Masochistic
庵によれば、これは彼自身が嫌っている暴力などでは決してないらしい。
「っ、ア」
締められた首。息ができない。辛くて苦しくて、力なく手を伸ばすけれど庵には届かず。
また首を絞める力が強くなった。頭に血が集まりすぎて痛い。脳の奥がぼんやりと熱を持っている。
この苦痛が暴力ではないなら、愛情だとでも言うのだろうか。自分で考えて、それはないなと自嘲する。
「ぐ…っ、ゲホッゴホッ!」
指がようやく離れて。酸素を目一杯に吸い込み、咳き込む。
ラブホテルの一室。薄暗いベッドの上。裸の男女がすることなど一つだというのに、彼にとっては違うらしい。それともこの行為すらもプレイの一環だと言うのだろうか。
命の危機を感じて後ずさるが、それは簡単に阻まれる。
「逃げるな、なまえ」
「も、やめて…っ」
聞き入れてもらえないことなどわかっている。だけれど、懇願する他ない。そうしなければ、私は――。
いっとう昏い光を瞳に灯した庵が。喉を、鳴らした。
「お前だって、笑っている癖に」
うそ、と呟いた言葉は*がれ地に落ちて。頭がぐらぐらする。やめて、私はそんな人間じゃない。痛めつけられて悦ぶような人間じゃない!
そう思うのに。身体は――熱を持っていて。
現実から目を逸らすように、願いごとをするように閉じた瞼から、一筋の雫が滴り落ちた。
#言葉リストからリクエストされた番号の言葉を使って小説を書く より
「暴力、愛情、願いごと」で庵夢
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