーツ。可憐な意匠とは裏腹に、布面積の少ないタンガであるそれは簡単にずらされてしまい。

「クク…糸引いてんぞ」
「や…っやだぁ…」

羞恥に体を震えさせる私をよそに、ギアッチョはグローブを咥えて外す。そんな一挙一動からも目が離せなくなる。
指がそっと秘部を撫でた。その僅かな刺激にも反応してしまう自分が憎い。

「クリとナカどっちがいい?」
「しらな…っあ!」
「ヴァベーネ、どっちもだな」

膨らんだ花芽を包皮越しに触り、同時に蜜壷へ指を挿入される。濡れそぼっているソコは訪れた快楽をたやすく呑み込んでしまう。

「ココがいいのかァ? それともココか?」

ざらついた手前の天井を擦ったと思えば、最奥の入り口をつつく指。その滑らかな動きに翻弄され、溺れてしまいそうになる。
手練手管のひとつひとつを見せつけるように攻め立てられて。童貞かどうか確かめるんならこれで十分だ、そもそもそんなことはどうでもいいんだからと声を上げる。

「も、わかったからぁっ…ゆるして、ねぇ」
「ナニがだよ?」

理解しているくせにすっとぼけるギアッチョを睨みつけたけれど、果たしてちゃんと眦を吊り上げることはできただろうか。
今何本の指が入っているのかすらわからない。蜜壺はそれほど蕩けきっている。大きく抉られてまた嬌声が漏れた。
この、ままだと、まずい。

「う、やめ…っぎあちょ、ァ!」
「素直じゃねェな、気持ちいいんだろ?」

絶頂してしまいそうになり、必死に首を振る私を嘲るように。この上なく悪い顔でにやりと笑った彼の、その表情が、胸に刺さって。胸がぎゅう、と苦しくなる。

「イけよ」
「っあ、あぁぁあああっ!」

まずい、と思ったときにはもう遅く。陰核と膣内、両方への刺激で達してしまった。脳の神経が焼き切れそうになるほど強い快楽に襲われ、身体を痙攣させる。
何とも言えない気怠さに包まれ、暫し脱力していたけれど。
金具の鳴る音に驚いて首を持ち上げる。するとベルトを外し、パンタローネに手をかけるギアッチョと目が合って。

「な、なに、してんの」
「決まってんだろ」

ボクサーパンツから勢いよく飛び出したモノの大きさに、思わず息を呑んだ。あんなのが、私の中に入るのか。心臓がいっそう大きな音を鳴らす。動揺を顔に出さないよう、恐る恐る口を開いた。

「まさか本当に、最後までするつもりじゃ…」
「アァ?」
「あ、謝るからさ! それ、だけは…っ」

初めてというわけじゃないけれど経験は少ない。片手に収まるどころの話じゃないほどに。だから、こんな奴に身体を赦すわけには、いかない。
抵抗も虚しく、閉じていた脚を無理やり開かされ、私の太腿の間で膝立ちになる。
ギアッチョの顔色を窺う私、なんて滅多に見れるものではないだろう。彼もそう思ったらしく、その表情が殊更楽しげに歪んだ。

「今更、何言ってんだよ、ッ!」
「待、ッあぁ…――!」

膣口を撫ぜていた亀頭が、一気にナカへと挿入される。指とは比べ物にならない圧迫感。予想に反して痛みはなかったけれど、代わりに強い快楽に苛まれ、思わず陰茎を締め付けてしまう。

「ッ…クソ」
「あああっ、だめ…っていった、のにぃ、あっ!」

繰り返される律動。先っぽで子宮口を捏ねられる度に膣が収縮する。熱く硬い怒張の存在がはっきりわかる、最奥まで貫かれている状態。大きすぎる快感と共に彼に侵食されているようで、こわい。
思わずギアッチョの名前を呼んだその唇は、また塞がれて。

「っふ、あ…っ!? い、ったあ…」

そのまま頬をなぞられた、と思いきやいきなり首筋に噛みつかれる。皮膚を裂くほど食い込む歯に慄いた。
犯されてるみたい、いや…みたいじゃなくて犯されて、るのか。自覚すれば甘い痺れが背筋を走り、我慢できずに自ら腰を擦り付ける。バレないよう、小さな動きで。

「ひ、くぅ…んうぅっ」
「腰揺れてんぞ、変態」

だがそれも指摘されて頬が熱くなる。ちがう、と呟いた声は自分でも驚くほど小さかった。

「なァ、これでわかったかよ? 童貞っつったの取り消すか? なまえチャンよォ」
「っわかった、わかったからぁ…も、やぁ、きもちい」

嫌だと言いながらも、脚をギアッチョの腰に絡める。その体温を、もっと感じていたくて。内襞が騒めき、ポルチオが先端に吸い付いた。
彼の四白眼が更に見開かれ、舌打ちが漏れる。

「ックソ、出すぞ…!」
「ひ、っあぁだめ、ギア…チョ、イくぅうっ…!」

今までとは違う、ガツガツと抉るような動き。無理やり絶頂まで連れて行かれるようなそれに持っていかれて、頭の中が真っ白になる。
彼も達したらしく、ペニスがナカでびくびくと跳ねる感覚がダイレクトに伝わる。中出しされちゃった、とは考えるものの熱に溶かされた脳ではそれすら快楽になるだけだ。
朦朧とする意識の中で、やっと終わった、これで開放されるなんて、考えていたのに。

「…っ!? らめ、っ今イってるからぁ! や、いじわるぅ…!」
「おめーが悪いんだろッ、煽りやがって」

続けざまに深くまでナカを蹂躙され、堪らずにまた達してしまう。これで三回目。今まで経験したことのない快感に翻弄されるばかりで、このままでは身が持たない。
息を整えていると、今更ながら手首の痛みに襲われた。

「腕…っいたいから、とって」

塞がれたままの腕を差し出すと、意外にもすぐ拘束を解かれる。もう逃げ出せないことを見透かされているようで、なんだか悔しくて、でも実際その通りだから何も言えない。
緩慢に彼の首へ腕を回せば、上半身を倒されて距離が近くなって。

「綺麗だぜ、なまえ」

耳元で囁く声に思わず赤面してしまう。ギアッチョがイタリアーノだということを忘れていたわけじゃあないけれど、私にそんなことを言うなんて思わなかった。また胸が苦しくなる。

「ハッ、いちいち反応してんじゃねェよ」
「う、るさ…っだってぇ」

私の熱を持った頬をからかう彼に抗議の声を上げる。だって、あんなギアッチョは初めてだったから。
どちらからともなく唇を啄む。舌が絡み合う感覚が、とてつもなく気持ちいい。

「キス、好きだろ?」
「ン…すき…ギアッチョぉ、すき」
「って、めー…!」
「な、に…っああぁ!」

楔を打ち込むような抽送に身体が揺さぶられる。自分がこのまま、ばらばらになって壊れてしまうんじゃないかと思えるほどのもの。ころされるんじゃないかと、本気でそう思った。

「ぁ、ん、あああぁ…う」
「締め付け、すぎだ、クソ…っ!」

喘いでいるのか呻いているのか、もはやわからない。垂れ流しの啼き声に満足気な顔をしたギアッチョ。その腰の動きがまた速くなる。

「ほら、ッまた出すぞ!」
「ひぁ、あ、あ! イ、ちゃうぅ…!」

再び、中に出されてしまって。いっぱいになった蜜壷あら、白濁がごぽりと溢れるのがわかる。
汗ばんだ身体が重い。疲れたし、そろそろ開放してもらいたいところだ。いつまで挿れてるつも、り。
ひゅ、と息を呑む。未だ硬さを失わないでいる中のモノが、再び最奥に押し入ったから。

「ちょ、っと…まさか」
「これで終わるわけねェだろ」

嗜虐的な笑みに顔が引きつる。ああ、頼むから嘘だと言ってくれ。
そんな願いが神に届くことは、どうやらなかったようで。

「安心しろよォ? 泣いてもやめてやんねーからよ…!」

――この日私は、二度とギアッチョをイジって遊ばないことを心に決めた。





 ギアッチョのあの服ってシャツ扱いで良いんだろうか


 

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